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第六章 天女、監禁 * 2 *

 小環が自慰行為を耐えかねて部屋から飛び出していった音で、四季はまどろみから覚醒する。 「ん……?」  いつもと同じ夜、女学生たちは部屋に戻って各々夢の世界に旅立っている頃。  だが、いつもと同じ、というわけではなさそうだ。 「シキ、どうかした?」 「悪い、起こしたか?」 「ううん。眠れなかっただけ」  四季は寝台の上で横になったまま気だるそうに口を開く幼い少女へ顔を向ける。いつもなら桂也乃が使っている寝台だが、彼女のいない今だからあえて入り浸っている少女に、四季は苦笑を浮かべる。 「……神々が、騒がしいね」  四季と同じ、カイムの民である彼女もまた、感じているのだろう。  そうだね、と四季も頷く。 「たぶん、天神の娘と始祖神の末裔たる皇子が来て、いろいろなことが動き出したから」 「いろいろなこと、ねぇ」  怪訝そうな表情の少女はつまらなそうに呟く。 「隣の部屋にいるんでしょ? はやくくっついちゃえばいいのに」 「そう、だね」  天女を覚醒させて春を喚ぶこと。カイムの民、特に『雪』の一族は天神の娘と皇一族の羽衣が結ばれることを心から願っている。  けれどそれを快く思わない者たちもこの地にはいる。たとえば古都律華や、天女を見限った『雨』の一族……  四季の考えを読んだかのように少女はぽつりと言葉を零す。 「そういえば寒河江雁は『雨』によって処分されるの?」 「座敷牢にいるはずだよ。まだ」 「ふうん。一昨日見に行った時はじっとしていたよ」  神々に愛される天神の娘に猟銃を向けた雁は、座敷牢でおとなしくしているという。  何者かによって暗示をかけられた可能性もあるから、臆病な鬼造は彼女を断罪できずにいるのだろう。  もしかしたら真犯人を探しているのかもしれない。 「ねぇ。彼女は猟銃の扱いに長けていたっていうけど、そう簡単に殺せるもの?」 「さぁ。ただ、天神の娘に銃口を向けた、向けさせられたことを考えると、殺意まではいかなくとも、傷つけようという意志が暗示をかけた人間にはあったはずだよ」  暗示をかけられる人間はそう多くない。基本的にカイムの民は生まれつき暗示の能力を持っているが、帝都からやってきた人間との混血が増えたこともあり、強いちからを持つものは少ない。ましてや人を暗示で殺すよう命じることのできる人間など、限られてしまう。  それ以前に、天神の娘と始祖神の末裔である皇子、ふたりを殺めるなど。  ――カイムの地に生きる神々がそれを認めないだろう。  彼らは邪悪なもの、穢いものを嫌悪している。  天女をめぐっての国の後継者争いや派閥同士の政権争いなどもってのほかだ。  それでも神の加護を悪用して天神の娘たちに危害を加えようとしている人間がいる。  そこには土地に棲まう神々との共存を放棄し、天女を見限った『雨』の一族が関わっていると考えていいだろう。潤蘂一帯を統治する『雨』の一族。水嶌、雫石、梧……そして鬼造。  特に帝都からカイムの地へ移ってきた鬼造一族は強い暗示能力を持つ『雨』の一族、雫石氏と血縁関係を結び、伊妻の乱の後、潤蘂一帯を伊妻氏に代わって支配している。  そのうえ女学校を創設後『神嫁御渡』などというふざけた儀式で他の神々をも手なずけようとしている。  神々が怒っているときけば罪のない少女を生贄にして誤魔化す始末だ。人柱を与えられ血の味を覚え邪神に堕ちた一部の神が、もっとよこせと冬将軍を留まらせていることに気づいていないのだろうか……  四季が顔を顰めて黙り込んでいるのを見て、少女は嗤う。 「その人間が、父に匿われている可能性が高いわけね」 「ああ。学内にいる能力者を片っ端から当たれば簡単に捕まえることはできると思う、けど」 「シキひとりが訴えたところで彼らは動かないわ」  目の前にいる彼女も『雨』の加護を強く持つ少女だ。  彼女が希えば、四季を殺すことだって容易いはずだ。だが、彼女はそんな愚かなことをしない。  だから四季は素直に告げる。 「……そこなんだよ、かすみ」  冠理女学校の経営者である鬼造一族が関わっているとなると、これ以上の深入りは望めない。  四季自身、『雪』とつながりを持つ逆さ斎という特殊な立場にいるため、天女が春を喚ばないうちに目をつけられると困るのだ。 「ここでのあたいはあられよ、シキ」 「安心しな。誰も聞いていない。ここで姉のふりをする必要もない」 「だけど」 「それより、帝都の状況を聞かせてよ。視みていたんだろ?」 「帝都のゴタゴタには興味がないんじゃなかったっけ?」  呆れたようにあられが言い返しても、四季はくすくす笑うだけ。 「状況が変わったんだ」
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