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第四章 天女、翻弄 * 6 *

「小環さん。あなたが強い神に祝福された存在であることは否めないと思うわ」  そんな小環に、慈雨は強く訴える。傍にいた雁もそのとおりだと深く頷く。 「カイムの民の多くはその土地における神から加護を受けているけれど、そのちからは微弱でいまでは殆ど常人つねびとと変わらないわ。だというのにあなたがこの学校に来てからこのわたしでも違和感を覚えるのよ。四季さんみたいに肌で感じるようなことはできないけど、それでも……」  雁が口にしているのは独り言のようにも思えたが、小環は黙って耳を傾ける。 「神と同等であるという『天』の部族カシケキクが再臨されたのかと」 「雁。小環さんが困ってらっしゃるわ、純血のカシケキクはもうこの地にいないのに血迷ったことを言うなんて」 「でも! 慈雨だって強く感じてるって言ってたじゃない」  小環が見ている間で、ふたりは言い争いをはじめてしまう。その隣で四季も苦笑を浮かべている。その間に小環はふたりに関する情報を整理する。  梧慈雨。その名前から理解できるように『雨』の部族ルヤンペアッテ出身だという。だが、カイムの民特有の灰色の瞳を持たず、虹彩の色は漆黒である小環に近い薄墨色をしている。父か母のどちらかが帝都の人間だったのだろう。  寒河江雁。彼女は『雪』の部族ウバシアッテに属しているカイムの民だ。双眸は白みがかった薄い灰色を落とした金茶色で、髪の色も明るい金に近い茶色である。小環の異母兄である湾の瞳によく似ている。  ふたりは同室でこの女学校に入って来た時期も一緒。カイムの民同士ということもあり帝都からやってきた華族令嬢たちとは距離を置きながらも問題を起こすことなく生活を送っている。どちらも神から与えられた加護と微弱なちからを持ってはいるものの、四季のように常に神の存在を感じることができるわけではないという。  ……とはいえ、俺たちが潜入してから強いちからを持った何かが存在していることにふたりとも気づいているようだ。  どうやら篁という名から始祖神のことだと思ってくれているようだが、雁が指摘したとおり、傍にはカシケキクの末裔である桜桃もいる。事情を知る桂也乃以外の人間に正体を明かすような事態には陥りたくないものだ。  いまのところ、神の存在を肌で感じられるちからを持つカイムの民は隣室の逆井四季ただひとり。それ以外のカイムの民は開拓時に他の大陸から渡って来た人間と血縁関係を結ぶなどして殆どがちからを失ってしまったときく。 「多くの神が嘆き大地を震わせ冬睡ふゆねぶりから覚めないでいるこのときに感じたのよ。もうすぐ春が来るのよ」 「それは雁が夢見ているだけのこと。願望にすぎないわ。天女が舞い降りて春を呼ぶなんて伝説、あたくしは信じないわ。それならば神嫁に頑張ってもらった方が現実的よ」  小環は思わず傍観している四季を見つめる。彼女は無言で頷き、彼にふたりの言葉を探るよう伝える。  ふたりの会話は父皇が言っていた『雪』の嘆願とまったく同じだった。  異なっていたのは『雪』の部族が神謡に忠実で天女伝説を信仰しているのに対して、『雨』の部族はすでに天女伝説に見切りをつけていたという点。しかも、別の方法を模索しているという、思いがけない現状だった。 「蝶子さまのように? 綺麗に着飾って華やかに見送られて、それで神様の元へ嫁いで春を乞うの?」 「雁、もうやめましょう。『雪』のあなたと論議しても平行線を辿るだけよ。あくまであたくしは現状打破するための手段としてこの学校の制度を受け入れているというだけ」  興奮する雁に、慈雨が宥め、申し訳なさそうに小環と四季を見つめる。すると、呆然とする小環の前で四季が慈雨たちに軽く会釈して歩きだす。四季に腕を引っ張られて小環も仕方なく彼女が歩きだした方向へ自然と歩を移す。
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