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第2話

 後ろからの抱擁に驚いてしまった。それは構造として抱擁であったりしかし朋夜(ともよ)にとってはどうだったであろうか。仁実(ひとみ)の病没後、義理の叔母を疎み、避け、厭悪感に満ち満ちていた。それは彼女にとって抱擁ではなく、拘束だったと解釈されても無理はない。このまま担ぎ上げられ玄関の外に放り出される展開が待ち受けていると想像を逞しくすることもまた彼女にとって難しいものではなかった。 「ご、ごめんね、京美(みやび)くん。いきなり弟が来ちゃって、怒ってるよね。ちゃんと言わなくてごめんね。今度は前もって知らせるから……」  朋夜は戦慄いた手で腕を剥がそうとする。しかし締め上げる力は強まっていく。息苦しさはその腕力のためか、気難しい甥に対するすまなさのためか、彼女にも分からない。 「もう寝るね?赦してね。ごめんなさい………」 「震えてるけど、寒いの?」 「さ、寒くないよ」 「そう。朋夜叔母さんって、いつも謝ってばっかだよね」  久々に呼ばれ、いくらか安堵した。安堵したつもりでいる。しかし身体はまだサイレントモードの端末の如く振動している。 「ご、ごめっ………あ……えっと…………」 「ほらまた謝った。そうやってテキトーに謝ってその場をやり過ごして、俺と向き合うつもりなんか無いクセに、これからも保護者ぶる気なんだろ?」  息苦しさ故に呼吸が荒くなる。口呼吸に変わった途端に身体に回っていた腕が動く。口腔に指が2本突っ込まれる。 「ぁふッ、」  指は彼女の舌を摘み、引っ張り、捏ね繰り回す。口元に意識を集めさせられ、それでいて今度は首にも違和感を覚えた。肌を吸われている。痛みに近い疼きが起こる。 「京美く………ん」  温い湿り気を残し、吐息が皮膚を撫でていく。また別の箇所を吸われた。ちくりとした痛みが走る。 「何………して…………っ、」 「なんだろうね?血の繋がりもない若い女と2人きりにされて、頭がおかしくなっちゃったんじゃない?」 「え?」  京美が嗤っている。表情こそ見えなかったが肌を駆けていく息で分かる。 「――そんなワケないだろ、年増女(おばさん)相手にさ」  後ろへ引き摺られていく。強制的に後退させられ、京美の部屋に初めて入った。夜景と、PCの明かりに頼った暗い部屋で、他の部屋とは違う匂いがした。 「京美くん、何……?」  視界が半転する。転倒していたが、衝撃は弱い。背中に当たる感触は柔らかく、繊細の擦れる音が鳴る。 「ねぇ、朋夜叔母さんさ……、もし俺が20歳になったとき、出ていけって言ったら、本当に出ていくつもりなの?」  起き上がることは叶わなかった。ただでさえ暗い視界がさらに真っ暗になる。 「う、うん。もちろんだよ。誕生日だけお祝いさせてね。そうしたら、もうその夜には出ていけるようにするから……」  彼は両肩の骨を粉砕する気であるまいか。朋夜は徐々に増していく痛みと義甥(ぎせい)の拒否に怯む。 「それで出ていったら、仁実叔父貴とのことはどうするつもりなの?」 「京美くんの希望どおりにするよ……仁実さんのこと、もう忘れて欲しいって言うなら忘れる。京美くんが関わって欲しくないっていうなら、そうするから安心して」  やはりそれは仁実が生前望んでいたものとは違うだろう。しかし京美を尊重するのもまた、仁実の望むことではなかろうか。 「叔父貴のこと、好きじゃなかったのかよ。金目当て?タワマン住めて、働かなくて済むから?」  吠えるような溜息を吐かれる。ベッドが軋み、両肩を圧迫していた手が離れた。  考えたこともない。ただタワーマンションに住むことは仁実と婚約が決まってから知り、専業主婦であって欲しいことも拒否権はあったけれど仁実の意向である。しかしそこに恋愛が介入しなかったのは本当である。なにしろ仁実が天条(てんじょう)奏音(かのん)と破局して間もなかった。そこに恋愛の生じる隙はない。一個人として好きだった。夫を大切に想う気持ちを持ち合わせているつもりもある。しかしこの場に於いて"好き"に当て嵌まるものかは判然としない。婚約前はただの上司と部下であった。それも直属の関係ではない。 「うん……………」  ベッドに腰を下ろしていた京美は髪を掻いた。そして今度は細く深い息を吐くと立ち上がる。 「出ていけよ」 「出ていくのは京美くんが20歳になってから……」 「今夜はあんたと同じ屋根の下に居たくない。1日くらい、顔見ないで済む日が欲しい。それもダメなのか」  朋夜は京美の背中をぼんやりと見ていた。鈍臭い叔母に彼は焦れたらしい。腕を掴まれ、部屋から追い出される。目の前でドアが閉まるだけでなく施錠の音がした。 「京美くん……」 『奏音(かのん)さんなら、心から叔父貴を愛してくれたよ』  板越しの声は曇って聞こえる。 「そう…………だね」  何故仁実が京美の言う人物と結婚しなかったのか朋夜の知るところではない。 「明日の夜に帰ってくるよ。おうちのこと、よろしくね」  部屋に戻ると適当な鞄に必要なものを詰め、寝間着にコートを羽織った。少し値段は高くなるがタクシーを拾って帰るのがよい。  マンションを出て少し歩いた。外は寒く、吐く息は白い。マフラーを忘れたことに気付いたが、しかし取りに戻るのは面倒だった。タクシーのよく通る道まで出ていく。人気(ひとけ)は皆無ではなく、また土地柄それなりの明るさは確保されていた。歩行者専用道路も広い。この後すぐにでもタクシーに乗れたなら大型駅の最終電車1本前くらいには間に合いそうである。  手を挙げて通りかかったタクシーを止めた。大型駅までは近い。このまま大通りに出て10分もかからない。交通量も人通りも濃密だった。改札まで少し離れているが渋滞に紛れ込む前に降りる。駅前では歌唄いがマイクを握ったり、アコースティックギターを弾いている。その中で朋夜が歩きながら目を惹いたのは男性2人組の路上シンガーだった。片方はボックスに座り、もう片方が後ろに控えるように立っている。後ろで立っている方は両手を握り合いハミングしている。上体が横に揺れるリズムがどこかレトロな印象を与えた。まだ高校生か、高校を出たばかりの少年といったあどけなさがあるが、この時間帯にここにいるとなると成人なのかも知れない。  後ろから流れるコーラスを聴きながら改札口を抜けた。  実家に帰宅したのは日付が変わった頃である。弟の神流(かんな)が気紛れに寄るくらいであるからそう遠く離れているわけではない。  弟は寝ている時間に違いない。メッセージは入れなかった。しかし玄関扉の前まで来たところで自動ドアの如く勝手に開いた。小さな燈火に弟の姿が色濃い影を作った。 「お姉ちゃん!」  17歳の高校生男子である。170cm前後だが顔の小ささと華奢さで長身に見える。そういう人物がべったりと姉に抱きついた。 「寒かったでしょ!ストーブ点けておいたんだ」  ホテルマンよろしく荷物を受け取って神流は姉の腕を引いた。 「ごめんなさいね、神流ちゃん。明日も早いんでしょう?急に帰りたいだなんて言っちゃって……」  玄関ホールに入ると弟は鍵を掛けた。彼は莞爾(かんじ)として姉の帰宅に機嫌を好くしている。姉の(あずか)ら知らないところで大人びていると言われる麗貌は彼女が見ているときはいつでも幼い。 「何言ってるの。ここはお姉ちゃんの実家(おうち)でもあるんだし、いつでも帰ってきたらいいじゃん」  彼は姉のコートを脱がせる。その下の寝間着が意外そうだった。 「もう寝るところだったんだ。京美兄さんと何かあったの?」  朋夜は、この弟が何かを発見し、すんと冷えたことにも気付かない。 「何もないよ」 「喧嘩、した?」 「ううん、してない」  朋夜は優しく弟のさらさらとした髪を撫でた。若さか、整髪料や加工の有無か、或いは母の遺伝の差異か、あまりにも柔らかく毛並みをしている。 「お姉ちゃん」 「うん?」  頭に乗せた手を剥がされる。年頃である。子供扱いが嫌だったのかも知れない。 「冷えてるね。早く身体温めないと」 「うん。神流ちゃん、明日も学校でしょ?待っていてくれてありがとうね。もう寝ないとじゃない」  リビングへ腕を引かれる。ストーブの音が低く唸っている。 「お姉ちゃんは、明日は?」 「夜に帰るよ」  朋夜はソファーには座らず、フローリングに腰を下ろす。すでに空気が温まっている。 「じゃあ、僕が送っていく!帰ってくるまで、待っててくれる?」 「大丈夫よ、ひとりで帰れるから。ありがとう。夕飯だけ作っておくね。お父さん、また出張なんでしょう?」 「うん」  父は義息子の葬儀に出てすぐにまた海外へ飛んだ。朋夜にとっての継母、弟の実母も数年前に他界した。彼には寂しい思いばかりさせいる。  少し(しおら)しくなって頷く。気が変わった。 「やっぱり明日、送ってもらおうかな。でも平気?無理しなくていいからね」 「お姉ちゃん」  広い家に一人暮らし同然の弟はやはり寂しいらしい。久々に姉が帰ってきて、べたべたと纏わりつく。頬擦りさえした。京美が20歳になるのはもうすぐそこの未来であるが、それまでにも彼に乞うて弟を出入りさせようか。朋夜が頻繁に実家に帰るのでもいい。 ――夫婦の仲に口出すことじゃないけど、まだ実家のほうが恋しいの?叔父貴と一緒に居てやったらどうなのさ。  朋夜の温い考えは払拭された。目を見開いた。弟は敏く彼女の変化に気付く。 「やっぱりなんかあったの?お姉ちゃん」  彼の腕が首の真横を通って背に回る。抱き付く弟が可愛らしい。 ――仮面夫婦ってわけでもないんだろ?  2人きりでの初めての会話が甦る。すでにその頃から毛嫌いされていたのだ。仁実の妻が美しく聡明な天条奏音でないことに落胆していたのだ。 「なんでもない。ちょっと眠くなっちゃった。そろそろ寝ようか。寝るの遅くなっちゃったね。布団掛けてあげる」  神流は母に似たため、父は同じでも朋夜とはあまり似ていなかった。そういう顔が鼻先に迫る。朋夜の脳裏に皿を割った時の出来事が過った。焦点が合わなくなるほどの至近距離に義甥がいたのだ。唇に触れた弾力が爛れたみたいに思い出される。 「神流ちゃん?」  ストーブによって空気は温かい。しかし身体は冷めていく。義理の甥を頭の外から追い出した。 「お姉ちゃんが好き」 「うん。わたしも神流ちゃんが大好きだよ」  余程寂しかったのだ。歳の離れた弟を哀れに思う。義理の甥はもうひとりで生きていけると豪語しているのだ。少しは手を離し、その分は弟に充てるのが良いのだろうか。彼女は色素の薄い艶やかな髪を梳く。 「お姉ちゃん」  視界いっぱいに弟が入り込む。ぼやけた。唇が柔らかい。京美の姿と重なる。朋夜の(まなじり)がはち切れそうになった。 「あ……」 「お姉ちゃんが好き………、お姉ちゃん………お姉ちゃん!」  可愛い弟だったはずだ。20代半ばと10代後半の姉弟にしては幼いコミュニケーション、スキンシップだったけれども、弟の哀れな境遇は姉の目を曇らせていた。今でも朋夜にとって神流は小学生くらいの男児に変わりなかった。 「神流ちゃ……っ」 「お姉ちゃん、好き。好き……」  弟の奇行に朋夜はたじろいだ。彼は口を離すたびに好きだといい、夢中になって姉の唇を吸う。 「神流ちゃ……ッん、」  口腔に弟の生暖かく湿ったものが入り込む。それが舌であることは即座に判じられたけれどもまったく知らない感触だった。荒れ狂っているようで力を奪われる技巧に彼女は抵抗ができなくなっていた。未だに現状が呑めていない。身体を押さえつけて必死に唇を吸い、舌を絡めるのはいつまでも幼児同然に思っていた実弟なのだ。  キスが解かれた。一瞬だけ視線が()ち合う。弟は姉の胸の膨らみを揉んだ。 「何を……」 「お姉ちゃんは僕のだよ……?」  寝間着の下はブラジャーをしていない。コートを着るため気に留めなかった。両胸の頂が肌着と寝間着を小さく押し上げている。そこに指が乗った。異様なくすぐったさが二筋、身体の奥を走り抜ける。 「神流ちゃん………やめ、」 「お姉ちゃん」  置かれていただけの指が短い間を往復する。 「んあ……あっ、くすぐったい………から、」 「くすぐったい?くすぐったいだけ?」  胸の上を往復する動きに慣れたかと思った途端にまた別の動き方をした。今度は上から突くようで、じんわりと深い痺れが広がる。 「ぁ………っうぅ」 「お姉ちゃん」  甘えた声は可憐である。守らなければならない対象だ。 「神流ちゃん………だめ……………」  神流は首を振った。彼は姉の寝間着を捲り上げる。 「いや……っ!」  素肌を晒す前に彼女はパジャマの裾を引っ張った。弟は潔く手を引いた。 「京美にいさんとはデキるのに?血が繋がってないから?血が繋がってなかったなら、甥っ子ともデキちゃうの?」 「え……?」  何故そこで京美の名が出てきたのか、朋夜には皆目見当もつかなかった。 「それとも新しい恋人がデキて、京美にいさんに追い出されたの?」  訳の分からないことを言われている。この状況も、弟の意図もまるきり分からない。頭がパンクしそうだ。 「何言ってるの……?」 「首のキスマーク、誰につけられたの?ねぇ、誰?僕のお姉ちゃんなのに……!」  朋夜は咄嗟に首に触れる。痛みはない。しかし執拗に肌を吸われたことを忘れたていたわけではない。 「これ………は、」  誤魔化しようがない。猫が、―しかし猫など飼っていないことは神流も知っている。 「僕のお姉ちゃんなのに……!僕のお姉ちゃんなんだよ?僕のお姉ちゃんなの!」  無防備になったパジャマが左右に大きく開かれた。ボタンが飛ぶ軽快な音がした。 「神流ちゃん!待って!」  弟は待たなかった。姉の豊かな胸を揉む。薄い肌着の上から突起を摘まれると、朋夜は甘い痺れに腰を揺らした。 「あ………っ、」  口に手を当てる。片親違いとはいえ弟に聞かせる声ではない。  両胸を淫らに甚振られながらやがて弟の桜色の唇が近付いた。 「あ、んっ!」  布越しに吸われている。脳が麻痺している。下腹部に異様な熱が集まっていく。 「神流ちゃん、もう寝んねの時間だよ…………?寝よう?」  膝と膝を擦り合わせる。妙な感じがある。 「寝ない。お姉ちゃんと、セックスする」  側頭部を殴られて脳震盪を起こす、物理的ではないけれども、そういう衝撃だった。高校生である。知っていてもおかしくはない。むしろ多分に興味を抱く年頃であろう。しかし姉弟間に於いては適切ではない。 「神流ちゃん、あなた、寂しいんでしょう」  幼い頃に母を亡くし、父は仕事熱心で家に居ない。二人で暮らしていた姉も嫁いでしまった。若いうちからこの少年は独りである。 「寂しいよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは僕より義兄(にい)さんのほうが良くて、だから京美おにいさんのほうがいいんだもんね。僕が一人暮らしになってることなんか、今まで忘れてたんでしょ」  ふざけて言われたことならば何度かあるが、寂しいと真っ直ぐ打ち明けられたのは初めてだった。 「そんなことない……そんなことないよ、お姉ちゃん、神流ちゃんのこと……」 「いいよ、別に。もうお姉ちゃんは僕のお姉ちゃんじゃないから」  布の色が濃くなっていく。ぷくりと勃ち上がった部分に浅く歯が減り込む。 「ぅんっ」 「これからは僕のカノジョだよ。お姉ちゃん…………」  朋夜の両腕は、華奢な弟からは想像もつかないほどの腕力で纏められ、彼女はもう胸を舐め(ねぶ)られることしかできなかった。さらには片腕が、彼女の脚と脚の間に埋められていく。 「だめ……っ、神流ちゃんっ!姉弟(きょうだい)で、こんなこと………!」 「僕はお姉ちゃんのこと、血縁者(きょうだい)だなんて思ってないもん」  いつまでも子供だと思っていた指は、誰のものか分からなくなるほど成熟していた。柔花に触れ、いやらしく手折られる―…… ――……リビングのソファーの座面に横たわり、朋夜は弟を体内に受け入れていた。彼のリズムで前後する。口元を押さえて声を殺す。京美が帰ってこないよう強く祈った。早く終わらせなければならない。早く終われば、義甥にはこの(おぞ)ましい関係を知られずに済む。すでに深い侮蔑の念を抱かれているのだ。これ以上蔑まれるのは耐えられない。 「早く……終わらせ、て………」  願望が口に出る。可愛かった弟はもうこの世にはいない。血を分けた禽獣がそこにいるだけだ。 「お姉ちゃん、僕のことやり過ごしたいだけでしょ」  力を込めて締め上げれば弟の肉体が悦ぶ。そのために朋夜は結合部を狭めていた。羞悪と罪悪感が無いわけではない。ただ、こうなってしまったからには、京美に知られるよりはいくらか選択する価値がある。  弟が知らない顔をして嗤った。彼はよく喩えられる言葉を使うならば朋夜にとっての"天使"であった。小悪魔というフレーズでは収まりきらない可憐さではあったけれど、その清らかさはまさに宗教画や彫像などにある天使であった。それが今や淫情に染まりきっている。  投げ出していた手を握られ、抽送が速まった。 「あっあっあっあっ!」 「お姉ちゃん……女の人は、(ここ)子種(パパ)を選んでるんだよ。僕に感じるってことは、お姉ちゃん、僕のこと、旦那(パパ)にしてくれるのかな?」  快感が生まれていく。初めての感覚に戸惑い、涙を流す。夫とはこうして交わらなかった。元交際相手のことを朋夜は知っていた。仁実も甥を託すための結婚によって1人の女の人生を奪うことに後ろめたさがあったのだろう。世間でいう"夫婦の営み"は綾鳥夫妻にとって夜景を観ながら音楽を聴いて茶を、医者が許す時には酒を酌み交わすことに取って代わった。酔っても醒めても、彼は謝り、詫び、礼を言うばかりであった。  「初めては好きな人と」。ありがちな甘酸っぱい台詞が鋭利な刃物となって朋夜を滅多刺しにする。片親違いの弟に手籠にされた。否、もしかすると抵抗できたのではあるまいか。あの過ちは回避できたのではないか。拒否が足らなかったのでは。そもそも拒んでいただろうか。 「僕のこと見てよ、お姉ちゃん」  得体の知れない感覚が臍の奥で爆ぜた。頭が真っ白くなる。突き入れられている弟の一部の形が分かるほど引き絞ってしまう。肌を引っ掻くような指が彼女の腰を固定した。 「お姉ちゃん、好き……!」  鼓動の下で別の脈動がある。 「だ………め…………………」  弟の子種が腹の中に広がっていく。ソファーの繊維に爪を立てる。 ――おれは子供要らないよ。家系的に短命なの分かってるし、さ。それに妻に子育て丸投げになるのが分かり切ってるのに、無責任だ。  絶望というには、京美のことを考える余裕があった。仁実の口振りからいうと、京美もまた夫同様に四十路(よそじ)前には病没する運命なのではなかろうか。短い人生に於いて、20歳を待つわずかな期間も彼にとっては彼以外にとっての人間と同じではないはずだ。 「お姉ちゃん……好き、好き」  弟を振り払う。これはもう弟ではない。禽獣だ。脱がされたものを身に付けた。 「お姉ちゃん?」 「気が済んだなら帰りなさい。他の女の子にこういう乱暴したら許されないんだからね」  口にしてみて恐ろしくなった。他に被害者がいるのではないか。否、家庭内で完結させたのか……いずれにせよ悍ましい。弟の麗しい顔面は、ボールペンやサインペンの黒で塗り潰されたように朋夜の目には入らなくなった。猛烈な嫌悪が彼女をそうさせてしまった。 「あはは、まだ足らないよ、お姉ちゃん」  聞いたこともない声を上げて彼は哄笑する。 「散々ひとの性癖狂わしておいて今更逃げるとかやめてよ、お姉ちゃん」  服の皺を引っ張っているうちに弟は姉をもう一度ソファーに突き飛ばした。ぎゅむ、とクッション素材が喚いた。起き上がる間もなく追い詰められる。 「全部搾り取ってやる。姉さん。旦那死んで甥っ子とよろしくやる気なの?」  口火に噛み付かれる。彼は可愛らしいぬいぐるみみたいな貌をして中に恐ろしい怪物を飼っていたらしい。 「神流ちゃん……」 「あんた1人幸せになるなんて赦さないからな、姉さん」  正面から顔を突き合わせ、逸らすこともできずに弟と交尾をする。彼が楔を抜き差しするたびに白濁した粘こい液体が溢れ出る。 「神流ちゃ、ぁっ、」  首を吸われ、胸元を吸われ、また唇を吸い、どこもかしこも色付いていく。 「あっ、あっんっ!」 「イきなよ、姉さん。旦那の家でさ」  鋭敏な肉芽が捏ねられ弟を締め上げる。浅ましくも実弟から子種を乞おうとしている。 「あ、あ、あ、!」  前後不覚に陥るほどのピストンに翻弄されていく。ただ彼女に与えられたのは暴力的な淫楽のみだった。
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