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第5話

 夫の声をした、夫ではない男のゴムに覆われた肉欲が打ち付けられる。本人なのではないかと疑ってしまうほど柔壁の把握する形も大きさも夫だった。リズムまで同じだと、悦壺は男を夫と認識し蜜を流しては夫の好む強さと間隔で蠢いてしまう。 「ッぁ、あ…好きです…、」 「あっあっ、は、ぁあんっ」  男の欲情がさらに乱れた桔梗の媚肉を煽る。胸の頂をいじられ、取り残されていくような鈍痛に近い痺れに、たまらなくなると男の胸倉を掴んで口付ける。容赦のなく迎え撃たれ、すべてを奪っていく舌の動きにただ桔梗は官能を拾うだけの丸裸な状態にされていった。 「…っ、好きです、好き、好き…貴女のことが好き…」 「あっぁぁんっく、ん、ぁッぁ」  ただ目の前の半裸の女に性的関心を刺激され、踊らされているだけだと思っていた。何も響かないと。しかし彼の声が、彼の律動が、彼の熱茎が桔梗の疑いを裏切った。 「貴女と…こんなふうになれるなんて…ッ…好きです、好き、苦しいんです。ぁっ」  肌が合わさるたびに起きる乾いた音と、結合部から漏れる卑猥な水音が他の物音を消し、切ない男の告白を引き立てていく。同情と保護欲が桔梗の性感を助長する。 「だめ、だめ…ッ言わない、で…!やぁあっぁんんあっ、ゃ、」  意図せず互いに高め合ってしまい、会話は拭い去られ行為に没頭する。 「言います!届いてますか、?ッ…今度は伝わっていますか……」  奥を抉られる。胸の色付きを摘んでいた手が腰を抱き、さらに下半身が密着し粘膜が重なった。汗ばんだ肌が吸い付くように馴染み、皮膚を合わせる。 「好きです」 「っあああぁぁんっ!」 「…っっ!」  電撃が走り、夫と認識してしまっている男の脈動を感じ視界が真っ白になった。 「…俺を……ッ…見て………」  わずかに残る意識が哀れな夫の幻影を無意識に抱き締めていた。 ◇  目が覚めると視界を覆っていた布は取り外されていた。ホワイトシャツは皺だらけだったが前を閉められ、レースショーツは新しい物に替えられている。喉がからからに渇いていたが桜を呼ぶ気にもならずもう一度目を閉じる。隣には誰もいない。本当に夫ではないのだと知る。しなやかな腕の重みを感じながら幼い寝顔を眺めるのが好きだった。しかしベッドには桔梗ひとりしかいない。冴えていく頭が情事を振り返り、桔梗は髪を乱した。夫には確かによく似ていた。夫なのではないかと疑うほどだった。だが夫を知っていれば知っているほど、微妙な差異が夫でないことを知らしめる。だというのに、夫の紛い物によって肉体も精神も満たされてしまった。視界を塞がれたなら簡単に騙されてしまった。無邪気で不器用な愛しくて焦がれて焦がれて堪らない相手とは話し方も態度もその仕草も正反対だった。曇り空を見上げ、夫にはもう会えないのだという考えが色濃く浮かんだ。髪を掻き毟って、嗚咽する。夫への不義が身を蝕み、沸点に達した罪悪感に悲鳴を上げた。足音が忙しなく聞こえ、桜と見覚えのある男が扉を蹴破る。見た目はいくらか桜と雰囲気が似て、2人をまったく知らない者からは兄弟ほどに見えたかも知れない。しかし喋ると夫なのだ。長い睫毛の奥の焦茶色の双眸が桜の後ろで桔梗を見つめていた。視覚さえ利いていれば、ビターショコラの髪も伏せがちな目も夫とは違っていた。育ちの良さすら感じられる。ただ何となくふとした仕草が似ていると2人で暮らすまでは漠然と似ていた。他人に丸投げしたい悔しさと痴態を晒した不甲斐なさと、自身への怒りが噴火する。 「御主人」  桜に宥められるが桔梗には夫の紛い物しか見えていなかった。桜の肩越しに夫の幻が近付いてくる。 「来ないで!来ないでよ!嫌!」  桜に抱き締められ、撫でられる。そこに艶めいた意図は感じられなかった。 「桔梗さん…」 「嫌!喋らないで!こっちに来ないで!」  半狂乱になりながら押さえ付ける桜を振り切り、頭を抱えて蹲る。 「来ないで……嫌…」  桜の手が背中を摩る。彼の細い肩の向こう側で夫の偽者が立ち尽くしていた。美しい顔をしている。夫が太陽ならば月といった雰囲気の上品さと慎ましさのある顔立ちだった。見れば見るほど、夫を近くで感じるようになればなるほど、容貌はそこまで似ていないことに気付く。彼は桔梗のヒステリックも聞かずさらにベッドへ歩み寄った。まだ同じ会社で働いていた頃でさえここまでは近く接したことがない。常に叔父を挟んでいたし、叔父もまた自然に2人の間に割り込んだものだった。桜の腕に隠れ、恐ろしい青年の足元を見つめる。目を合わせられない。桜の腕であることも忘れ、強くしがみついた。寒さに歯が鳴る。 「桔梗さ…」  桜が振り返り、彼の名を呼んだ。その青年は形の良い眉を歪めて踵を返した。 「桜…」  凍えそうだった。桜の体温に身を寄せる。 「御主人…」  羽毛布団に包まれ、温かい手に摩られていくうちに落ち着いた。青年による落とされるような失神とは異なる眠気に傾きかける。 「御主人」 「あの人は、嫌……あの人、怖い…」  譫言を繰り返し桜の身体を滑り、膝に上体を乗せる。唇に小さな金属の冷たさを当てると落ち着いた。夫に会いたい。ただ夫に会いたい。すべてを話し、きちんと謝ってその後は夫に任せるしかない。不義理を働いた者に相手を縛り付けておく権利など無い気がした。 「御主人」 「あの人はだめ…あの人は嫌…」  夫の声で、夫では言わないことを囁かれる。身震いした。あの青年が喉を鳴らすたび、空いた夫を埋めようと肉体は熟れてしまう。 「御主人…」 「あの人の声、やだ…あの人やだ…」  髪を梳かれ、リズムをつけて羽毛布団の上から優しく叩かれる。ぽろぽろと涙がこぼれた。夫に会いたい。ベランダを見つめた。広がる曇り空の下でほっつき歩いているはずだというのに遠かった。 「御主人」 「会いたい…」  自分の身体を抱き締める。夫の感触を思い出す。あの青年の肉感ばかりで、桔梗は誰のものかも忘れた膝に頬を擦り寄せる。 「ごしゅ…」 『好き…』  指輪に口付ける。夫の槌目模様が入った指輪にそうするのが好きだった。夫との過去の営みに浸りながら眠りに就く。  ベッドが軋む。腹の中に熱い欲が出入りしている。桔梗は飛び起きたが、強い力に腰を留められ、起きたつもりがベッドに上体を転ばせた。鎖が外され、両手が左右に開かされる。手枷の上から重みがかかり、陰が彼女を覆った。 「あんなふうに抱かれて、あんなふうに乱れるんですね」  内部にいた芯が勢いを強めて秘筒を穿った。 「ぁうっ…」  失望が窺えた。しかし逆光した相手の顔には興奮が透けてみえる。 「抱かないつもりだったんですよ…だって御主人は僕の御主人ですからね…」  両手を縫い止められ、抵抗できないまま媚肉は柔らかく桜を受け入れ、緩やかに引き絞る。 「でも、……僕は御主人のものなのに、御主人は僕だけのお人じゃない…僕は貴方のペットなのに……御主人…」 「………あの人は、帰ったの…?」  腹奥を突かれる。意識的にそこを狭めた。肉路を破り開かれて下腹部を暴かれると頭は鈍くなった。それでも真っ先に夫の紛い者が脳裏を過った。また出て来られたら、冷静でいられなくなってしまうことは何となく予想できた。桜は目を見開いて泣きそうな顔をした。それでいて中の濡楔はさらに膨張する。蜜口を調節してやれば桜は泣きじゃくるような嬌声を低く漏らした。 「あの人には……もう会いたくない…」  桜はあまり色事に慣れていないらしかった。密かに同年代や年上の女性から好まれそうな出立ちではあったが、本来の真面目さや慎ましやかな性分からかあまり積極性を持たず、そういったことにも大した欲がないようだった。触れる指、掌、手付きは優しいが慈しみばかりで何かが足らず、親兄弟にされるような情念に近かった。 「御主人…」 「あの人が帰ったなら、それで…」  桜から目を逸らし、ベッドへ完全に身を委ねた。惑っている幼い燈を奥へ誘い、腰を揺らす。 「あっ…ごしゅじ…っん、」  桜は動くに動けないまま、熱い息を深く吐いた。細い腰を脚で抱き寄せ密着する。 「ごしゅじ…ぁっ」  芯が中で張り詰めていくのを感じる。まだ少女性を残した雰囲気と肉体が小刻みに震える。そのうち始まった脈動が仄かに甘い疼痛を呼び起こす。桜は目を瞑り、唇を食んで快感に酔っていた。だが彼女の腹に熱が広がっていくことはなく、抜けた直後に彼は股の間から何かを剥がした。鼓膜を引っ掻くような音はゴム独特の軋みで、ベッド脇のゴミ箱に中身を持った物体が落ちていった。 「御主人…どうして僕じゃ、ダメなんですか……どうして僕は、愛されもしないで、嫌われもしないんですか…御主人にとって僕は、何でもない1人なんですか……?」  桜の手が桔梗の胸へ伸びていく。柔らかな膨らみが形を変える。自由になった手が胸を揉む彼の手を止めた。 「御主人…」 「何でもない1人ならもう逃げてる」  羽毛布団をかぶり桜へ背を向けた。自分に時間を割かず痩せていき、身体中に引っ掻き傷を付けられても尚、彼は監禁を辞めようとはしない。 「御主人…御主人のこと、離したくない…どこにも行かないでください。ずっと傍に居てください」  返事をせずにいると桜は横たわる桔梗の上に布団を隔て寄り添うように身を倒す。 「御主人…傍に居てください…ずっと傍に……捨てないで。貴方に捨てられたら、僕は…」 「いつまでもこんな生活、続けられるわけない」  桜は桔梗にしがみつき、暫く黙っていたがやがて尾の模型を出してくると無抵抗な彼女の秘所に男性器を模った無機物を埋め込んだ。張り出た部分が蜜口を抜けてしまえば後は異物感が残るだけだった。動きは荒々しいものの鈍い痺れがじわりじわりと起こるだけで、夫と思い込んだ他人の熱根で激しく乱されてしまうと心身ともに生易しいものにすら感じられた。  桜は無表情で尾を生やす桔梗を見下ろしていたが、やがて彼女の胸に触れた。柔らかな膨らみを全体的に撫で回しながら、反応を示した頂を親指で弾く。 「ぁん…っ」  凝っていく小さな淡い色の実を捏ねる、桔梗の腰はがくがくと揺れはじめる。 「待って、桜…」 「御主人は、胸を触らないと感じないんですね」  円を描くように擽られる。彼女は胸を突き出し、腿が震えた。 「ぁ、あっ…ん…」 「御主人」  控えめな色付きは生々しい肉粒となって桜の指に弄ばれる。優しい手付きが時折残酷になってその緩急に力が入らなくなった。そこからの決して強くない疼きが淫らな妄想を呼び起こし、内在する違和感を別のものに塗り替えていく。 「ぁぁ、あっあっ」  片方の胸から手が去り、下腹部へ向かっていく。すでにひとつ物を咥えている花弁にさらに桜の指が忍び込む。狭い薔薇膜を捲り、無理矢理に中を広げようとしている。 「あっ…!いた、い…桜、挿れないで…っ」  凶暴な無機物が跳ねるたび桜の指に加勢する。愛蜜が溢れて節くれだった指が半分ほど入った。 「やっあっ!痛い……くるし…ッ」  大きく中を占める物とは別の動きをして内壁をなぞる。 「切れちゃう!ぁっあっ」  狭路を這うように進もうとする指が抽送に変わる。蜜口が軋むような感じがあった。 「いやっ…い、や……怖い、桜ぁ、あっん…ぁ…」  胸の刺激が強まり、腹奥を締めてしまう。ぬるついた指の形がはっきりする。胸の色付きを抓られ、息苦しさと膜の破れそうな痛みが快楽に変換される。 「桜、桜っ、さくら…ぁ」 「僕のこと、もっと呼んでください」 「ぃやぁっ!いやっ、やめて…、抜いて……」  桜は虚ろな目をして眉を下げた。上体が桔梗の胸へ倒され、肩を押し戻す。薄紅色の舌が胸の粒を舐めた。尖らせた舌先が大きもなく小さくもない丸い膨らみへ色付いた部分を陥没させる。軸が中に埋まり、胸の中に微かな痺れが鼓動に乗って頭と下腹部に駆けていく。乳飲子みたいに吸われると、強い快感と切なさに悶え、無機物よりもはっきりと細く長い指の輪郭を感じる。 「あんっあ、や、桜、桜っ…!」  唾液が薄い色の粘膜を光らせる。ざらついた舌の表面が小蕾を転がし、つるりとした裏で焦らす。胸を反らして、余計に桜へ弱いところを押し付けてしまう。悦楽に支配され、桜の指を締め、腕を挟み、手は桜の後頭部を抱いてしまう。さらさらとした茶髪が心地よかった。 「あ、あ、あ……やぁあっさくらぁ!」  夫によって教え育てられた胸の快感が蜜孔で浅く爆ぜ、指の腹で内壁を掻く桜の指を絞めた。無機物の振動がさらに性感を高め、張り詰めた胸の実が疼くと切なくて自身の唇を吸った。縋り付いた桜の肩から腕が落ちる。膣内から指が抜けた。わずかに空いた中を埋めようと無機物を強く食んでしまう。 そのうち黒猫の尾も抜かれた。しかし休む暇もなく収縮の治まらない秘穴に体温を持った膨張が当てられた。 「さくら…っ」 「御主人…」  再び熱の塊が入り、桜と身体が重なった。 「僕の子、産んでください…そうすれば、もう僕から離れられないでしょう?」 「さくら、ぁ、」  桔梗の下半身を潰さんばかりに腰を進め、子壺に先端を強く押し付ける。 「御主人……僕は御主人がいればそれで満足なんです。もう何も要らない…御主人…御主人…」  桜の声は上擦り、抽送が始まる。中を張り出た部分が掻くたびに反射がその形を捉える。 「さくらぁぁ…」  ぎこちない運動だった。腕を取られ、交差にして手を握られ、動きが速くなる。粘膜を擦られている。それだけだった。小さな感覚を拾いはするものの、それ以上のものはない。早く終われとばかりに中をうねらせれば、彼はさらに挿入を深めた。 「ど…して、御主人…っぁ、あぅ、」 「桜は、…っ、世間を知らないだけ…ぁ、んッ…わたししか、女の人、関わり…ないんでしょう…?っ」  首を曲げて桜から目を逸らす。桜は両手を放し、彼女の胸を掴んだ。腹と腹が合わさり、腰の打ち付けはさらに速さを増し、結合部が粘着質な音を響かせる。冷めていた身体にぎこちない昂りが挑みかかり、桔梗は彼から感じる苛烈な欲望に呑まれそうだった。
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