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第2話

 翼羅沙(さらさ)燈禰(ともね)の胸に触れた。 「やめて……翼羅(さら)ちゃん………やめて……」  火傷痕がむしろ妖艶な美少年はやめない。己が立場を窮屈にさせた女の素肌に触れる。 「いや!」  燈禰は叫んだ。乳房が揺れる。冷たい指が先端を摘んだ。 「いい気味だな」  楡神を恨む男が鼻を鳴らす。 「やめて、翼羅ちゃん!どうして!」  火傷によって通常の指とは異なる質感が、すでに恐怖で凝っている胸の頂を撚る。 「う……」  美少年は造形の良い人形然として燈禰を触る。力加減も扱き方も手慣れていた。しかし官能が働かず、この場に於いてそこへの刺激はむしろ不快感である。 「触らないで……どうして。どうしてなの、翼羅ちゃん……」  年頃の少年との暮らしは気を遣ったけれど、燈禰は彼から邪な視線や言動や態度を浴びた覚えはなかった。むしろこの年の割にはそのようなことに一切興味を示さないところにある種の不気味ささえ否めずにいた。 「憎かったんだろうさ。日頃から。あんたが」  燈禰は天蓋みたいになって陰を作る人形を見上げた。硝子玉は何も語らない。ただ止まった。瞳孔が燈禰を捉えた。それがどこか人間臭い。桜色の唇が、桜の花が開くみたいに微かに震える。何か言う。 「楡神が女をどんな風に扱うと思う?憎くて憎くて、殺したいくらいさ!」  翼羅沙は結局黙っていた。焦点を合わせた先ももう分からない。硝子玉に戻ってしまった。 「翼羅ちゃん……」  それは憎んでいるのかという問いに対しての肯定だったように彼女には映った。 「引き取ってしまったのは、迷惑だった……?」  蝶が熱を冷ますみたいに、繁茂した睫毛が惑う。彼はやはり喋らない。損傷すらもそういう意匠の美しい関節人形である。 「そうに決まってる」  代わりに氏素性も定かでない男が応える。翼羅沙は止めた手を再び動かした。  「翼羅ちゃん……ごめんね」 「いいえ」  それは目の前の羽虫を握り潰すような呆気なさと素気無さであった。しかし彼なりに思うところはあったのか、異母兄であり母の愛人の本妻から身を剥がした。陵辱の暗雲は去ったかと思われた。だが須臾(しゅゆ)のことだ。翼羅沙は彼女の胸から腿の間に滑り落ちただけだった。 「翼羅ちゃん……!そんな……」  彼は燈禰のしなやかな脚から下着を奪い去ろうとする。必死に膝を折ったり、内側に入れて抵抗してみるけれど、楡神を恨む男から(はさみ)を手渡され、ショーツは布切れと化した。恥部がそういう関係ではない男2人に晒される。 「いや……、!やめて、見ないで!」  膝が暴れ、やがて折り重ねて彼等の眼差しから隠そうとするけれど、軽侮と冷嘲の視線は依然として露わになった秘部に注がれる。 「見ないで!見ないでよ!見ないでったら!」  燈禰はなおも暴れた。やがて瘢痕に覆われた手が彼女の膝をこじ開ける。 「やめて!」 「恥ずかしいところが見えてきたな」 「ああ!」  叫び声があがる。喉が痛んだ。彼女の喉はすでに灼かれ、擦り切れている。 「楡神の垢がついた孔なんざ、今更恥ずかしくもないだろ」  冷罵を背後に翼羅沙は母の愛人の妻の股ぐらに顔を埋めた。何の躊躇いもない。先程まで彼の後ろに立つ男が抽送して悦び、粘液を注いだ場所で、風呂にも入っていないというのに、彼はそこに鼻と口を接近させたのだ。吐息が敏感な部分やな吹きつける。 「あ……」 「ビョーキになるんじゃないか」  そこに翼羅沙の身を案じる気配は微塵もない。 「翼羅ちゃん……!そんなの、汚いわ……!」 「そうだ。楡神のモノが出入りした魚臭い孔なんて」  しかしケロイドが転写されたような人形は構わず肉木通に顔を付けたままだった。やがて舌先が牝嘴を転がした。 「あんっ」  鋭くも甘い痺れが走った。自身の声を聞いて、彼女は男の罵倒を恐れた。唇を噛み、さらに手で押さえた。鎖が冷たく皮膚の上を滑る。 「淫乱」  やはり悪罵は忘れずに降ってくる。 「ぅ………う」  だが身構えていたほど堪えないのは、やはり想定内であったからか、或いは引き取った哀れな孤児の口技のせいか。ある程度、亀核を揺らすと翼羅沙は奥へと沈んでいく。 「だめ………汚い、から…………翼羅ちゃん………お願い……!」  翼羅沙の髪を押し撥ねる。両手の間で鎖がちゃらちゃら軋んだ。しかし彼は反応しない。淫唇と接吻し、舐め(ねぶ)るばかりである。まるで電動のアダルトグッズだ。  彼は口淫を続け、燈禰自身から蜜を溢れさせるまで追い込むと、内部に迫った。舌先が壺口を穿つ。 「や………っぅうっ」  彼女は翼羅沙の柔らかな髪から手を離し、またもや口を押さえた。人形の甘いシャンプーの残り香が指から薫る。  一度内部を舐められると、そこから淫液が氾濫し、室内には水音が響いた。楡神を憎み、その妻を嘲弄する男にも聞こえているはずだった。そのことについて言及するに違いない。燈禰は眉根を寄せ、心を閉ざすよう努めるけれど、そのような余裕はない。鋭敏な粘膜を舐められ、吸われている。そしてそれに伴う卑猥な音が意識を散漫させる。 「う………んっ」  燈禰が身動ぐ。翼羅沙も顔を離した。緩やかに突き出された舌には粘糸が伸びている。おそらくその正体は彼の液体ではなかった。付着したものであろう。彼女は顔を真っ赤にして目を逸らした。 「イかせてやれよ」 「はい」  操り人形はケロイドに覆われた指を舐め、それから異母兄が正妻の柔肉に突き挿れた。 「あッ!」 「清純ぶるなよ。楡神と毎日、ヤりまくってたんだろ。今更、指くらいで……」  人形は燈禰の膣を指で弄る。彼女は腹をひくつかせて呼吸をし、男は愉快げに嗤っている。 「それとも、その汚い火傷(はだ)ですぐに飽きられたか?」  燈禰よりも広範囲にケロイドに覆われた翼羅沙に反応はない。燈禰はぐっ、と息を詰まらせた。夫の愛人の息子は火傷を負おうと美しかった。否。その火傷と境遇は美しかった彼を尚のこと美しく、そして妖しくした。しかし燈禰は、特別醜怪というわけでも、醜いわけでもなかったけれど、派手な美人というほどではなかった。多少の可憐さはあったが、目立たない。縹緻はよかったかもしれないが、その雰囲気や控えめな性格によって持て囃されることもなければ、誰もが振り返るという魅力的なところもない。そういう女と美少年では、ケロイドの持つ意味が変わってくるのだろう。男もそれを理解して言っているに違いない。ゆえに翼羅沙に対して忖度する理由もないのであろう。  楡神に対する八つ当たり、乱反射した怒りではない、直接狙われた憎悪を感じ取ると、燈禰は鶴嘴(つるはし)か何かで心臓を(えぐ)られるような心地がした。 「そんな瘢痕(もの)を見たら、男は萎えるわな」  目玉の裏が炙られたように熱くなっていく。目蓋が萎むようだった。視界が滲む。悲しみの澎湃(ほうはい)。だが阻止された。翼羅沙の指が激しく動く。暴によるものではない。そこには技巧がある。 「あっ!あっ、あっ!」  口を押さえておくのも、唇を噛み締めておくのも忘れた。 「あんっ、だ、め………っ!」  ぐち、ぐち、と音が鳴る。牝亀頭を巨擘(きょはく)が擂り潰す。すると媚泉が湧く。粘こい(せせらぎ)が際立つ。 「そこ、ヤだ………っ!」  外部と内部が圧迫される。即物的な強い快楽に腰が揺れた。踵がシーツを蹴る。 「恥ずかしい孔で恥ずかしくイけよ」  燈禰は無理矢理に高められた肉欲の発散と共に啼き叫んだ。沸騰した頭はすぐに冷えず、余熱で思考はぼやけている。 「まだへばるには早いから」  男の言葉に察するところがあったらしい。翼羅沙は指を引き抜いた。瀞みのある津液がてらてらと照る。そして部屋から出ていった。代わりに楡神を憎む男がベッドへと乗り上げた。無関係な他者として見れば美しい肉付き、均整のとれた体格をしていたのだろうが、この状況では恐怖の対象でしかなかった。  男の重みがベッドに加わり、ぎししと軋む。 「イくと孕みやすくなるらしいな?孕めよ。オレの姉貴があんたの旦那にされたみたいに、腹膨らませろよ」 「嫌……!嫌!嫌っ!」  燈禰は両手で男の身体を押す。しかしびくともしない。 「気が変わった。毎日犯して、アテてやる。あんたの魚臭いまんこにオレの種を注いでやるよ。それで孕めよ。望まない男のガキ、産ませてやる」  彼は燈禰の腰を掴んだ。 「やだ……っ」 「おまえに拒否権は、ない」  眼前に迫り、男は嘲笑う。そして腰のものを濡れた窪みに突き立てた。強制的に濡れ、刺激が止み、半ば乾きつつあった。熱く裂けるような痛みが走る。 「痛い!いや……!抜いて!」 「諦めろよ、アバズレ。楡神に身を委ねたバカ女」  男は容赦しなかった。猪突の如く猛々しく腰を進め、力尽くで一度は受け入れたものを再度奥まで咥え込んだ。 「あああ!」 「早く終わらせたいなら締めろ」  ウサギでも呑んだ長蛇が入ってきているようだった。内臓を押し潰し口から吐き出させようとするような挿入がなかなか終わらない。はたからみればそれば秒数で測れるものだっただろう。ところが当人からしてみれば非常に長い侵入であった。すべて収まれば肉体的な苦しみはとりあえず鎮まるものと彼女は高を括っていた。だがその挿入があまりにも長い。 「い………や!抜いて………!」 「楡神のオナホ孔で、あんたがヌいてくれたらな」  男はずん、と一撃入れた。 「あ……ッ!」  自身の肉の軋みを感じ取る。押し出そうと(うね)る。 「……っ、」  男はまだ青さの残る精悍な顔を歪めた。もう一撃、もう一撃と欲望が生まれるらしい。燈禰は突かれるたびに、結合部を締め上げてしまった。それが相手の男の要求でもあったはずだが、彼は眉間に皺を寄せて女肉を掻き分けて奥へと進む。 「い……たい!痛い!」 「さっきまで入ってただろ……!」  彼は燈禰の左右の手を繋ぐ鎖を潜った。まるで抱擁されにいっているようである。 「くる、しい……」  下腹部がクリーム状になったみたいだった。鈍痛がある。裂けた傷が揺れるのも痛む。 「苦しめ……もっともっと……苦しめ……!」  大きな手が首を絞める。今度は抵抗を許されているけれど、男の手を剥がすことはできなかった。彼の力加減は本当に苦しめるつもりらしい。すぐにでも扼殺(やくさつ)しようと思えば、その体格としても体勢からいっても容易であっただろう。しかし息苦しさを覚える程度の強さしか与えないのである。 「う……う、うぐ、」 「死ね!死ね!おまえなんか、死ねばいい!」  燈禰の身体は男に媚びていく。結合部は牡が望むように蠢き、膝は男の腰を挟む。苦痛がら逃れようと必死だった。その惨めな様を眼前に据えておきながら、男も苦しげに腰を打ち付ける。その肉体で女へ杭を打っている。 「や……だ、ああ………っ!」  ベッドの音が何よりも陵辱を生々しくする。  自宅であるはずの寝室が、知らない場所のようであった。  燈禰はベッドの上で(うずくま)って啜り泣いた。楡神を恨む男も、楡神に母親を弄ばれた哀れな孤児も、今はこの部屋にいない。  頭の中は真っ白のまま、声を殺してしゃくりあげる。自分が何故このような目に遭っているのか、彼女は理解が追いついていなかった。否、追いつかないであろう。  身動きをとると、男の出したものが冷たく胴の底を滴り落ちていく。それがまた彼女の涙を誘う。眼球ばかりが熱かった。  寝室の扉が開くけれど、彼女はそれが誰かを確かめようともしなかった。足音はない。日頃の行いからしてドアの開閉音はわざとであろう。つまり正体は分かっている。  燈禰の向いている方向にベッドサイドチェストがある。主にティッシュだの、マスクだの、使い捨てのホットアイピローだの、医薬品だのが詰まっている。その上がテーブル代わりになっていた。翼羅沙が盆を片手に彼女の視界に入ってくる。 「水をどうぞ」  翼羅沙はグラスを置く。そして燈禰のほうへ身体を向けた。執事然としている。 「ありがとう……」  彼女の声は嗄れていた。起き上がる気力もない。胃には水でさえも入れたいと思えなかった。グラスを持つのも面倒になっている。 「何故、言わないのですか」  硝子玉が一瞬燃えた。インクが真水に溶けていく刹那に似ていた。 「何を……?」  彼は目蓋を降ろす。失明を免れた文字通り紙一重の薄い皮膚は(まど)かな線を描き、長い睫毛が伏せる。するとその直後の双眸はできたての蜜煮みたいにしとどに光った。息を呑むほどの美しさである。 「いいえ」 「さ、らちゃん」  去ろうとする翼羅沙を呼び止めるけれど、喉が痛んで(つか)えてしまった。 「はい」  慣性の法則によってその華奢な体躯が揺れながらも彼は立ち止まった。水を飲むのは重労働に思えたが、彼女は気付くと身体を起こしていた。そしてどろりと落ちていく液体の感触に後悔する。 「おうちのことは……?」 「僕がやります」 「翼羅ちゃん……他に行くところがあるのなら、いいのよ。出て行きなさい。あのときは、良かれと思ったの。あなたの気持ち、考えてなかった」  目元がひりついた。炎症を起こしたみたいに鼻がむず痒い。喉は掠れ、声は隙間風めいている。 「いいえ」  彼の目瞬きはアゲハチョウの翅の開閉を彷彿とさせる。 「他に頼れるところは、あるの?」 「僕には燈禰 義姉(ねえ)さん以外に、頼るところなんてありません」 「……そう」  重力に逆らっているのも一苦労であった。彼女は身を横たえる。この愛人の息子にも、楡神の遺産は入っているはずである。しかし未成年だ。自由にはできないのだろう。 「出て行けというのなら、出て行きます」 「行く当てのない子供にそんなこと、言えるわけないでしょう」  それは善意でも良心でもない。今に至っては、ただ大人としての責任によるものだった。どうせ警察に補導されるなりして、ここに戻ってくる。余計な手間がかかり、不要な醜聞を曝すだけであろう。しかしその刺々しい本音を彼女は語調でも隠した。 「では、買い出しに行ってきます」 「お金は……?」 「あります」 「そう……足らなくなったら言いなさい」  彼は頷いて、行ってしまった。それから少しの間、燈禰は虚無の中にいた。目元は赤く腫れ、胃が引き攣った。水を飲んでみたけれど、気持ち悪くなるだけだった。 「おい」  寝室のドアが開くのと同時に威圧的な声が降った。燈禰の心臓は痛いほど鼓動する。激しい呼吸に、上手く酸素が取り込めなくなってしまった。トンネルに木枯らしが吹き荒ぶような音が寝室に轟く。 「なんだよ……」  男は燈禰の異変に面倒臭そうな様子だった。彼はベッドサイドにある水に気付くと、おかしな呼吸に肺を鳴らす女の首根っこを掴んで口元でグラスを傾ける。それは水責めの拷問だったのかも知れない。彼女は異様に深い息切れを起こしながら咽せた。すると今度は誤嚥した水を吐かせるつもりなのか、はたまた害意を持っているのか背中を乱暴に叩き始める。べち、べちと乾いた音は耳にうるさい。 「う……うう、」  肉体的な苦しみ、そして己を強姦した男に触れられる恐怖と嫌悪に、彼女の胃袋は爆ぜてしまった。汗を吸い、精の落ちたシーツに胃酸が撒き散らされる。そしてほとんどは床へと落ちた。 「勘弁してくれ」  男は額を押さえ、頭を抱えた。 「う……う、」  カエルに似た音を出して、二度、三度に渡って吐瀉する。灼けた喉がさらに灼けた。酸の味がさらに吐き気を催して嘔吐(えづ)く。口の中を濯ぐような唾液が止まらず、開き放しの唇から垂れていった。 「汚い」 「ご、め……っ、」  咳き込みながら、燈禰は反射的に謝ってしまった。ぼんやりとした頭で後処理のことを考える。シーツを剥がして、ティッシュペーパーと、除菌スプレーと。マットレスも洗わなければ……  彼女はのそりと立ち上がった。鎖が首輪を引っ張って、片付けなどできない身なのだと知る。 「あんたはここで飼われるんだ。逃げ出せるもんか」  男は口の端を吊り上げて嫌味ったらしく言った。燈禰は虚ろな疲れた眼差しを下方で泳がせる。 「それじゃあ片付け、やってくれるの?」  胃酸の匂いが立ち込めている。男はこのままにしておくつもりなのだろうか。 「楡神の義子(むすこ)がやるんじゃないか」 「あの子は雑用じゃないの」  疲労はその抑揚にさえ現れた。喉が痛いということもある。嗄声と相俟って悲惨さを強めた。 「飼うって何なの。飼うだなんて言葉使うなら、責任くらい持ちなさいよ……」  後片付けがそのときに叶わないとなると、やる気も削がれていく。吐瀉物の広がるベッドにまた乗って、横になってしまった。異臭に割く気力はないのである。 「おまえ!」  男はぎしりとベッドを喚かせた。燈禰を陰が覆う。声を荒げて凄み、腕を振りかぶっているが殴打はやってこない。 「殴るの?」  怯えがないといえば嘘だった。彼は燈禰を睨みつけ、拳を震わせている。 「ああ、そうだよ」  そして男は、燈禰の真横を殴った。風が頬を切る。 「飼うんじゃないわ。支配するんでしょう?それなら片付けなさいって、命令しなさいよ」  あくまでもここが自宅であること、そして相手が明らかに年下であることが、彼女をある程度強気で、優位にいるよう錯覚させた。そして心身の疲労が破滅的願望をちらつかせて半ば自暴自棄になっている。また翼羅沙のことを諦めきれない業めいた希望、期待も、彼女を空風のような勢いづかせた。 「調子に乗るなよ」  男は首輪に繋がる鎖を引き寄せた。 「おまえはオレの、性奴隷なんだからな」  大きく厚みのある手が彼女の脆げな(おとがい)を掴んだ。 「ティッシュはどこだよ」  彼は燈禰を突き飛ばすように放した。 「そこ……」  彼女はベッドサイドチェストを指した。男が抽斗(ひきだし)を開いた時、主に鼻を()むためのティッシュペーパーの箱の横に避妊具が入っているのを見てしまった。揶揄でも飛ぶかと思われたが、彼は何の反応も示さなかった。箱だけを取って、吐物を片付けはじめる。ゴミ箱にはすでにビニール袋が掛かっていた。中には丸められたティッシュが汚いポップコーンみたいに詰まっている。 「除菌スプレーは、台所……」  男はせっせと働いて、シーツを剥がした。床を拭き取る後頭部を燈禰は見下ろした。スタンドライトが叩きつければ助かるかもしれない。しかし彼女にはまだ現実味がなかった。悪夢の中にいるつもりでいる。それでいてこれが現実であると理性では分かっていた。  やがて翼羅沙が帰ってくる。彼は一目で状況を把握したらしい。燈禰の鎖をベッド柵から外すと、ケロイドに覆われた手に腕を引かれる。 「何……?翼羅ちゃん……」  男が横目で2人を捉えた。しかし何も言わない。 「浴室へ」  風呂場へ移ると、翼羅沙は燈禰の首輪を外してしまった。手枷も取っていく。 「あの人に怒られない?」 「構いません」 「構うよ。殴られたり、しない?」  翼羅沙はシャワーヘッドを持つと、湯加減をみてから裸の彼女に当てはじめた。 「自分で、洗うから」 「いいえ」  自身の服が濡れるのも厭わず、脂肪の少ない骨張って筋張った身体で後ろから抱き留め、彼は燈禰を洗い始めた。 「翼羅ちゃん……」  制服ではないが制服に似たような平服が色を変え、細作りな体躯に張り付いた。瘢痕の質感が身体を這う。上半身は湯を浴びせる程度であったが、シャワーヘッドが臍より下に落ちていくと、燈禰は強張った。 「そこは、自分で……」 「いいえ」  彼女の手はすでに翼羅沙の手を握っていたが、彼は譲ろうとしない。 「汚いし、恥ずかしいから……」  返答が厄介になったのか、この美少年は複雑な立場にある女の腿の狭間へシャワーを当てた。指が陰阜を破り開く。水流が敏感な肉蕊を打つ。 「あ……っ」  肌木通を開いていた手が、さらに奥へと進んで腿を開かせる。燈禰は火傷痕のある腕を挟んでしまう。日に焼けることのない白い柔肌が(たわ)む。 「シャワーヘッドが入りません」 「い、いい!いい!自分で……」 「いいえ」  彼は怒っている様子も不機嫌な様子も見せず、硝子玉を2つ嵌めた人形みたいな顔をして力を込め、脚を開かせた。シャワーヘッドがそこを通る。湯が粘膜を突く。 「あ……ああ!」  擽ったさに近い官能が湯と粘膜の境界を溶かしながら湧き上がる。彼女は細く薄い肩を握った。翼羅沙は燈禰を抱き寄せ、シャワーヘッドを持ち替えると、湯滝の中へ指を潜ませ、彼女の花襞を捲る。 「う……、や………だ………」 「洗います」  しかし洗浄にしては、指は悪さをする。痛みを与えることもなく、内外から図ったような技巧で淫らに揉み込んでいる。
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