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やがて、立派な洋館の前に降り立った。 「お手をどうぞ、祈璃?」 銀の髪をもつその青年―――フェルアンと名乗ったそのひとは、悪戯に笑んで片手を差し出す。 「っ………どうして私の名前を……………、」 とまどい交じりに呟く。 「入れよ。そうしたらぜんぶ説明してやるから」 ハディクが告げる。 「………祈璃様」 『フリート』と呼ばれていた青年が、眼鏡のむこうの瞳でなにかを訴えた。 (ここは、従ったほうがいいみたい………。) 差し出された手にみずからのそれを重ね、彼女は足を踏み入れた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇ 「………どうぞお掛けください。いま紅茶を淹れますから、」 フリートが戸棚から紅茶の缶を取りだし、彼女に告げる。 (どうしてお茶の準備なんか………、) 浮かべた問いを読みとったフェルアンが、微笑みながら告げる。 「………『深刻な話ほど、固くならずに』。僕らの決め事さ」 やがて、温かな湯気の立ち上るカップと ちいさなケーキが用意される。 「さて。君は教会で生まれ育ったと聞いているが、これは真実かな」 紅茶をすすりながら問われる。 「は、はい。 礼拝堂に捨てられていて、そこのシスターたちに育てられました………、」 ぎゅ、と両手でカップを包み込む。 そのおもては怯えに染まっていて、思考が冷えていく心地がした。 「………やはり、君はなにも覚えていないんだね」 切なげな言葉は、彼女の耳をかすめなかった。 「え………?」 「いや………何でもないよ。 ではまずは………君が置かれている状況について話そうか」 一度カップを置いて、彼女をみつめる。 「この世には、もうひとつの世界がある。それは『夜界』というのは聞いているね?」 頷くと、彼は言葉を続けた。 「君はね………その世界の【篝】に選ばれたんだ」 「【篝】………?」 そう、と彼は微笑む。 「女王になるべき存在を、僕らはそう呼んでいる。君はいわば次期女王候補なんだよ」 「…………!!」 みひらかれる紅玉。 恐れを熔かすように、ちいさな手を包み込んだ。 「君は篝に選ばれたとき、特別な力に目醒めている。 それゆえに天使たちに狙われているんだ」 「で、でも私………そんな力なんて………………、」 唇に冷たい指先があてられる。 「いずれ君にも理解るさ。………でも」 すっと跪く。 そして手の甲に唇を押し当てた。
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