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カボチャの馬車で愛されました。

 大量飲酒及び薬物の過剰摂取(オーバードース)による嘔吐。  そこからの吐瀉物による窒息が直接的な死に繋がったのだろうと警官は門田に伝えた。  自殺をするつもりはなかったのだろう、完成した立派なカボチャの馬車がそれを物語っている。  けれども警察は自殺と断定、芸術家の卵であった彼女は自ら生命を絶ったことにされてしまう。  助けを呼ぶ(いとま)も与えられず、気道を詰まらせ苦しみながらこの世を去った二十歳の美大生、海老原美花の変わり果てた姿が発見されたのは課題〆切日の翌々日だった。  真面目な彼女が授業を無断欠席した上、単位に繋がる大事な課題提出日まですっぽかす、二日経っても連絡がつかない。  実家で暮らしているという老齢の親をはじめ、心当たりのありそうな場所に問い合わせてもなしのつぶて。  もう大人だし、心配するほどのことではないと大学側は突き放した反応をしていた。けれど、なぜだか胸騒ぎがするこの異常事態に門田は動いた。杞憂でも、彼女の姿をこの目で確認したかったから……  警察の手を借り、彼女が暮らすアパートの扉を開いた。饐えた臭いが充満するワンルームの奥に、彼女はいた――血と汚物にまみれて冷たくなっている状態で。  抱き起こそうとする門田の手を冷静な警官が「手遅れです」と止めた。  ……課題提出日から丸二日が経っていた。  眠っているように見えても、もう、彼女は息をしていないのだと、ようやく理解した。  襲われても構わないと自分からキスに溺れてはだかの胸を摘ませてくれた美しい花は、儚く散ってしまったのだ。  周囲に転がるチューハイの空き缶や空になった錠剤のPTP包装シートの山を見た瞬間、絶望と深い後悔が門田を襲う。  もっとあのとき、ちゃんと向き合えていれば、彼女はこんな莫迦なことをしなかったかもしれない。  強がっていた彼女を、甘えさせてあげればよかった。  お酒に逃げるほど追い詰められていたなんて。  眠れないのなら、研究室で眠らせてあげればよかった。  ひとり、こんな場所で息絶えさせることなどけっしてさせなかったのに。なぜ……  あまりにも呆気ない、早すぎる若き教え子の死を前に、涙さえ凍る。  あとはもう、表情を押し殺して事務的に処理をするだけで、精一杯だった。    * * * 「さびしかった、くるしかった、あいたかった……っ」  堰を切ったように溢れ出すカミラの本音が、美花の最期の言葉だったのかもしれない。 「教授……呆れちゃうでしょ。わたし、死にたくて死んだわけじゃないの、よ?」  ただ、淋しかったから。早く朝が来るようにぐっすり眠りたいと思ったから。  深酒したあたまで大量の睡眠薬を飲んだら、身体が拒否反応起こして、吐きだして、吐いたもの詰まらせて……莫迦みたいだ、わたし。  ぐずぐず泣きじゃくるカミラを抱きしめたまま、クロードもまた、「すまない」と謝る。 「最後までしたら、手放せなくなる……せめて卒業するまでは我慢しようと、自分の都合で君をがんじがらめに縛りつけていたのは俺のほうだ」 「ううん、教授は悪くない……前世のわたしが、あまりにも愚かで」 「でも俺は、そんな愚かな君のことが忘れられなくて。シンデレラとして王子様と幸せにさせてあげないといけないのに、魔法のちからで君をカボチャの馬車に閉じ込めて、ひどいことをしている」  バツが悪そうに自嘲するクロードを見て、そんなことない、とカミラは首を振る。  そして、恥ずかしそうに小声でねだる。 「もう、王子様なんてどうでもいい……教授、わたしを罰して。もっと、ひどいことをして?」    * * *  研究室の片隅で戯れたときのような愛撫だけでは足りないと、カミラは自ら腰を摺り寄せて自ら黒装束を脱ぎ捨てたクロードを誘惑する。  カボチャの馬車の、深緑色のソファの上で。  さっきまでカボチャの蔓が巻き付いていた両手足を自由に動かして、カミラは被さってきたクロードの身体を受け止める。裸体のがっしりとした筋肉の付き方や下半身にあるいきり勃った陰茎からして、前世の彼に比べると魔法使いの肉体はずいぶん若そうだ。前世同様貧乳のカミラは恨めしそうに彼を見つめて苦笑する。 「転生するなら、胸も大きくなっていればよかったのに」  カミラの容姿で美花と比べて変わったところは色素が薄くなった瞳と髪の色くらい。それ以外は、前世のときとほとんど変わらない……胸もお尻もちいさいガリガリの貧相な体つきだ。  けれど、クロードはそんなことは気にしなくていいと甘く囁きながら、彼女の乳首をふたたび舐めしゃぶる。溶けて消えてしまいそうな飴玉を名残惜しそうに転がすような丁寧な舐め方に、カミラの身体がゾクリと震える。 「あぁっ……」 「前にも言っただろ。俺好みの胸に育てるんだから、君はこのままでいい……って」  さっきまでこれでもかと刺激を受けていた乳首は、充血したままピンと勃ちあがっている。  まるで飛び出す仕掛け絵本のようだな、とからくりを施した張本人が嬉しそうに敏感なそこを指の腹でツンとつつく。ビクビクビクっ、と声にならない媚鳴をあげながら身体を弓なりに弾ませたカミラは、なおも仕掛けを繰り返すクロードの前で涙を零す。 「ひどい……おっぱいばっかり責めないで……」 「胸だけでアソコがびしょ濡れになるのも、あのときと同じだな」 「教授っ!」 「いまの俺は教授じゃない。クロードって呼べよ……カミラ」 「――っ」  現世の名を呼び捨てられながら下肢に手を伸ばされ、すでに潤っていた蜜壺の入り口に彼の指がふれる。陰核を指の腹でぷつっと潰されて、あたまのなかに閃光が迸る。何度も彼の手と口で軽く達していたカミラは、自分からひどくしてとおねだりしたにも関わらず、まるでお酒に酔っ払ったかのように、彼にすべてを委ねていた。 「クロード……ぁあ……駄目、また、イっちゃう、イッちゃうぅ……!」 「かわいいよ。俺の前だけで淫らに花咲く美しいカミラ……もう限界かい?」 「ぁぁん……ヤダ、おわりにしちゃ、ヤダ……もっとっ」 「もっと、何? もっと気持ちよくなりたい? じゃあ、キスしようか」 「違……キスも嬉しいけど、そうじゃな――っ」  執拗な前戯に喘鳴をあげつつ、物足りないと訴えるカミラに官能的なキスをして、彼女が打ち震える姿を意地悪く見つめる漆黒の瞳。  瞳を閉じない接吻をした魔法使いクロードは、快感によがり狂う愛する女性を前に、すでにギンギンになっている己の分身を見せつけて、彼女に選択を乞う。  今度こそ、処女を捧げてくれるね、と、心の底で(こいねが)いながら。 「欲しいのは、これのことかな……お姫様」    * * *  クロードの手によってとろとろになっていたカミラの秘処に、熱い楔が侵入していく。  魔法のちからで破瓜の痛みを加減することは可能だと言われたが、カミラは痛いほうがいいとその提案を断った。 「痛くして。ひとつに繋がることを、この身に、魂に刻みつけて――!」  彼方以外欲しくないの。  前世で叶えられなかったこの想いを、今度こそ叶えるために、ひとつになる痛みを感じさせて。 「うっ……カミラ?」 「――だい、じょう、ぶ……だから」 「ああ……ぜんぶ、挿入(はい)ったよ」  太くて硬い彼のものが、ズル、ズルとカミラの蜜口を擦りたてる。痛くしてとねだった瞬間、つぷ、と涙を流しながら膨らんでいた亀頭が入り込む。あまりの痛みに獣のような鋭い咆哮をあげたカミラだったが、大丈夫と淡く微笑んで、彼を奥まで迎え入れた。 「よかった……」  ひとつに繋がったことで安心したのか、カミラの手がクロードの髪を撫でる。  どこか懐かしさを覚える真っ白な髪はよくよく見るとかつてのような脱色ではなく、まるで白銀のような銀髪だ。夜空に煌めく星のように綺麗な彼の髪に指を通しながら、彼女はクロードへキスを贈る。 「カミラ」 「なあに?」 「……動いても、いいか」  え、ときょとんとする恋しい人に、クロードは目を瞬かせる。 「これで終わりだと、思ったのか……?」 「え、だってひとつになったし」  このままぎゅっと抱き合って眠るのだとばかり思っていたカミラは、ぽかんとした表情のクロードを前に困惑する。やがて、クロードが彼女の膣内に収めた分身をピクリと震わせながら、彼女に甘い蕩けるようなキスを返す。 「仕方のないお姫様だ――王子様と愛し合って更に気持ちよくなるのはこれからだぞ?」  その無垢でいやらしい身体にもっと教えてやると苦笑しながら、クロードは腰をゆるやかに振りはじめるのだった。
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