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「……レンド様が、庭の掃除をするようにと」 「ああ、そうね。お昼は掃除をするように言われていたの。お庭なのね」 「……ニナ様、よろしいのですか?」 「よろしいって、なにが?」 「普通、プリンセスは庭の掃除なんて……いえ、掃除そのものをしません」 「私はまだちゃんとしたプリンセスじゃないもの。自分のできることをさせてくれるレンド様には感謝してるのよ」 「……そうですか。もしお辛かったらいつでも言ってくださいね」 「ありがとう。まずはお庭がどこにあるか案内してくれる?」 「かしこまりました」  ニナはユーノの心配をよく理解していなかった。  その言葉の真意は『プリンセスであり、自分の妻でもあるニナになぜ使用人の真似事をさせるのか』というもので、単純に『プリンセスに掃除は大変ではないのか』という意味ではない。  だからユーノがなにか言いたげな意味も理解していなかったし、すれ違うメイドたちが哀れんだような眼差しを向けてくる意味も理解しなかった。  庭に着くと、ニナは思わず絶句した。 「ここを……掃除するの?」  広がる庭はニナの思い描いていたものともちろん違う。それもそのはず、ここは城の庭であって、ニナの知っている小さな家の隣にちょこんと設置されているものとは規模が違いすぎている。 「こんなに広いなんて思わなかったわ……」 「……ここをひとりでやるように、だそうです」 「ひとりで……!?」  ニナは改めて庭を見回した。ひとりでやるにはいささか広すぎる。終わらせるとなれば、明日どころかどんなに少なく見積もっても三日は必要だろう。下手をすれば七日以上必要になってくるかもしれない。 「申し訳ございません、ニナ様。私たちはお手伝いできないんです」 「そんなの当たり前よ。ユーノにはユーノのお仕事があるでしょう?」 「ですが、こんな……。……こんなの、ただの嫌がらせです」 (……そうかもしれない)  さすがに鈍いニナもここまであからさまなことをされれば察してしまう。  ましてやレンドは休憩も取るなと言い放ったのだ。 「でも、きっとレンド様にもなにかお考えがあるのよ。ここからならお城のあちこちが目に入るし、ゆっくり場所を覚えろってことなのかも」 「ニナ様……」 「……私の旦那様がひどいことをするはずないわ」 (最初の夜は怖かったけど)  心の中で付け加え、ニナはぱしんと自分の両頬を手で叩く。 「こんなに広いなら急いで取り掛からなくっちゃ。ユーノもここまで連れてきてくれてありがとう! お仕事、頑張ってね」 「……ニナ様もどうか、頑張ってください」 「うん! やれるだけやってみる」  ニナを気にかけながら、振り返りつつユーノは城へと戻って行く。  その後ろ姿を最後まで見ることなく、ニナは袖をまくりあげた。 「まずは地面に落ちてる葉っぱを集めるところからね。そのあとは……」  自分のやるべきことを次々と頭の中に思い描いていく。  午前中の勉強でも『目の前のことではなく、全体を捉えるように』と教えられた。 (よーし、頑張ろう!)  もう一度気合を入れるように自分の頬を叩く。  どう考えてみても一日で終わらない事実からは、目をそらしておくことにした。  せっせと掃除していくうちに、ニナにはわかったことがいくつかあった。  それは、庭から見える外廊下をレンドが何度も往復しているということ。 (お仕事で忙しいのかしら)  ときどき、誰かと歩いていることもあった。難しい顔で話をしている男性はレンドよりもずっと年上で、説明されずともこの国の重鎮なのだろうということがわかる。  そんな忙しげなレンドを見て、ニナは少し誇らしい気持ちになった。 (私の旦那様はちゃんとお仕事をする素敵な王子様なんだわ。……性格はちょっと悪いかもしれないけど)  とはいえ、とニナは考える。  レンドが辛く当たってくるのはニナがその身分にふさわしくない庶民だからだ。更に言えば、レンドの期待にも応えられず粗相をするようなだめな妻でもある。 (いつか認めてもらえたら、優しくされるのかしら……)  正直、レンドが優しくニナに囁くところは想像できなかった。  それでもいつかは好かれたいと心から願う。 (私も頑張ってレンド様を好きになるわ。国一番の夫婦になるの。……絶対)  そうすれば会えない家族のもとにニナの話が届くかもしれない。  また切ない思いを胸に抱きながら、ニナは終わりの見えない掃除を再び始めたのだった。
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