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第六章 天女、監禁 * 5 *

「藤諏訪麗が帝都清華の裏切り者で、その黒幕が古都律華の水嶌家出身でいまは神皇帝の正妃の座にのぼりつめている、冴利と、きみが教えてくれた繁光という名の男だってことはなんとなくわかった。けど、それだけで充分な情報になる?」  かすみと呼ばれた少女は繁光がどこの家のものかわからないと言っていたが、古都律華の人間と考えていいだろう。 「充分だよ。要するに皇一族の後継者争いか」 「小環皇子はそのことについて何か言ってらした? それとも何も知らされていないのかしら」 「……たぶん後者だろう。彼自身第二皇子で皇位に執着してる様子もなかったからな」 「でも、神皇帝は天神の娘を求め、逆に冴利は弑そうとしている」 「冴利は天神の娘がいなくなれば自分の息子を次期神皇帝にすることができると誰かによって信じ込まされているようだが……暗示か」 「たぶんね」  冴利は神皇帝とのあいだに生れたまだ幼い青竹を何がなんでも次期神皇にしようとしているらしい。神皇帝は冗談だと思って相手にしていないようだが、冴利はすでに古都律華と手を組み、空我伯爵邸の襲撃を命じている。  そこからすべてがはじまったと思った。 「不思議に思ったんだよ。なぜ、今になって隠されていた天神の娘が狙われたのか。なぜ、カイムの地へ彼女は連れ出されたのか」 「この地へ春を呼び戻すためでしょう?」 「なぜこの地に春は訪れていない?」 「神々が強引に開拓を進める人間の所業に怒って冬将軍を留まらせているから。もしくは神嫁という名の生贄を味わい邪悪なものへ変化した一部の神がのさばっているから」 「それは今年に限ったことか? 予兆ならすでにあっただろう?」 「ええ。毎年、雪解けが徐々に遅くなっていっている気がすると、ウバシアッテは神皇へ訴えていた」 「おかしくなったのは、いつからだ?」  帝都へカイムの巫女姫だったセツが嫁いですぐにおかしくなったわけではない。  だが、彼女が天神の娘を産み落とした頃にはすでに最初の異変は起きていた。 「……天神の娘が生まれる一年前の、名治五年の夏。伊妻の乱後に起きた、史上最悪の天災が、潤蕊に訪れた年」  四季は少女の言葉をひとつひとつ確認しながら、結論を紡ぎ出す。 「――ぜんぶ、繋がっていたんだ! 空我伯爵邸の襲撃がはじまりじゃない。すべてのはじまりは」  ――名治四年初冬に起きた伊妻の内乱だ。  この北海大陸で起きた謀反が引き金となって、カイムの民と共存していた神々はすこしずつ狂っていってしまったのだ。  カイムの巫女姫と呼ばれたカシケキクの少女、契と、帝都からやってきた将軍、空我樹太朗が協力し合ったことで乱は年内のうちに制圧された。たしかそのとき敵軍を率いていたのが、伊妻霜一(そういち)……ルヤンペアッテの血を引いた男だ。  霜一は樹太朗によって首を刎ねられ即死している。  そして、皇一族に刃を向けた伊妻家は取り潰され、女子供も始祖神に逆らったとしてすべて処刑された。  その翌年、潤蕊の夏は豪雨に見舞われた。  作物は流され疫病が蔓延し多くのカイムの民が死んだ。  民の間では伊妻一族が怨霊となって潤蕊を襲ったのだと畏怖し、彼らと懇意にしていた『(ルヤンペアッテ)』の部族を敬うようになった。  だが、その年から徐々に冬から春へ変わっていく動きが、緩慢になってゆく。  禁忌の一族として伊妻の名は姿を消したが、彼らは名を変え『雨』とともにこの地に生きている。  そう考えれば、辻褄が合う。 「伊妻の残党。彼が言っていたのは、このことだったのか……」 「シキ?」 「だとすれば、天神の娘を狙うのも頷ける。鬼造が天神の娘を積極的に消そうとしない理由もそこにあったんだ」  古都律華の御三家、伊妻、川津、鬼造。伊妻の金魚の糞ともいえた鬼造は、伊妻に生き残りがいたことを皇一族に黙って容認していたことになる。伊妻が天神の娘を殺さず手に入れて皇一族に対抗するための武器とすることも、知らされていたのだろう。 「鬼造当主は金の亡者だ。権力よりも金を選ぶ彼なら、皇一族よりも多くの金を積んで自分たちを保護するよう依頼した伊妻を選ぶに決まっている」 「じゃあ、そのお金の出所は?」 「この女学校そのものだ」  もともとこの潤蕊は『雨』の土地だった。  だが、伊妻はその土地に住むルヤンペアッテと婚姻を繰り返し、その地を支配していた家を乗っ取ったのだ。  伊妻という姓は稲妻に通じている。『雨』の部族は彼らを迎合し、その血を帝都の政治の頂点にいた伊妻に分け与えたことになる。  鬼造が北海大陸開拓に本腰を上げ、この女学校となる施設を手に入れたのは伊妻の乱が収まってからだ。それ以前は、『雨』のものとして使われていたから、乱後の神皇帝も見逃していたのだろう。 「用地買収ではなく、伊妻から見返りに渡されたってこと?」 「生き残りを保護するため。隠すため。その隠れ蓑になったのが、この女学校だ」  四季は生き生きとした表情で展開していく。 「彼らは待っていたんだ。成長するのを」  ――天神の娘ではなく、伊妻の生き残りの。
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