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第四章 天女、翻弄 * 10 *

 桂也乃。仲良くなったばかりの女学校の友達。  なんで、彼女が撃たれなくちゃいけないの? あたしを庇ったから?  桜桃の悲鳴に呼応するかのように、息を切って走って来た小環が、隣に滑り込む。  ――ここは安全な鳥籠じゃない。  そう言っていた小環の言葉が、いまになって身に沁みる。 「小環……」 「撃たれたのは肩か。弾は貫通している。痛みで意識を失っているだけだ。命にかかわることはない」  手早く桂也乃の状態を診て、小環は桜桃に告げる。  誰かが呼んだのか、校医が担架を運んできた。遅れてやってきた四季が何も言わずに校医とともに桂也乃を乗せた担架を持ち、桜桃たちを置いて救護室へ慌ただしく姿を消す。  残雪に残る真紅が、桜桃の瞼の裏で燃え上がる。空我別邸で使用人たちが惨殺されたときと同じだ。 「……あたしのせいよ」  自分が天神の娘で狙われた存在である自覚が足りていなかったから、こんなことが起きたのだと桜桃は弱々しく呟く。 「そうだな、お前のせいだ」  当然のように小環は応え、泣くのを堪えている桜桃を抱きしめる。柚葉だったら、絶対こんな反応はしない。そんなことないよって真っ先に否定してくれるはずだ。  でも、ここには護ってくれた柚葉はいない。いるのは意地悪な小環だけだ。けれど。 「……黒多はお前を護れて喜んでいると思う」  ぶっきらぼうに、付け加える。 「そう、かな」  泣くまいと思っても、桜桃の応えに頷いた小環に抱きしめられて気が抜けたからか、涙があふれ出してしまった。  しがみついて、いまは泣く。  上空もいまにも泣きそうな色をしている。  小環は泣きだした桜桃を抱きしめ、背中をやさしくさすりながら、空を見つめる。  雨が降りだした。  凍てつく土を頑なにしてしまう、冷たい雨が。残雪を溶かし春の芽吹きを呼ぶやさしい雨ではなくて。雷を伴った氷雨が。  それは、突然の嵐。
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