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第二章 天女、潜入 * 3 *

 桜桃は前開きボタンがついた白いワンピース姿で、草原にひとり佇んでいた。緑の地面に縫い付けられているかのように、ところどころが白詰草の花で覆われている。  薄着だというのに、肌を刺すような冷気を感じることもない。帝都ではない、北の大地にいるというのに。 「そうだ、あたし、湾さんに……」  いつの間にか、眠っていたらしい。夢の世界だから、こうも無防備な姿で外にいられるのだろう。桜桃は夢なら何が起きても恐れることはないと頷き、そっと歩き出す。裸足のまま、ふっくらとした土に触れると、そこから一斉に萌芽し、蕾を膨らませ零れ落ちるように色とりどりの花が咲きはじめる。一面の緑はあっという間に塗り替えられ、咲き乱れた淡い色彩の花の絨毯ができあがる。  呆然とする桜桃の耳に、春を言祝ぐ歌声が響いてくる。湾が歌った時は、古い言葉だったから理解できなくて眠ってしまったけれど、夢だからか、彼らの言葉が自然と理解できる。  北の大地に天女が舞い降りて、時の花を咲かせに来たと。 「ーー咲くや()の華、今は春」  冬将軍は去っていく。春が来た。春が来た。時の花を伴って。此の世界に華を咲かせに。  なんとなく意味はわかるが、わからない単語もある。桜桃は咲き誇る花の絨毯にしゃがみ込んで、ぽつりと呟く。 「時の花、此の華……」 「ああ、こんなところにいたのか」  思いだそうとしたところで、声をかけられて、桜桃は顔をあげる。 「え?」  気づけば空には夜の帳。春が来て明るかった空はあっさり寝入ってしまい、桜桃の視界を暗闇で覆う。声をかけられても、それが誰だかわからない。 「――時の花を咲かす、天神の娘」  間近に響いた囁き声にびくっと反応して、桜桃は立ち上がる。  しゅるり、と天鵞絨(ビロード)のような肌触りの黒いリボンが彼女の両手を捕まえようと滑り込み、背中で結ばれ身動きを取れなくなってしまう。 「きゃ……何?」 「おとなしくしてるんだ。痛いことはしないから」  低くて穏やかな男の声が、桜桃の背後で響く。不思議と抵抗力を感じさせない声に、桜桃は思わず力を抜いていた。  桜桃がおとなしくしているのを見て、男はぱちりと指を鳴らす。  ふたたびしゅるり、とリボンが巻かれる音と同時に微弱な風が舞う。  暗がりのなかで両手を拘束された上に、ぼんやりした視界まで目隠しをされ、完全に何も見えなくなってしまう。  けれど桜桃はとくとく、と自分の心臓が高鳴っていることに気づき、困惑する。  ――何も見えなくて、両手も縛られているのに、なんで……?  桜桃の心の声に応えるかのように、男は優しく告げる。 「天女の覚醒が近いからだよ」 「え?」  そしてそのまま身体を抱きかかえられ、草の上の褥へ寝かされる。 「天女は羽衣を求めて発情するんだ。ほら、感じないかい?」 「んっ……!」  ワンピース越しに触れられたのは、ふたつの乳首。  布切れ一枚を隔てた接触だというのに、つねられた途端、右と左が自己主張をはじめる。 「感じやすいんだね。素直な身体だ」  やがて男の手はワンピースのボタンを丁寧に外していく。  暗闇のなか、浮かび上がる白い裸体を確認して、満足そうに手を這わせる。 「いやっ、見ないで……!」  襲われたときのことを思い出し、桜桃は悲鳴をあげる。  けれど男はその手を止めない。  桜桃の身体をおおきな手のひらが暴いていく。 「大丈夫だよ。気持ちよくさせてあげるだけだから」  目隠しをされたままの桜桃に、とろけるような声が降る。さっきと異なる声に、桜桃はビクっと身体を震わせる。 「……ゆずにい?」  桜桃の大好きな異母兄の声色で、男は爽やかに嗤う。 「兄に抱かれることを望むのか。いけない娘だね」  そう言いながら桜桃の小ぶりな乳房をぎゅっと掴む。  ――ちがう、ゆずにいはこんなことしない。    けれど桜桃は身体を拘束され、弄られるなかで異母兄を想像していた。  彼になら穢されても構わない。  ……でもそれはいけないこと。目の前の男のひとに言われて痛感する。 「あんっ」  乳首に冷たい感触を覚え、甘く喘げば男は更に異母兄の声で桜桃を責める。 「胸だけで達するかもしれないね」 「達する……?」 「()く、ってことだよ」  ぱくり、と乳首を嚙みつかれ、乳輪をぺろぺろと舐めまわされ、桜桃は身体をよじらせる。  触れられていもいないのに下肢からじわりと何かが溢れ、草の上へ滴り落ちる。  両手を縛られ、目隠しをされているから猶更、自分の身体が鋭敏になっているのだと気づかないまま、桜桃は痴態を曝し続ける。  このまま自分は弄ばれてしまうのだろうか。兄を騙る男に犯されて。 「あっ、ああ、だ、ダメっ!」  その瞬間、目の前が真っ白に弾けた。 「……淫乱な天神の娘だ。これから更なる快楽が待っているというのに」  粗相をしてしまったかのように臀部が湿っている。  夢のなかのはずなのに、桜桃は自分の身体が変化してしまったことに呆然とする。  達したばかりの気だるい身体を横たえたままにしていると、ふたたび男がちろちろと乳首を舐めはじめる。 「はぁんっ。……あなたは、誰」 「それはまだ、教えられない」  れろれろと執拗に舐められ、快楽の残滓がふたたび彼女を苛んでいく。 「そんな……ぁん!」 「天神の娘よ」  覚えたばかりの快感を刻み付けるかのように男は胸ばかりを責め抜いていく。  下半身に触れることは一切せず、ただひたすら勃ちっぱなしの乳首と膨らみかけの乳房を手と口で優しく激しく愛撫する。  何度も身体をひくひくさせ、桜桃は男にされるがまま、辱めを受けつづける。  やがて麻痺して何も考えられなくなった彼女に、男は囁く。  桜桃のことをあらためて天神の娘と呼びかけて。 「ようこそ、北の大地へ。夢の残滓、カイムの根が拡がる土地に、いまこそその淫らな愛と甘い蜜で(まこと)春を、呼ぶがよい」  神々が邪悪なものに、食べられてしまう前に。  正しき羽衣に(いだ)かれよ。    * * *  ――そこで、目が覚めた。
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