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第一章 天女、逃亡 * 1 *

 ――安全な鳥籠は壊された。  逃げなくちゃ、  でも、何処へ……?    * * *  女の説明は簡潔だった。  屋敷の主の不在を利用して、別邸に強盗が入ったことにすればいい。その際、鉢合わせした娘が殺されてしまった。娘を殺した強盗は狼狽した結果、本来の目的を忘れて屋敷に火を放ち逃亡した……憲兵を欺くことなどあなたには容易いでしょう? 「天神の娘が生きている限り、あなたに真の安息は訪れません。おわかりでしょう、それが意味することくらい」  無言のままの相手に、たたみかけるように女はつづける。 「生まれたのが娘だったから、樹太朗(じゅたろう)も甘いのでしょう。ただ、娘が女になる前に、こちらとしては処分した方がいいと思うのですがね。気づいているのでしょう? あなたの愛するたったひとりの跡取り息子が、あの娘に惹かれていることに。それこそ我々にとって望まぬ未来ですよ。忌々しい天神の血をこれ以上野放しにするのは危険です。いまなら犠牲はその娘ひとりだけで済むのですよ。まあ、あなたの息子が悲しむかもしれませんが」 「……それしか、方法はないのですね」  か細い女性の声に、女が満足そうに頷く。 「そのとおり。これ以上帝都清華(ていとせいが)の五公家に政界を惑わされ、(すめらぎ)が治めるを邪神に支配されるわけにはいかないのです……いえ、だからといってあなたを否定しているわけではありませんよ。そもそもあなたは古都律華(ことりつが)の人間なのですから」 「要するに、利害が一致しているから、娘であるわたくしに取引を持ちかけたのでしょう?」  継母が動かす(まつりごと)の世界など、女には興味ない。だが、彼女の提案が魅力的であるのは否めない。 「取引なんて生易しいものではございませんよ。言いましたよね、あの女の娘が生きている限り、あなたに真の安息は訪れないと」  息を呑み、血の繋がりのない娘は母を凝視する。 「脅迫、かしら」 「そうかもしれませんね」  母は娘の前で冷たく言い放つ。心の奥に渦巻いていた悪意を露見された女は開き直り、妖艶な笑みを浮かべ、病に倒れた父より全権を委ねられた継母の腕に甘えるようにしなだれかかる。 「仰せのままに。あの娘が母親同様邪魔なのは、事実なのですから」 「あら怖い」  しなだれかかる娘の耳元で、母親は大仰に溜め息をつく。
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