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第6話

 ベッドのスプリングが軋んだ。吐息と喘ぎ、湿潤に満ちた結合部と、肌のぶつかる音がさらに強弱をつけて加わっている。 「御主人…っ…」  桔梗は眉間に皺を寄せ、不本意ながらも媚肉で彼を抱き締める。幾度かに分けて子種が膣内に飛んだ。脈動が内壁にちりちりとしたくすぐったさを生む。 「ぁっ…」 「桜っ…もう…」  何度目になるか分からなかった。淡白そうな柔和な印象しかない桜が数度目の射精を終え、徐に腰を動かす。本当に女を孕ませようという気概を感じた。 「まだ、足らないです……御主人…」  生々しく淫靡な運動が鎮まると2人の境界は冷めていく。しかし混じり合った体液が滑りを良くし、延々と摩擦を繰り返させる。まだその器官には固く芯が残っている。 「もう、やめて…?桜…いい子だから……」  聞き分けが良く遠慮がちな弟にも言ったことがない、ただやり過ごそうとする言葉が出た。桜の据わった眼差しが桔梗を向いた。 「僕は銀灰(ぎんかい)さんと違って、いい子なんかじゃないですよ。ひとつも…」  前後に揺さぶられる運動が始めから激しくなり視界がぶれる。天井の目にも焦点を合わせられない。快感とは違う鈍い痛みが壺奥を襲う。花膜も潤いが滑りを助けるが男の血管や筋が擦れるたび沁みるように痛んだ。 「い…や……桜っ…もう、だめ…」  空はもう暗かった。桜は動きを止める。ずるりと重みのある器官が抜けた。花襞に体液が伝う。あまり筋肉の付いていないながらもしなやかな細腕が桔梗を裏返す。腹がシーツにつき、桜へ背中を晒す。 「さ、くらっ何…っ!」  膝を着いた脚を乱雑に広げられ、腿肉に指が喰い込む。桜の普段の行いからは信じられないほど容赦のない力加減だった。 「桜…痛いっ!」  汗ばんだ肉体が彼女の胴体に圧し掛かる。臀部が男の腰の固さを感じる。直後に体内へ桜が入った。耳元で苦しげな声が響いた。 「御主人…この体位って、一番身籠もりやすいそうですよ」  腿を撫で上げ、桜は腰を引いた。桔梗はシーツを掴み、衝撃に身構える。しかし桜は来なかった。 「御主人…」  浅い挿入のまま桜は桔梗の腿を撫で摩る。先程の乱暴を労わるように優しい掌が柔らかな皮膚に温もりを与えていく。 「この時間が永遠に続けばいいのに…」  ゆっくりと桜は侵攻する。 「御主人には帰るところがあって、待っていてくれる人がいるんですもんね。僕1人と離れたって、何の痛みもない……」  腿を慎重なほど繊細に撫で摩る手がわずかに力んだ。桔梗はシーツに頭を預け、彼の爛れた嘆きを聞いた。 「御主人……」  中の雄芯が動き始める。夫に無言で謝りながら、桜の悲痛を受け止める。ぐちゅり、ぐちゅりと潰れた音が鳴る。粘膜が擦れるだけの感触だった。それでも桜の芯は固く、リズムを持って桔梗を穿つ。気持ちの伴わない交合は平然の感覚しか残さなかった。 「産んでください、僕の子供。一生の中に僕を残してください…」  大腿を抱え、繋がりがさらに濃くなる。度重なる抜き差しによって掻き出された液体が溢れ、肌を伝い落ちていく。 「桜っぁ」  揺れる胸の小さな蕾を扱かれる。 「ぁっん、ぁっあ…」  下腹部を渦巻く仄かな灯火がもどかしく桜を締め付ける。 「む、ね……や、だ…」  親指と人差し指の腹で擦り潰されると、背筋をしならせる。桜の先端部を食い締め、潤いが増した。 「むねやだ、むねやだ…むねやぁ…っ」  人差し指がいやらしく凝り固まった南天の実のような粒を弾く。 「あっあん、ぁっあ」  冷えた身体が炙られていく。桜の下の器官に粘膜が絡み、咀嚼する。爪先が落ち着かず、膝もシーツに皺を作る。低く曇った声が頸の辺りから聞こえた。 「むねだめ…っ」  小さな蕾を揉みしだかれ、びくりびくりと弛緩と緊張を短時間に繰り返す。耳朶を甘噛みされ、最後にその実を強く摘まれる。結合部が蠢き、中のものを奥へ奥へと誘う。 「ごしゅ、じ…っ、…」  桜のこういった面に対してはまるで興味や関心がなかった。考えるのも悪い気がした。男性として見ていなかった。結婚してからは尚更だ。叔父の大切な手伝いで、弟が世話になっている親友なのだから、そういうふうに見る機会などなかった。見ようともしなかった。 「桜ぁ、あ…んンッ…」  奥の奥に入ろうと彼は必死になっている。桔梗が逃げることを許さない。生々しい人間の交尾に翻弄される。 「ごしゅじ…、ご…しゅ、じ…ん」  年下の男の必死な姿に愛しさを覚えてしまう。流され、喰らい尽くされ、貪られることに仄暗い悦びさえ見出し、触れたところから肉体の境目を失いそうになる。 「やぁ…ぁんっんっンっんっ」  後ろから腕を引っ張られ、奥を突かれると肘が伸びた。 「ごしゅじッ!」  桜は欲を吐かず動きを緩めると数度深呼吸をした。桔梗の手は放され、彼女はシーツに倒れ荒く息をした。ぼんやりした頭が少しずつ冴え、桜が何か別の作業をしていることに気付く。黒く薄い板のような端末をいじり、下から光を浴びている。コールの音が小さく聞こえた。桔梗は口元に手を当てて息を潜める。コールの音は大きくなり、耳に無機物が当てられる。目を見開いた。コールが途切れる。 『お待たせ致しました。――です』  桔梗は喉を引き攣らせる。何度も暴言のように好意を口にする恐ろしい男の声が機械で割れている。電波を通してもその声は夫と聞き間違いそうなほど似ていた。 『…どうかしましたか』  肩が震えた。中に居る桜が動く。夫の声に反応する胸の2点を避け、揉み、摩られる。 「……ッ」 『もしかして桔梗さん…ですか…?』  手の中から端末が消える。端末から小さく漏れていた声が広がるように響き、傍に置かれた。桔梗は通話を切ろうと画面に手を伸ばす。 「だめです」  桜の手に上から押さえつけられる。ベッドが軋んだ。 『大丈夫ですか…?何かあったんですか?』  一方的に抱いたくせ、電話の相手は優しかった。機械音でも会いたくてたまらない人に酷似していた。 「なんでも、な…ぁっん」  両胸を回る掌が熟れた実を轢いていく。甘い痺れに酔うと判断もつかずに夫に返事をしてしまう。 『桔梗さん…』 「い、や…声いや、あっんンッ!」  脚の付け根に桜の手が回る。花芯を捏ねられ、桔梗は鳴いた。 『桔梗さん…一体何を…』 「いや、いや…!喋らないでっ、やぁッ!」  夫とは違う呼び方に妖しい悪寒が走った。中を貫かれ、敏感な芽を摘まれる刺激に桔梗は仰け反った。もう誰に抱かれているのかも分からない。 『そんな、声…出されると…』 「あな、た…あなた…あ、あ、あっ」  シーツを掴む。腹の奥に夫への慕情が燃え盛り、猛った楔に縋り付く。 『桔梗さ…んっ…』  上擦って掠れた声は夫の情事を蘇らせる。汗が止まらなかった。 「あなた、会いたい…会いたいっ…あ、あっあっあっ」  膣内が触手のように通された軸へ絡み付く。音質のいい端末は相手の息遣いまで拾う。 『桔梗さん…好きです……』  脳味噌が沸騰する。後先も考えられなかった。ただ夫の残影と彼から放たれる情欲を求め、悶え狂う。 「声…いや……」 『醜い声ですみません。貴女が望むなら、喉を潰します』 「いや、だめ、あっあっあっ、あなた…あなたの声だめなの、あっ」  凄まじい快感が下腹部を駆け巡り半狂乱になりながら桔梗自身何を言っているのか分からなくなっていた。 『桔梗さ…ッん、ぅ』  夫の色気のある吐息に身体中が激しい炎を噴く。 「あっあぁっぁんん……ごめんなさい、あなた、ごめんなさい…っ」  桔梗は泣き叫んで官能の大波に攫われる。そこに筋肉質な腕も、厚い胸板も、心地良い毛並みもなかった。だが待ち焦がれた声がある。 『桔梗さん…』  夫の声に酔い痴れながら秘奥に迸りを受ける。多幸感と虚脱感、微かに残っている理性が乖離し、混乱する。 「会いたい……」  自身の指輪に口付ける。温かい手に嵌った槌目模様の安価なシルバーに早くそうしたかった。 『桔梗さ』  通話はぷつりと途切れ、端末が拾われる。栓が抜かれ、桔梗は崩れ落ちる。腿に大量の液体が溢れた。 「さくら…」  彼は膣に子種を撒き散らした腹を摩る。労りと慈愛に満ち、丁寧で慎重な手付きはこのような生活になる前から知っているものだった。 「僕の子を産んでください」  腹を撫でる手に手を重ねた。熱は互いに引いている。 「桜…聞いて」  拗ねた様子で桜は桔梗を向いたが、目を逸らす。 「子供、産めないんだ」  彼は目を瞠った。重ねたままの手を取り桜へ返す。 「前に病気して妊娠できないんだ、もう。だからいくら桜が望んでも…わたしが望んでも………子供は、持てない」  みるみる桜の表情は悲痛に歪んでいった。 「…残念だけれど」  夫との子も持てなかった。2人で暮らそうと彼は言っていたが、遠慮や気遣いを抜いた本音を感じても、子供は2人欲しいと聞いていた。 「御主人…そう、なんですか…」  桔梗は頷いた。桜は愕然とした様子で彼女を見つめた。 「弟には言わないで。気負わず自由に生きて欲しいから」  そのうち叔父の親族からは嫌味を言われるのだろう。弟に心配をかけたくはない。 「分かってるんです。御主人に甘えて…こんな情けないことない…御主人が親戚のことで悩んで、銀灰さんのことを考えた結果僕と離れなきゃならないことくらい…」  血の繋がらない姉弟を叔父の親族はよく思わなかった。姉弟間にすら血の繋がりがない。まだ扶養される必要のある弟は預けられた場所で上手くやっている。板挟みにして苦しめる気はない。 「貴方を好き放題した罰が下るんです、きっと…これから…」  桜は痛々しく微笑んだ。桔梗は弟にするように冷たい身体を包んだ。 「罰なんてない…恨んでないから。そんなのがあるなら、わたしが受けるから……桜は…弟のことよろしくね。分かってると思うけど、とってもいい子だから」  髪を撫で、自身の肩に彼の細い顎を乗せた。薄い背を鼓動に合わせて叩く。彼は規則正しい寝息を立てはじめた。 「おやすみ」  手を伸ばし、曇っている指輪を眺めた。 ◇ 「すみませんでした」  頭を下げる桜の両肩へ桔梗は手を添えた。空は昨日の曇りが嘘のように晴れていた。ここに訪れた日と同じ天気だった。 「元気でね」  桜の水を張る瞳に背を向けた。久々の眩しさにアスファルトを辿りながら歩く。帰ったところで夫がいるのかは分からなかった。様々な不安が一挙に押し寄せる。桜が1人で暮らしている中流層のマンションとは比べ物にならないほど寂れた木造アパートの2階角部屋は桔梗が出掛けた日そのままだった。幸い家事をすべて済ませていたため食器がカビていたり洗濯物が干しっぱなしということはなかった。夫は長いこと帰っていない。田舎を歩きに行ったのかも知れない。そういうことが好きで、端末を持たせても携帯しないのだった。郵便物やチラシの詰まったポストを確認し、日常に戻る。夫への後ろめたさを抱きながら彼の帰宅を待たねばならなかった。身体はひどく疲れていたが掃除をしていると台所の真横にある玄関扉が叩かれた。チェーンもフックも取り付けられていない扉を桔梗は不安視していたが安さには敵わなかった。何度か家に来たことがある叔父から口酸っぱく注意され、物騒な事件が起きるたび弟や遊びに来ていた桜からそれとなく言及されたこともある。しかしなかなか手が回らずにいた。ドアスコープには誰か立っているのが見えたがよく確認出来なかった。鍵を外し、小さくドアを開いたつもりだったが、外側からの力で全開になる。訪問者はまるで突進するみたいに部屋に入り込み、桔梗を台所からそのまま続くリビングまで押した。まだ成長途中の身体に片目の炎症の痕。さらさらの髪。見覚えのある少年は桔梗を毛足の長いラグに押し倒す。その者は馬乗りになり、桔梗は肩を押し付けられる。 「やっと会えた。あの人、家の鍵変えたでしょ…もっと早く来られなくてごめんね?」  少年はふわりと笑った。桔梗の喉は緊張し、声が出なかった。 「なんであの家から出てきたの?寂しかった?」  嬉しそうに笑い、まだ幼さもある薄い手が桔梗の腹を服の上から無遠慮に触った。服に手を滑り込ませ、下着を捲る。 「いっぱい我慢したから、いっぱい注いであげる…」  桔梗は少年の頬を引っ叩いた。互いに固まり、時間が止まる。少年は桔梗を澄んだ大きな目で見つめ、叩かれた頬に触れた。桔梗は指先に衝撃が残ったまま少年の動向を窺う。 「いっぱい出して欲しいんだ」  少年はにこにこ笑って、白い歯を見せた。彼は桔梗の服を簡単に破った。 「やめて!」 「だめだよ、おとなしくしなきゃでしょ」 「ちょっと…!」  破れた服から現れたブラジャーを下にずらされる。女児のような手を掴んで拒むと、顔面が爆ぜた。前髪を掴まれ激しい殴打が降った。痛みに変わる前に彼の手を離す。投げ捨てるように少年も彼女の前髪を放した。頭をラグに打ち付ける。ぐったりした桔梗のロングスカートを少年は引き裂いた。脹脛から腿までが晒され、ブラジャーと揃いの下着が垣間見える。鼻血を垂らし、頬を痙攣させながら桔梗は襤褸と化したスカートで素足を隠す。 「隠さないでよ、見てたのに」  無理矢理に作った雑なスリットを割り開き、少年は桔梗の脚を掴んだ。響くような頭と顔の鈍痛に抵抗する気など起きなかった。口の端が切れ、歯にぶつかった唇からも血が滲み、喋ることも厄介で桔梗は四肢を投げ出して下から自宅の見慣れたリビングを呆然と見つめていた。 「すごく綺麗…舐めていい?」  目を開くのも鈍く痛み、拒絶するよりも早く少年は桔梗の脹脛を舐めはじめる。腿を辿り、内股に舌が這い柔肌を吸われる。ちゅぱちゅぱと状況に不釣り合いな音が立つ。冷蔵庫の低い轟きが地鳴りのようだった。下着がずらされ、発育途中の身体の一部とは思えないほどの隆々とした芯を当てられる。 「ぁう…っ」  慣らされることもなく閉ざされた秘部が力尽くで侵入し、隘路を削っていく。 「痛っ…」 「いっぱい出して、気持ち良くしてあげるからね…!」
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