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「祈璃、………祈璃。これから外出するのではなかったのですか」 ゆるく揺すられ、ぼんやりと瞼をひらく。 開いたままの本が、色硝子の鮮やかな光に照らされている。 読書の途中で、眠ってしまったらしい。 「ん………ありがとう、シスター・マリエ」 起き抜けの紅玉がふわりと和む。 そのさまに笑みを返しつつ、彼女は呟く。 「行っていらっしゃい。ご友人は大切にすべきですよ」 「………!! ありがとう、夕方までには帰りますから、」 ふわりと桜色をゆらし、自室へとつま先を目指す。 彼女のいなくなった礼拝堂で、数人のシスターたちがマリエのほうへ駆け寄ってくる。 「ミセス・リーエ、本当に彼女を………?」 わずかな祈りを込めて問うけれど、返ってくるのは説き伏せるような言葉だけ。 「えぇ。………これは、あの子のためなのですよ」 あの人から託された幼子。 叶うならば、ずっと此処で守りたかった。 ………だけど。 「私達の役目は、時が来るまであの子を守ること。 それ以上の過ぎたことは許されていないのですから………、」 そう言って微笑んだおもてがあまりに寂しげで、年若いシスターたちはそれ以上問いただす事ができなかった。 「………『我、世のため散らす。 この灯火儚けり、されど愛を湛えし運命の娘、ふたたび荒れし世を救いけり』」 聖醒書の一句を口にする。 悲しげに唇を噛みしめ、ただ名前を呼ぶことしかできなくて。 「ミセス・リーエ………、」 黄昏の光に染まり、窓辺を美しく彩る色硝子のなか 有翼の女神と彼女をあるじとする姫騎士アイライシャが優しく見下ろしている。 かつて魔と聖なるモノたちが血を流しあっていた時代に、世界を救ったと伝わる聖女たちだった。 (たとえ、この先になにが遭っても………、) あなたは、「あなた」のままでいて。 自分らしさを失わずに、駆け抜けていきなさい。 エステレラを握りしめ、祈りのように思考に載せる。 ふたりの聖女だけが、動きはじめた定めを見守っていた。
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