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第1話

 彼女は雨の日の行き倒れを見つけてしまった。スマートフォンのライト機能で照らし出すと、どうやらそれは黒い猫らしい。赤い首輪に大振りなリボンが気取っているが、どこかに引っ掛けて首を絞めたり身動きが取れなくなりそうな不安を煽る。  ファンシーな小物のワンポイントみたいな身形の猫を鎌束(かまつか)環紀(たまき)は拾い上げた。 「ネコちゃん、捨てられちゃったの?迷子?」  抱き上げて頬擦りした濡れ猫は臭かった。 ◇  恋人が正座をして唇を窄めている。近付きつつあるが、接触しない。環紀から身を乗り出し首を伸ばし、同じく窄めた唇を合わせる。 「ひょよよよ、」  交際相手の室町(むろまち)凛愛太(りょうた)が顔を真っ赤にして身を引いた。 「りょたくん」  引いた分だけ環紀が距離を詰めた。開かれた腕に飛び込み、恋人を押し倒す。 「好き好き、まきちゃん、好き!」  彼は()し掛かった環紀へ、腹筋するみたいに首を(もた)げて頬にキスした。 「照れちゃうよ」 「ドキドキしてるね」  環紀はよく鍛えられた胸板に耳を押し当て、大好きな交際相手の鼓動を聞く。 「するよ……だって、いっぱい好きなんだもん」 「たくさん?」 「たくさん」  恋人はそう背は高くないが、筋肉質でしなやかな肉体をしている。小柄な豹の身体に愛玩されるため散々遺伝子を弄くり回された犬みたいな愛嬌を備えている。 「わたしも好き……」  環紀は同い年だというのに年齢の割りにあどけない凛愛太の目を覗き込む。今日こそは彼と……  ニヤアアアア!  少年めいた大好きな男も手を握り合えるその寸前で、環紀は部屋の隅のクッションで寝ていた拾い猫の咆哮を聞く。  小さな黒い影が跳んできて、環紀の好きな男の胸に消えていってしまった。そのとき、眩い光芒が彼を包み、環紀は目元を覆った。  そして目蓋を開くけれど、彼女は目を疑った。可愛かった、大好きな交際相手はそこにはいない。そこにいるのは、べったりとした黒髪から、言い方さえ変えれば艶やかな黒髪から鋭い角を生やした若い男がいる。ゆらゆらと長い尾が揺れ、先端は潰されて平たくなったおたまじゃくしみたいだった。日に焼けた肌はそこにはなく、一切合切日に当たったことのないらしい青白い肌で、いくらか野暮ったいが愛嬌のある可愛らしい顔もまったく別人になっていた。人を小馬鹿にしたような目遣いと笑みでそこにいる。 「だ……誰ですか?」  環紀は後退った。服装も凛愛太のものではない。異国情緒のある衣装を身に纏い、恋人とはまったく違う肉付きを見せていた。 「りょたくんは……?」  目の前でコウモリ然とした翼を広げられても、環紀は驚かなかった。それよりも凛愛太はどこに行ったのか。そちらのほうが重要である。 「りょたくんは、どこに……?」  環紀はそればかりだった。目の前の奇抜な身形の美青年ならば凛愛太の居場所を知っているに違いない。何故なら入れ違いに凛愛太は消えたからだ。 「すみません、りょたくんは……」  ばさり、と巨大コウモリの翼が羽ばたいた。甘い花の香りが漂う。 「貴様はそれしか言うことがないのか?」 「あの、りょたくんがどこへ行ったか知りませんか?」  角を生やした人間コウモリは、環紀に分かる言語を使っていたけれど、やはり彼女にとっては、この奇妙奇天烈怪々な生き物は二の次であった。大好きな恋人がいない。 「りょたくんは……」 「うるさいぞ、人間。ムロリオは獄楽園に帰った。おい貴様」 「帰ったって……りょたくんが?りょたくん、室町凛愛太っていうんですけど……」 「そうだ。あれはこの世の人間ではない。我輩が我輩に見合う結婚相手を探すために、下落大穢土に遣わしたのだ。それをやつめ、いつものドジで記憶を失った。そして何を勘違いしたか、我輩と契るはずの貴様と今から……けしからん!」  角の生えた人間コウモリは翼を使って見事に宙で胡座をかいている。  環紀は首を傾げた。凛愛太の知り合いらしい。それだけで、知らない男が突如家に現れたとしても、大して動じはしなかった。ところがこう訳の分からないことを並べ立てらては環紀も戸惑う。 「つまり、りょたくんは……」 「ムロリオは獄楽園に帰した。そして会う必要もない」  環紀は言葉を失ってしまった。 「喜べ、人間の女!貴様は:この獄楽界天帝王皇(ごくらくかいてんていおうこう)・レシアスの妻となるんだからな!」  マニキュアを塗ったような光沢を帯びた黒く鋭い爪の生えた手が、彼女へと伸びる。 「我輩と来るのだ!」  環紀は掴まれる前に避けてしまった。 「りょたくんに会わせて」 「ならん!」  彼女は少しの間、呆然としていたが、やがて部屋に不審者がいること、恋人が忽如として行方不明になったことが怒涛となって頭の中に流れ込んできた。奇人変人の爆誕によって、情報処理が滞っていたに違いない。  まず言葉の通じない危ない者に遭遇したとき……環紀の爪先よりも先に、速く司令のいった上体が急く。転びそうになりながら彼女はその場から逃げようとした。 「さぁ!我輩に忠誠を誓うのだ!」  レシアスとか名乗っていた奇美人は鋭い爪を伸ばした。禍々しい、もやもやとした暗黒物質めいたものがそこから放たれ、環紀を包む。 「あ……ああ………」  彼女の逃げ出そうとした身体がまた向き直る。足が勝手に動くのだった。不思議な仮装男の元へ、ぎこちなく身体が進んでしまう。 「()いやつよ」  彼の手の届くところまで来ると、長い爪の艶々とした指が環紀の頤を奪い取るがごとく掬いあげた。 「我輩の妻となり、愛に尽くすことを誓え」  環紀は唇にその爪を押し当てられながら、首を横に振った。 「何故だ?醜く短く死んでいくヒトの身など捨てよ。我輩に(かしず)くのだ」  鋭い爪の先端を恐れ、環紀は口を開けてしまった。そこに指がぬるりと入り込む。 「人間の分際で我輩に楯突くなど赦されると思うてか」 「りょ、りょたくん……」 「我輩の魅力は使い魔に劣る。そう言いたいのか貴様は?そうして我輩を嫌う素振りをして我輩の気を惹こうというのだな。獄楽園とやることは一緒よ」  レシアスは呆れたように口角を吊り上げ、そして環紀の頤を引き寄せた。 「我輩を愛せ、人間の女……」  唇と唇が重なった。環紀の目が虚ろになっていく。やがて目蓋が重そうに閉じていった。  環紀は背伸びをして鼻を慣らした。甘い香りがする。恋人が好きな木が薫っている。 「何をしているんだ、環紀。行くぞ」 「黎紫鴉(れしあ)様の好きな、金木犀の匂いがしますわ」  彼女の双眸にはどす黒い闇がかぎろう。黎紫鴉(れしあ)と呼ばれた背の高い男は、金木犀の匂いを探す環紀の手を取って歩かせた。 「黎紫鴉様、焼芋を買って帰りませんか?好きでしたものね」 「いい、いい、要らん要らん」  環紀は手を引かれながら首を傾げた。恋人はこの季節、焼芋やモンブランに目が無かった。それを要らないというのだから、一大事である。 「黎紫鴉様、季節の変わり目で、お身体を悪くしているのではありませんか?焼芋を要らないたなんて、黎紫鴉様らしくありません」  近くの八百屋の焼きたての芋を、帰り道の公園で食べたのは環紀の幸せな思い出だった。 「環紀。我輩は要らんと言っているのだ」 「……そうですか……………」  黎紫鴉の語気が厳しくなる。手を放されてしまった。環紀はしゅんとして、また半歩後ろをついていく。  最近、恋人と話が噛み合わない。これが環紀の目下の悩みの種だった。人が変わってしまったようである。以前は優しく、健啖家で、よく笑い、多弁だった。それが食が細くなって、静かで、怒りっぽい。手を繋いで歩いていたのも嫌がるようになり、並んで歩くと叱られてしまう。確かに道を塞ぎ、白線の外へ出てしまうのは危ないけれど……  目の前で、はらりとひとつ、塀から漏れ出た樹から、葉が落ちてきた。それを見た時、環紀はある決心をする。 「黎紫鴉様」 「なんだ。さっさと歩かんか」  今日のデートも叱られ、急かされてばかりで楽しくなかった。もう恋人は好きだった頃の人ではない。否、それは環紀から見た恋人ではなく、恋人からみた彼女についても言えるのかも知れない。つまり好意という有限で、四季みたいなものが尽き果てたか、移ろったのだ。 「黎紫鴉様。わたしたち、もう別れましょう」  彼の望んだ言葉だと思われたが、しかし振り向いた黎紫鴉は怕い顔をしている。 「ならぬ。貴様は我輩の(しもべ)。我輩が貴様を見切ることがあっても、貴様が我輩を見切ることは赦さん」 「でもわたしたち、きっともう終わりですわ。だって黎紫鴉様は変わってしまわれたんですもの……」 「焼芋ひとつで、くだらん」 「金木犀もですわ。デザートも許してくださらなかった。以前の黎紫鴉様は、わたしと会うたびにかわいい、似合ってると褒めてくださったのに。嬉しかったんですのよ……出会い頭のほんの一言でも。いただくのが当然になっていたみたいですの。だからこんな不満が出るのですわね。でも当然のように言ってくださるくらい、以前の黎紫鴉様はわたしを愛してくださったのに、今は……」  環紀はどす黒く渦巻く闇をその瞳に抱きながら俯いた。 「ならぬ!ならぬぞ、環紀……!」 「わたし、もう今の黎紫鴉様と一緒にいたくありませんわ。前のわたしを愛してくれた黎紫鴉様との思い出が大切なんですの。上塗りしたくありません」  どこへ向かうというのだろう。恋人とは同棲しているというのに、環紀は踵を返した。  彼女はとぼとぼと萎れた顔をして当てもなく歩いた。気に入りの秋用の靴が悲しくも小気味良い音を立てる。 「やぁやぁ、鎌束さん」  寺の前を通ったとき、石階段から降りてくる高下駄の音と爽やかな青年の声に、彼女はしょぼくれた顔を上げた。  小中高と同じ学舎に通った昔馴染みがそこにいる。彼の生まれは寺であるはずだが、山伏みたいな風采で世間から浮いている。長く伸ばした髪もやはり俗世から浮いていた。 「お久しぶりだけど、元気がないね」 「久しぶり……山兎嘉島(やまとかしま)くん。カレシと別れたくて……」 「別れられないんだ」  高下駄で器用に石段を降りきると、彼は環紀の前へやってきた。彼女は頷いた。寺生まれという特殊な出自のせいか、この知人には久々の邂逅にも気後れさせない安心感がある。環紀は小中高の時代に戻ったような態度をとった。 「なんだか急に人が変わってしまったような気がして……あんな人じゃなかったのに……」 「それはね、鎌束さん。君が取り憑かれているからだよ。なんの(まじな)いだろうね、これは。いけないなぁ」  この山兎嘉島(やまとかしま)あずみという男は突然、環紀の額に紙を貼り付けた。手で押さえつけ、もう片方の2本構えた指を唇に当てた。何かぶつぶつと言っている。  環紀は最初びっくりしたが、肩凝りに似た妙な重みが消えていくのを感じた。それから、視界の色彩が鮮明になっていくような。 「……あれ?」 「鎌束さんのカレシが来たみたいだ」  山兎嘉島は環紀の背後を見据えている。 「とんでもないのと付き合っているね、鎌束さん。良くないなぁ」  彼は走ってくる恋人に気を取られている環紀を一瞥して呟いた。 「……誰?」  環紀は自分を呼ぶ声に振り返る。しかしそれは知らない男であった。背の高い美男子に馴れ馴れしく呼ばれている。走り寄ってくるから彼女は恐れた。 「知り合い?」  山兎嘉島はその爽やかな顔に爽やか笑みを湛えて訊ねた。環紀は首を振る。 「怖いね。僕の後ろに隠れているといいよ」  彼は環紀を背に隠し、距離を詰める謎の美男子との間に割って入った。 「なんだ、貴様は。環紀、ほら、帰るぞ」  謎の男が環紀に気を取られたとき、山兎嘉島は彼の頭にも先程と同様にして札を貼り付けた。両手の指と指を交差させ、何やらぶつぶつと口を動かす。 「環紀……」  その時の、不審人物めいた若い男の一言は切なかった。  山兎嘉島が札を剥がした途端、謎の男の艶やか黒髪を掻き分け、鋭い角が左右から生えはじめた。そして背中と尻が膨らむ。否、布を押し上げていた。 「ぐぬぬ……!環紀……!貴様、謀(たばか)りおったな……!」  衣類が膨らんだことによって、角を生やした奇妙な男は苦しいらしかった。しかし身動きが取れないらしい。やがて大きく空間が歪んだかと思うと、美奇人の背部の布が四散し、コウモリめいた黒い翼が広がった。 「誰ですか……誰ですか………この人………」  環紀は山兎嘉島の背に隠れ、悪魔みたいな男を覗き見て、その恐ろしさに目を逸らす。 「鎌束さんが知る必要はありません。縛り上げて、懲らしめてあげないと……」  山兎嘉島は自身の長い髪の毛を1本、毟り取った。それを美貌の悪魔に投げつけると、発光して輪郭もつかめない縄となってその者を拘束した。 「ぐうう……環紀………!貴様………!ムロリオはどうなってもいいのか!」  環紀は怖いもの見たさにもう一度悪魔男を覗く。 「助けてよ!たまちゃん!助けてよぉ!痛い……苦しい………」  悪魔の顔がそのときばかりは環紀の奥底に訴えてくる、懐かしい姿と重なった。 「りょたくん……」  彼女の双眸がふたたび、どす黒いものを帯びはじめる。 「いけない、鎌束さん」  山兎嘉島の手には、人の形に切り取った紙が握られていた。しかし遅かった。環紀は山兎嘉島から悪魔を庇うように割り込んでいた。 「や、やめて……りょたくんをいじめないで!大切な人なの…………」  彼女の後ろで悪魔が苦しみながらも口角を吊り上げた。 「鎌束さん」  先程まで恐れていたくせ、両手を広げて悪魔を庇いはじめた環紀を、山兎嘉島は抱き寄せた。山兎嘉島と抱き寄せた環紀を中心に円が描かれていく。さらにそのなかに図形が加えられた。2人は粉塵に似た光に包まれ、そのうち山兎嘉島の背中には真っ白な翼が生え、環紀を包んだ。 「鎌束さん。これからは僕の言うことを聞くんだよ?」 「……はい」  山兎嘉島の身体から剥がされた環紀の目は虚ろであった。 「じゃあ、元カレを一緒に、中へ運んでくれるね?」 「……はい」  彼女は60kg、70kgはあろうかという悪魔を軽々と担ぎ上げた。 「環紀!環紀!貴様!赦さんぞ!」  悪魔の喚きが、環紀に聞こえている様子はなかった。彼女はやはり虚ろな眼差しで、道案内をする山兎嘉島についていく。  山兎嘉島の家の寺の宗派には祈祷があるらしい。環紀が導かれたのは祈祷所である。彼女はそこに悪魔青年を放り投げた。 「環紀!環紀!目を覚ませ!この!」  燦爛とした縄に縛り上げられた男が身をのたうたせて暴れた。 「鎌束さん。手伝ってくれてありがとう。これからこの悪魔を、たくさん懲らしめてあげようね」  山兎嘉島は小さな女の子を相手にするみたいに環紀の前で身を屈ませた。 「……はい」 「これから鎌束さんのご主人様は、僕だからね」 「……はい」  節くれだった手が、彼女の頭を柔らかく撫でる。 「環紀……!目を覚ませ!貴様は我輩に、忠誠を誓っではないか………!」 「うるさいカラスがいるようだね。踏んであげなさい、環紀」 「……はい」  環紀はきゃんきゃん鳴き喚いているカラスに足を置いた。脚と脚の狭間の膨らみを軽く踏む。 「環紀ぃっ……!貴様!貴様!我輩に、なんてことを……!」 「上手いね、環紀。そのままそっと足で摩ってあげなさい」 「……はい」  環紀は足を揺らした。 「爪先で揉んであげるといい」 「……はい」  悪魔の脚と脚の間のものは、足全体で摩擦され、爪先で軽く蹴られ、足の指で揉みしだかれ、むくむくと張り詰めていく。 「く………ぉ、お………おのれ、環紀……」  悪魔めいた男レシアスは縛られたまま、腰をぐい、ぐい、と数度突き上げた。山兎嘉島はそれを見て冷嘲している。 「お口の悪い子には、優しい子になってもらおうか」 「……はい」  環紀は足をレシアスから離した。すると彼女は、レシアスの服を捲った。しなやかな腹筋と、引き締まった胸板が現れる。 「環紀!我輩を助けろ!何をしておるのだ!」  彼女はレシアスの焦燥感に満ちた叱責を真正面から受けるけれど、聞いている様子はない。彼女は指を伸ばし、悪魔の胸板に小さく生えている薄桃色に触れた。 「き、さ、ま!」 「りょたくんここすきだった……」  環紀は辿々しく答えた。これには山兎嘉島は顎を抱え、感心の声を上げる。 「やめろ!やめろ!ニンゲンのオスには必要ないぃいっ!」  環紀の眼は虚空を映し、その表情は虚無であったけれど、彼女の手付きは恋人に施していたマッサージをよく覚えていた。接吻は常にファーストキスと紛うほどのぎこちなさで、恋人同士の交合いもまだだったというのに、可愛らしい恋人に構いたくて彼女は相手の胸をよく触っていた。恋人のほうでもそれを悦び、また被虐的なところがあった。 「りょたくん、ここきゅっきゅされるの、すきだった」  レシアスの胸の実粒が環紀の指の腹に数度轢かれ、それから摘まれた。彼女は二つの指の腹に力を込めて、柔らかさで締める。 「んひ、っ、たまき………っ、我輩は………っ、ぅひん」 「りょたくん、きもちぃ?」  環紀は片方はそのまま捏ね回し、もう片方には口を寄せた。 「てゃまき……っ、だめ、だ………っ!んひっ」  レシアスの色を濃くした突起に、環紀の歯が軽く刺さった。芯で弾んでいる。彼は首を仰け反らせ、頭が後ろへ転がりそうだった。胸を突き出したため、環紀は歯を立てた箇所を尖らせた舌先で掬う。 「んぉひ……っ、たまき………」 「りょたくんのおっぱい、ぷりぷりしててかわいい……」  環紀は嬰児のごとく、レシアスの胸を捏ね、乳を吸った。 「たまき……ぉ……おおっ!」  レシアスは縛られた肉体の、特に下半身をがくがく揺らした。 「はな、せ………はなせ………っ股が、おかしい………たまきィ!」  彼は下肢を忙しなく震わせる。 「環紀、やめなさい」 「りょたくん、おっぱいすわれてぴゅっぴゅするところみててあげる」 「環紀」  山兎嘉島にとっても、この環紀の行動は想定外だったようだ。彼は語気を荒げたが、環紀に彼の期待するような反応はない。 「りょたくんわたしがみてなきゃぴゅっぴゅできなくてつらいもんね」  環紀は息を荒げるレシアスの髪を撫で、その目元に口付けた。 「環紀!貴様!我輩を裏切りおって!」 「りょたくんぴゅっぴゅしようね」 「環紀!我輩の話を、」  環紀は首を傾げた。彼女はレシアスの胸で熟れた実を抓った。 「んぉっ!」 「りょたくん、おっぱいでぴゅっぴゅしたいの?わたし、がんばるね」  彼女はレシアスの頬にまた唇を何度か当てると、胸への刺激を再開する。山兎嘉島は興味深そうに環紀を見ていた。 「りょたくん、おちんちんつらくない?わたしみててあげるから、いつでもちこちこしていいんだよ?はずかちいところぜんぶみててあげるからね」  レシアスの小さな乳頭を嬲りながら、環紀は舌足らずに喋り、届く範囲のところにキスを浴びせる。これが環紀と恋人の幸せなスキンシップであった。 「ん……ぉ、たまき、たまき………股が…………!股がおかしくなる!たまき、助けろぉ!んおおっ」  悪魔は腰を揺らして、足と足を擦り合わせる。 「環紀、おいで」  山兎嘉島は悪魔の乳を吸う環紀の頭に手を置いた。彼女の虚空を望む目が見開かれた。 「そう簡単に満足させたらいけない」 「……はい」  環紀はレシアスから手を離した。口も離す。 「たまきぃ……」  レシアスは落胆に似た呻めきを漏らす。彼はまだ腰をかくかくと前後に揺ら、頻りに足と足を摩り合わせていた。 「いつもは、どういうふうにしているの?」  山兎嘉島はあざとく小首を捻る。環紀は何も映さない瞳を彼に据えるだけだった。 「教えて、環紀」  冷たい手が彼女の輪郭をなぞる。頭を抱えるようにしたかと思うと、耳を口を寄せてそう囁いた。 「ちゅっちゅするの。ちゅっちゅしてりょたくんのがおおきくなったら、みててあげるの。かわいいね、へんたいさんだねっていってあげると、りょたくんはあんあんってないてかわいくなって、おててがはやくなる……」  山兎嘉島は朗らかに笑っていたが、そこに淡い苦みが帯びはじめる。 「じゃあ、最後までしたことないんだ」 「さいごまで……?りょたくんはしろいねばねば、ぴゅっぴゅって、だすよ」  彼の手はあどけなく告白する少女みたいな女の頭を優しく撫でた。 「ぎ、さま……!我が妻を気安く、……触るでない!」 「ほら、環紀。君のカレシが苦しがってるね?男はああなると、出さなきゃ苦しいんだ」  幼児をあやすような調子で山兎嘉島は彼女の頭を軽く掌で打ちながら言った。 「りょたくん、くるしいの?」  環紀はレシアスへ虚ろな目を側めた。
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