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第3話

 御祓院(みそぎいん)の大きな手が、襦袢の上から胸に触れた。  白梅久の私室の奥の間には布団が一組が敷かれ、傍に小瓶だの懐紙だの手拭だのが揃えられていた。 「末世(まつよ)お嬢様……」  いくらか乱れた吐息が後れ毛を揺らし、耳殻を掠める。 「御祓院……」  このままでは、胸の鼓動が速まっているのが彼に知れてしまう。 「魍魎坂(もうりょうざか)の御子息は、動けないのでしょう?それなら、わたしが事を運ばねばならないのでしょう。これでは、予行にはならないじゃないの」  胸に重なる大きな手を、末世は剥ぎ取った。 「末世お嬢様……では、どうなさいます」 「寝なさい、御祓院」  彼女は振り返り、背中に当たっていた分厚い胸板を指でとんと押した。筋肉の反発がある。それが異様な感覚を与えた。白梅久も紅梅久も、そして蛙井も胸は薄い。男は胸が薄いはずだ。御祓院の体格は末世の観念を覆す。  御祓院は末世の華奢な指ひとつで後ろへと倒れた。頑健な肉体の上に彼女は乗り上げる。 「末世お嬢様……何を……」 「わたしが貫通すればいいのでしょう。大兄上はああおっしゃっていたけれど、魍魎坂家の忌まれ児といったって、所詮は魍魎坂家の御子息。何が怖いというの。破落戸(ごろつき)でもあるまいし」  末世は御祓院のがっしりとした腰の中心へと手を伸ばした。 「う、」  片手では握りきらない太いものが、わずかに首を(もた)げている。 「所詮は魍魎坂の御子息じゃないの。ザリガニのひとつでも釣れるのかしら?ミミズを摘めて?そんな殿方のどこを恐れろと言うの」  末世は御祓院の布を押し上げているものを握り直した。 「ぐぅ……」  掌に脈動を感じる。末世は気味の悪いものを不快げに見下ろした。 「腫れているけれど……何か処置をしたほうがいいんじゃないかしら、御祓院。虫にでも刺された?」 「末世お嬢様……男とは、こういうものなのです。女人に触れられると……」  日頃無表情な御祓院の顔は紅潮し、精悍(せいかん)な印象を与えるのに最も役立っている眉が情けなく下がっている。 「蜂に刺されたのではあるまいし」 「大きく固く膨らむのです。故に初めての女人には荷が重いのです。しかしこうならないことには始まりません。旦那様のお言葉の意味がお分かりになりましたか」  そこに平生(へいぜい)の御祓院の姿はなかった。子供が粗相でもして大人から咎め責められているような顔をして、頬を赤らめている。 「人の身体が、無事のまま、そんなに腫れるというの」 「そうなのです……!ですから女人は、それ相応の支度が要るのです。末世お嬢様……是非、この御祓院に身をお任せください……」  末世はまだ腫れ上がっていく御祓院の魁偉なものを眺めていた。どれほど大きくなるのだろう。彼女にも不安がないわけではなかった。しかし彼女にとって、これだけが女の身にできる禁龍寺の務めであった。 「貴郎(あなた)の力なんて借りません。わたしに触らないで!」  末世は御祓院の腰に跨がり、襦袢を左右に割り開く。 「末世お嬢様……っ!」  彼女はいずれ魍魎坂の"魑魅児(ちみご)"を迎え入れる場所に巨物の先端を押し当てた。 「ん……っううう!」 「お待ちください………末世お嬢様………お待ちを、」 「う、うぅ……痛いの?御祓院……」  重く質量感のあるものが末世の手の中に凭れかかっている。御祓院は目を泳がせてから、それを肯定した。 「まだ、交わる段階に入れていないのです……(わたくし)が………」 「ではどうすれば?」 「私の愚物が、愚物なりに天を向かなくては……」  彼は泣きそうな声で喋り、自身の顔面を片手で隠してしまった。 「では早くなさい」 「末世お嬢様……」 「わたしに何かできることがあって?」 「簪を、お解きになられたら……」  話題をすり替えられ、末世は仄かな腹立たしさがあったけれど、言われたとおりに簪を抜き取った。 「確かに、危ないものね」  艶画で見た体勢を取るのなら、頭にぶつかるかもしれない。  髪が落ち、毛束も癖を持って彼女を飾りつける。御祓院は哀れっぽく眉を歪めながらも呆然と末世を見つめた。寝る前の整然とした彼女とは違う。今このときの彼女の毛並みは(くしけず)りもせず、手櫛も入れていない。 「それで、わたしはどうしたらいいのかしら」  末世が邪魔な毛束を除けようと首を振ると、馥郁(ふくいく)とした髪油が薫った。御祓院は彼女に眸子を据えている。腰のものがさらに猛々しく膨らんだ。ついにそれが天を向く。末世は冷ややかに見下ろした。 「なった?」  彼女は白瓜みたいに太くなった御祓院の血肉へ腰を下ろす。粘膜と粘膜が触れ合う。  末世の溜息が静けな室内に大きく抜けていく。 「末世お嬢様……」 「お黙りなさいな!」  すぱん、と乾いた音がした。末世が、或いは御祓院が相手の頬を張った音ではない。  襖が弾かれたのだ。 「末世……!末世!なんて無茶を……!」  痩せ衰えた紅梅久が、病衣の裾を割り開いて駆け込んでくる。その時ばかりはぎらぎらと危うげな生気を燃やしていた。遅れて白梅久もゆったりとした足取りでやってきた。  末世は病人の細腕から発揮されるとは思えない力で御祓院の上から回収される。 「白梅久様……あんまりです。あんまりです。末世は生娘なのですよ。このような大柄な丈夫(じょうふ)を相手にさせるなんて……」  紅梅久は腕の中に妹を納め、髪を撫でながら禁龍寺の当主を叱責する。 「御祓院は忠実な男だよ、紅梅久さん。力尽くで無理矢理に手籠にすることはない。その点に於いて僕は、御祓院に絶大な信頼を置いている。ご覧のとおり」  白梅久は身形を即座に整えて控える御祓院を一瞥する。 「だからといって……このまま末世が無理をしたら、魍魎坂との取り決め以前の問題になるでしょう!」 「うっふっふ。ここまで彼が……つまり、中身の純潔振りに僕も驚いているくらいだ。これは人選に誤りがあったかな。すまなかったね、御祓院。部屋に戻りなさい。暫く休むといい」  御祓院はたじろぎながらも顔を伏せ、部屋から出ていった。 「大兄上……わたくしは、」 「君は悪くないよ。僕の人を見る目が甘かった。この場合はむしろ正しかったのかも知れないけれど、目的にはそぐわなかった。君の責ではない。僕の責だ」  紅梅久と白梅久が、多少の窶れ具合や髪の艶に差はあれど、似通いすぎた顔を突き合わせて、無言の会話をしていた。  紅梅久が動いた。末世を後ろから抱き上げ、その脚を開かせる。 「兄様……っ?何を……」 「末世。悪く思わないでおくれ。おまえは傷付くことになるだろうけれど、儀式だと思って欲しい」 「恨むのなら要領の悪い僕を恨むことだ。御祓院も紅梅久さんも悪くない」  白梅久は自身の爪を眺めてから、布団の近くにある小瓶を取った。 「末世……すまない。赦しておくれ」  膝の裏を押さえる指は痩せ細り、瑞々しさの失せた皮膚が柔らかな彼女の肌を弱く痛めつける。 「君が何を思い、誰に憤るのか、それは今はどうでもいいことだ。末世。僕を見なさい。僕の言うことを聞き損じないようにね。今は、今やるべきことを僕はする」  小瓶から漏れ出た透明な粘液が白梅久の手に纏わりついた。 「末世。当日も同じような小瓶を用意しておくから、君は魍魎坂の(せがれ)の前でも、事前にでもいいけれど、今からやることをやって、準備するんだ」  彼は指を動かして透明な液体を行き渡らせる。そして末世の開かれた箇所に潜ませた。 「大兄、上……っ!」 「普通は相手の男がしてくれる。舐めるなり、何なりしてね。けれども君の相手はそうではない。君の想い人なら、君が好きなように学べると思えたけれど……」  長兄の節くれだった指は、御祓院のものを押し当てただけの場所に粘度のある水めいたものを塗りつけていく。 「どれだけ慣らしても最初は痛いかもしれない。血が出ることもある。それでも末世……君の想い人なら……」 「あ……っあぁ………」  兄の手のはずだが、得体の知れない感覚に恐怖した。人に見せないところを露わにしている羞恥はとうに消え失せ、兄ではなくなってしまった禁龍寺の当主を前に茫然自失としている。 「御祓院は僕には意見するけれど、君には逆らえないらしい。本当にかわいい男だよ」  白梅久の指が、中へと押し入った。 「あっうぅ!」 「痛いね。でも我慢なさい。まだ切れる様子はないから」 「大兄上……」  そう圧迫感も重量感もない、むしろ細枝みたいな嫋やかな兄の指で、末世は息も絶え絶えになっている。 「大兄上……」 「なんだい」 「御祓院を、どうか………お叱りにならないで………」 「叱らないよ。どうしたんだい、急に」  彼女は苦痛に喘ぎ、白くなりつつ頭の中に己の悪業が映し出され、懺悔したくなったのだ。 「御祓院は、わたくしを止めようとしてくれたんです。でもわたくし、意地を張って……」  白梅久は妹が話している間も、指をゆっくりと中へ進めた。 「御祓院は君に逆らえないのだから、彼に怒って仕方がない。怒ったところで彼は処罰も受け入れて、僕のことも君のことも恨まずに耐え忍ぶさ。そういう男だよ。君が彼を憐れんでやれるのはいいことだ」  根元まで入ったらしい指が、今度は内部で曲がりはじめた。 「う、うう……」 「末世、末世……大丈夫だよ。大丈夫だからね。にいさまがここにいるのだから」  紅梅久にとって、市井の娘ならば嫁に行くなり婿をもらうなりしている年頃の妹は、まだまだ幼子であった。 「そういえば、魍魎坂の倅はなかなかの美男子らしいよ。顔立ちだけみれば……なかなかの朗報じゃないか。けれど末世、君は少しそちらを見る目に昏いようだから、君はどう思うか」  白梅久が困惑気味に口元を綻ばせ、妹の内部で指を広げていく。 「う………う、うう…………」  唇を噛むと、長兄の空いた手が捩じ込まれた。 「噛みなさい。憎い憎い、僕の手だ」  末世は首を振った。兄を噛めるはずがない。 「君が自分を噛むことより、僕には何の痛みもないことだ。末世、噛みなさい」  彼の手は轡のように末世の口を塞ぐ。 「君の痛みを、僕にもちょうだいな」  腹の中に入る指が増やされる。 「う………ふ、ぅ、うう………」  兄の肌に歯が突き立つ。それを堪えようとするが、すでに顎を自分で御することはできなくなっていた。末世は混乱と不安で涙ぐむ。 「君は何も悪くない。不甲斐ない僕を罰しておくれ。何ひとつ、僕は力になれないのだから」  脚と脚が裂けそうである。末世は閉じられない口から涎を流し、はくはくと顎を開閉させた。人は本当にこのようにして産まれ堕ちるのであろうか。だとすれば男は鬼畜生ではあるまいか。女をこのようにして、子を産ませるのならば。そして素知らぬ顔をして子を抱き上げているのだ。女も阿呆だ。このような痛苦を叩き込む鬼畜生にその後も身を委ねるのだから。いいや、女の身で子一人を立派に育て上げられるはずもない…… 「末世。白梅久様を噛みなさい。平気だから……白梅久様はすべてを赦してくださるよ」  紅梅久が後ろで囁く。 「う、うう………――」  末世は違和感の残る腰を屈め廊下を歩く。壁伝いに歩き、身体を打ち付ける様は、深傷(ふかで)を負ったふうである。彼女は月に雲のかかる絵が描かれた襖を開けた。その態度からいって兄の部屋ではないようだ。そして彼女も無断で入ろうというのではない。合図を忘れたのだ。  襖へ背を向けて座る恰好の御祓院が非常に驚いた様子で振り返る。しかし末世の有様を目にすると、飛ぶように立ち上がって、彼女の介助に回った。 「末世お嬢様……いかがされたのです!」 「貴郎(あなた)に謝っておきたくて……」  青褪めた顔色をしながら、彼女はそれでも禁龍寺の威厳を取り繕うとするものだから、痛々しい感じであった。とはいえ病身がさらに凄味を持ち、ある種の霊感に訴える魅力を備えた紅梅久には遠く及ばない。 「末世お嬢様が、(わたくし)に……?何故……」 「貴郎の前で意地を張ったでしょう。貴郎は、真っ当に事を運ぼうとしただけなのに……」  御祓院はまだ驚きから覚めていない様子だ。 「末世お嬢様……」  末世はこの忠義に厚い使用人の肉体に縋り付いた。 「やり直させて……その、貴郎の都合ご悪くなければ……」 「しかし……」 「大兄上と兄様から…………ある程度の説明は受けたのだし、慣らし方というのも……だから……」  御祓院は見たこともない弱りきった、情けない表情をしている。 「無理にとは……こういうのは、殿方の頃合いというのがあるようだし……」 「い、いいえ、いいえ。無理ではございません。そんなわけはないのです」 「それなら良かった」 「ただ、今度は私が慣らします」  末世の目は睨むように御祓院を捉える。 「もう慣らしてあるのだけれど……」  すると御祓院の瞳が泳ぐ。 「そ、それは……いいえ、いいえ、直前にもう一度…………自分で言うのもおかしな話ですが、(やつがれ)は、少し他の人よりも大振りなようですから……」 「分かった。貴郎に従うわ」  御祓院はぎこちない挙措で布団を敷いた。そして恭しく末世をそこへ促す。 「御祓院」 「大切にいたします……無理はなさらないでください。痛く苦しかったら、すぐにおっしゃってくだされ」  末世はまともに彼を見なかった。直したばかりの着物を脱いでいく。帯が畳へと落ちていく。御祓院は呆けたようにそれを眺めた。 「御祓院……」  布団の上で胡座をかく御祓院を、心身共に準備のできたらしい末世が肩を押して倒した。 「どの程度慣らしてあるのか……失礼ですが、確認させてください」  末世は襦袢の裾を左右に開いた。御祓院は彼女の晒された素肌に目を見開いた。そこに妖しいかぎろいが潜んでいる。 「触ります」  声が掠れている。末世は眉を顰めた。兄2人の協力のもとに拓かれた場所へ、筋張った太い指が入ってきた。 「ぅう、」 「痛いですか」  指の進行が止まる。末世は首を振った。白梅久の指とは圧迫感も体温も違う。 「別の場所を同時に触ります。失礼します 」  入ってきている指とはまた別の指が、確かめられている場所の付近を擦った。 「あ……っ」  大男の割りかし細い腰の辺りで跨る末世の膝が震えた。白梅久には触れられなかった箇所を柔らかく抉るようにされて、下腹部に不思議な痺れとも浮遊感ともいえないものが走ったのだった。 「な、に……?どうして……」  声が上擦る。御祓院は同じところをもう一度刺激した。 「あ、ん」 「女人はここで悦楽を拾うそうです」 「それ………こ、わ………い……」  御祓院はしかし彼女の怯えを聞きはしなかった。指のさらなる侵入を甘い痺れに隠す。 「ぁっ、それ、ぃや……」  口では拒絶をしていた。実際、未知の感覚に不安があったのも本当だろう。しかし末世の腰は御祓院の指に、その箇所を押し付けてしまう。 「んあァ、……」 「もし魍魎坂家の御子息となさる際……痛かったら、ここに触れてくださいませ、ご自身で……」  末世は目を空ろにし、話を聞いているのかいないのか分からなかった。 「でも、」 「女人はそうしてこちらを潤ませ、男を受け入れる準備をするのですから、大切なことです」  御祓院の拇指(おやゆび)が、末世に説明し試すものから、本格的に次の段階に取りかかるためのものへ変わっていく。つまり彼は継続的に末世の脚と脚の間に潜む蕊を擂った。 「あ、んっ、あっ!」  中にある指が滑らかに動く。 「痛くありませんか」  御祓院の問いに、彼女は答えられなかった。聞いてもいなかったかもしれない。下腹部に広がる鋭くも甘美な痺れに意識が集中してしまっているらしい。内部で起こっていた圧迫感も()うに消え失せているようである。 「末世お嬢様……」  揺らめく腰と上擦って掠れる声の下で御祓院のものが(たちま)ち張り詰めて、今にもその肉体を貫こうとするほど天を向いていることに、末世はまったく気付かない。 「御祓院……」  艶やかに鳴いていた末世がやっと兄の信を得ている使用人を思い出した。御祓院は手を止める。 「はい、末世お嬢様……」  蕩けた双眸と、燃える双眸が搗ち合う。 「本当に、これで合っているの……?だって、兄上は……」  彼女は無防備に訊ねた。それはやはり、この御祓院という男が兄から厚く信を置かれているからであろう。そこに妹も甘えているのだ。年上の寡黙で仕事熱心な大男に対する無自覚な憧憬もそこにはあったのかどうか。 「末世お嬢様……それは兄上だからです。指導や家名といえども、越えてはならぬ一線だからです。御祓院の不甲斐なさが招いたことですから、お兄様の名誉ためにも、そして末世お嬢様のみ心のためにも、つい先程あったことはお忘れください……」  末世は幼女になったみたいなこてんと首を前に倒して頷いた。 「痛かったらおっしゃってください。引っ掻いても結構です」  御祓院は禁龍寺の娘を貫く肉鉾に手を添え、彼女の細腰を支えた。 「御祓院」 「ゆっくりで大丈夫ですよ、末世お嬢様」  末世は徐ろに腰を落とす。粘膜と粘膜が触れ合うまでは、先程も至っていた。それからである。大きなものを腹で呑むのに末世の腰が引けている。 「末世お嬢様……」  御祓院の手が末世の前の小さな芽を摘む。 「あ、ぁんっ……」 「こちらに集中してください」  だがつらくなるのはこの男のほうだったであろう。末世は媚声を漏らし、接触した箇所は濡れながら蠢く。御祓院は眉間に皺を寄せ唇を噛んでいた。敏感な部分を焦らされている。突き上げたい肉の衝動と闘っているに違いない。しかしこの忠義の男は耐え忍んだ。 「う……んんっ、あァ、」  確かな色濃い快感と、圧迫感と引き攣れるような熱い痛みが綯い交ぜになって、彼女は混乱している。 「末世お嬢様……」  気を抜けば彼の目から理性の灯火は吹き消されそうであった。腰を浮かしかけては、尻を布団に押し付ける。生娘を力任せに犯すわけにはいかないのだろう。寡黙で淡白、無愛想な男の額にも、痛みや暑熱とは異なる汗が滲んでいる。 「ん……あ、ぁッ」  逞しい指が肉芽を捏ねる。弾かれ、摘まれ、擦られ……  末世の腰が揺れ、膝が力を失い、徐々に血潮の荒れ狂う槍へ落ちていく。圧迫感と焼けるような痛みが危ない錯覚を起こしている。前の小さな核粒によって誑かされている。彼女はそのまま自らの意思で下肢を降ろした。目を瞑ろうとも目蓋の裏で視界は明滅し、頭の中が爆ぜる。 「ああああっ!」 「末世お嬢様……!」  御祓院は彼女の腰を圧し折ってしまいそうなほど両手で抱いた。 「あ………あ、あ…………」  身体が熱いだけ、接合部の冷たさに気付く。息ができずに、肩が上下している。臓物を押し上げられ、脚と脚が左右に千切れてしまったみたいな感覚だった。彼女はおそるおそる自身の腿に触れ、下半身が取れていないことを確認した。 「末世お嬢様……お気を確かに」 「ぁ………う、ううう………、平気………」  彼なりにこの純潔だった娘の痛みや圧迫感をできるだけ誤魔化そうとしているのだろう。御祓院は彼女のなめらかは肌を摩った。 「平気よ…………平気…………」  内側から喉を灼かれたらしく、その声は掠れている。茫然としながら呼吸のたびに(そよ)いでいる。  御祓院は相変わらず怒ったような顔をして、布団へと爪を立てた。彼は今にも貴種の―貴種か下種か問うことなく、慕っている小娘を突き上げたい欲求を抑えるのに必死であるようだった。 「御祓院……これで、いいの?」  少しずつ、末世も巨物に慣れてきたらしい。まだ苦しそうな息遣いではあるが、喋れるまでにはなったようだ。 「はい…………挿入は。しかし、まだ終わりではありません」  彼女は艶画しか知らない。遊び人のきらいがある長兄が街の洒落た女を連れてくることは確かにあった。しかし彼は双子の弟や歳の離れた妹にその点に関して気を遣っていた。身内に対する恥じらいもあったのかもしれない。つまり彼女は、人間の交尾の全貌を知らないのである。房事は男児が主導のもと行われるのが常だった。少なくとも禁龍寺では。ゆえにこの点についての教育は男児にのみ施される。魍魎坂家の取り決めとその内容が異例だったのだ。 「終わりじゃ……ない?では、次は何を……」  末世の表情は困惑していた。彼女なりに、彼女なりの無理難題へ虚勢を張っていたのだが、まだ他に成すことがあるというのだから気の毒なものだった。
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