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第六章 天女、監禁 * 16 *

「お久しぶり。気分はどうだい?」 「……サイアク」  スイに聞いた話が頭から離れないまま、桜桃は監禁されている部屋の寝台に寝転んだ。  疲れもあったのだろう、身体を楽にした途端、睡魔が訪れ――……    * * *  淫らな格好のまま芝生に投げ出されている夢を見る。  白い裸体を仰向けにされた状態で、両手と両足が絹のような布で軽く拘束されている。  両手両足だけではない。胸元にも同じような布が紐状に捩られていて、苺のような乳首を結びつけている。  太ももの付け根や臀部にかけても柔らかいそれが巻き付けられていて、動こうとすると秘処に食い込みそうになる。  触れられたわけでもないのに、冴え冴えとした空気が彼女の敏感な部分を刺激して、下腹部を疼かせる。  夢だからか、銀の足枷をつけていた左足首にも同じような布が巻きついている。  荷物のように扱われているかのような、不思議な感覚。  けれど執拗に縛られた耽美的な姿を前に、黒ずくめの男が見つめているのに気づいて、桜桃は焦る。  目隠しをされていないだけ、マシなのだろうか。  けれど目の前にいる見知らぬ男に視姦されているような気がして落ち着かない。 「ようやくあなたの夢に侵入できたのに、その反応はひどいなぁ」 「あたしをこんな風にして、よく言うわ」 「神々は淫らな君の姿を望んでいるんだ。いいかげん諦めなさい」  そう言いながら男は桜桃の身体に触れる。  ヂン、と痺れるような感覚に襲われ、身体に雷が走る。 「……ひゃんっ」 「しばらく会わないうちに、ずいぶん感度を高めたみたいだね。もうおもらしかい?」 「いやっ」  柚葉に触れられた秘処に男が触れている。既に蜜口を濡らしている桜桃を見て、男は嗤う。 「だけどまだ処女(おとめ)のまま、か」 「……それが?」 「王種を持つ男二人と接触したんだろ? 天女はどちらをお気に召した?」  桜桃の身体を優しく撫でながら、男は真面目に問いかける。  その声色が、誰かに似ていて桜桃は目を瞬かせる。 「――あたし、天女なんかじゃない」 「邪神の囁きなど気にするな」 「でも」  口ごもる桜桃を前に、男の唇が耳元に迫る。  ちゅ、と軽く音を立てられ、桜桃の身体はぴくりと跳ねる。 「逆さ斎である僕がきみを天女だと認めているんだ。きみはカイムの地に春を喚ぶ、天神の娘だと」 「逆さ、斎……四季さん?」  逆井。  その姓から、桜桃は目の前で甘く囁く男の正体にようやく気づく。  その瞬間、見知らぬ男の影が見知った少女の姿へ変わる。 「そうだよ。天神の娘。ボクは四季であってシキではない、逆さ斎の知識を持つさ」  シキ。その名もまた名前に縛られていたのかと桜桃はいまになって痛感する。 「でも、あなたは四季さんでしょ?」 「そうだよ」  そう言いながら、桜桃を拘束していた布に歯を立て、破いていく。  束縛を解かれ、生まれたての姿にさせられた桜桃は顔を赤くして言い返す。  恥ずかしそうな彼女をじっと見つめ、四季は「かわいい」と呟く。  さきほどまで瞳に灯っていた嗜虐的な光はすっかりなりをひそめている。  桜桃はきょとんとした表情で四季に問う。 「女のひとが、どうしてこんなことするの」 「――ボクも男で王種を持っているんだけど、天女は最後までボクを認めてくれないみたいだね」  くすくす笑って告げる真実に、桜桃は唖然とする。 「四季さん「も」男、で……王種を持ってるの?」  思わず「も」を強調する桜桃に、四季はそうだよと快く頷く。 「これでも天女を満足させるために勉強したんだから。気持ちよくなれただろ?」  天女は神々に求められ、その代償のように与えられる快楽に溺れ、王種を持つ羽衣を選ぶ。  そして淫らな蜜を零し、種を孕み、凍えたカイムの地に春を喚ぶ。  四季は自分も天女の羽衣となる可能性を知りながら、彼女を調教し、淫らな天女を覚醒させようと密かに彼女の夢に侵入していたのだという。ひたすら彼女に快感を教え込むそのためだけに。  縛られたり胸だけを執拗に苛められたり、夢のなかとはいえずいぶん好き勝手させられたものだ。  桜桃は釈然としない気持ちで彼を見据える。 「じゃあ、どうして最後までしなかったの」 「されたかった?」 「まさか!」  顔を真っ赤にして否定する桜桃に、四季は苦笑を浮かべる。 「天女に選ばれない羽衣が強引にことを成し遂げたところで、真の栄華は訪れないからね」  ボクは臆病なんだよ、と桜桃の隣で寂しく笑う。  そして何事もなかったかのように桜桃の所在を気に掛ける。 「篁とはなればなれになっているんだろ? ――いま、どこにいるんだい?」 「梧邸の離れ……」  ぽつりと口にすれば、四季は納得したような表情で、あー、と頷いた。 「捕まったのか」 「……四季さんはスイって女の子、知ってる?」 「知らない」 「伊妻の生き残りだ、って言ってた」 「うん」 「それで、あたしも伊妻の娘だ、って」 「……信じたの?」  四季の言葉に桜桃は思わず頷きそうになる。  が、ぶん、と慌てて首を横に振る。 「だって四季さんが言ってたじゃない。あたしは紛れもない、天神の娘だって」 「そうだよ。それでいい」  そう言って四季は桜桃のあたまをぽん、と撫でる。  その仕草が、どこか柚葉を彷彿させて、桜桃はなぜだか泣きたくなる。 「彼女は、ゆずにいと手を組んでいるように見えたけど、そうじゃないみたい」 「そこに、柚葉もいるのか……?」  複雑そうな表情を見せる四季に、桜桃も困ったような顔で言い返す。 「ゆずにいに身体を奪われそうになったけど、あたし、気を失って……」 「純潔は守られてるのか」  いまさら純潔も何もないでしょ、と裸の状態で桜桃は毒づくが、四季はそのあとにつづく言葉に顔色を変える。 「それで、スイが一週間の猶予をくれたの。月のものが訪れている間は、ゆずにいはこの離れに入れない、って」  そのあいだに、とっとと皇一族の皇子に抱いてもらえ、って……
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