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第五章 天女、探求 * 4 *

 四季から蝋燭をもらい、部屋を出た桜桃はゆるやかな波を描く長い黒髪の少女に呼び止められ、振り返る。 「あ、麗さん!」 「ちょうどよかったわ。ゆ……さくらさん、空我邸からお手紙が届いているわよ」 「空我邸から? わかりました、いま行きます」  思わずゆすら、と口にしそうになった少女を前に、小環は不審そうな表情を浮かべる。  だが、「麗さんは知ってらっしゃるから平気だよ」と桜桃は目で合図をして頷き、「先に部屋に戻っていて」と蝋燭を手渡し、桜桃は駆けていく。  四季の部屋の前で残された小環は苦笑を浮かべながらふたりの姿を見送る。  まるで姉と妹のようだな、と思いながら。 「――とんだ邪魔が入ったな」 「逆井?」  パタパタと少女たちが走り去る音に気づいたのか、キィと部屋の扉が開き、小環の手に蝋燭があるのを見て四季がうんざりしたような表情で呟く。 「邪魔って? あいつは異母兄からの手紙を受け取りに行っただけだろ?」  むしろ自分が傍にいた方が邪魔だった気がすると小環が言い返すと、四季は「わかってないなぁ」と呆れたように反論する。 「彼女の異母兄が藤諏訪家の令嬢と婚約していたのは過去の話だと、桂也乃が言っていただろ?」 「……む」  たしかに帝都清華に属する藤諏訪麗は空我伯爵家次期当主との結婚が決められていた。が、それは柚葉によって白紙撤回されたのだという。  桜桃は知らないのだ。麗が柚葉との婚約をなかったことにされたことに。  それに麗も、連絡が届いていないのか、未だに柚葉の婚約者であるように振舞っている。  世が世なら、麗は桜桃の義姉になっていたはずだ。そう考えるとふたりが旧知の仲であるとしても不思議ではない。  だが、桜桃が天神の娘であることを知った今、彼女の立場にも影響が出てきたのだろう。  それに麗本人が柚葉との婚約を破棄されたことを知っているのか否か、小環には判断できない。  ただ……  藤諏訪麗が桜桃の動向を監視しているのは事実だろう。  あまりにもあからさますぎて、辟易してしまうが。 「桂也乃が撃たれたことで、藤諏訪が帝都清華側の間諜(スパイ)としてあらためて彼女を監視することになったんじゃないのか?」 「お前のことはおいといて、か?」  桂也乃と違い、小環と面識のない麗は常に桜桃の傍にいる自分のことをただの侍女だと思っているのだろう。篁という姓から皇一族から派遣されたことには感づいているだろうが。  まさか第二皇子が自ら女装して潜入しているとは、ふつう考えないはずだ。  ……目の前の彼女を除いて。 「まぁ、彼女ひとりなら泳がせておいても問題ないだろう」 「どうしてそう思う? さくらは先の事件でカイムの人間からは天神の娘(カシケキク)であることを、帝都の人間からも伝説の春を喚ぶ天女だと知らされてしまったんだよ」 「何が言いたい」  むすっとした表情の小環に、追い打ちをかけるように四季は告げる。 「王種を持っているからって油断していると、他の男に奪われるよ?」
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