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約束をしていた美術館へとつま先を目指す。 「祈璃! こっちこっち………!」 彼はすでに入口の前で待っていて、慌てて靴の音を響かせる。 「零………。ごめんなさい、待った………?」 「あぁいや、俺も今きたとこ。―――行こう」 そう言って手を引く。 入口をくぐったとき、誰かの視線を感じた。 (え………?) さっと視線をさ迷わせるけれど、誰もこちらを見ていなくて。 (気のせい、だよね………?) 思考から追い出すと、入口をくぐる。 後ろ背を追いかける視線に、気づかないままに。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 美術館のなかには、たくさんの人がいた。 誰もが描かれた名画に見入っていて。 「…………っ」 そのうちの一つの絵画の前で、ふと靴の音をとめる。 玉座についた一人の女性の傍らに、天使と悪魔が傅いている。 ひとりは彼女を守るように抱きしめ、髪に口づけて。 もう一人は瞼、また一人は鼻梁に唇を押し当てて。 あるいは首筋にキスを贈っていた。 「(どうして………? 何処かで、この人達を知ってる気がする………、)」 思わず手を伸ばす。 額縁にふれた時、誰かの声をかすめた。 『祈璃、忘れないで………。』 「っ…………!?」 きょろきょろと瞳を巡らせ、そこで異変に気づいた。 「あれ………零? 他の人達も………。 どうして私だけ………?」 先刻までいた幼なじみはおろか、大勢いた筈の別の客もいなくて。 広い館内に、自分ひとりだけ。 「…………っ」 急に不穏が胸をかすめ、急いて出口を探した。
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