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第2話

 ねぇ、御主人、今日は…  髪に櫛を通しながら桜は学校であったことを話した。彼は桔梗の弟と仲が良い。結婚してからは別居し、叔父の親戚のもとで暮らしているため弟とも少しずつ慣らしながら距離を置くつもりでいた。しかし弟は義兄によく懐いている。夫もまた義弟をよく可愛がっていた。 「御主人…」  桜は虚ろな目を眇め、桔梗の裸体を抱き竦めると共にベッドに横たわる。桜もまた一矢纏わぬ姿で体温に触れる。櫛で散々梳かした髪を今度は手櫛で梳いた。 「今度授業参観があるんです。来て欲しいです。だめですか?」  髪から手が抜かれ、彼は背中に顔を寄せた。 「銀灰(ぎんかい)さんだって喜びますよ」  弟の名を淡々と呟き、さらさらした茶髪が桔梗の背を擽る。 「御主人…」  やがて穏やかな寝息に変わっていく。腹に腕が回り、身動きは取れなかった。御主人、御主人と何度か夢の中で彼は呼んでいた。密着した臀部からまた一箇所の熱を感じる。膨らみが増していくたびに抱擁は強くなり、桔梗の小さな双丘の間に沿って徐々に入っていく。桔梗は可能な限り上体を捻り、鎖で繋がれた腕を後ろに回した。片手が真後ろの昂りに触れる。そのまま扱くことは出来なかったが、先端部を親指と人差し指の輪に通すと、彼から腰を揺すり始めた。安らかな寝息が荒れ、掠れた声が微かに混じった。 「…ッ、ごしゅ…じ…」  桔梗の腹に桜の指先が減り込んだ。痣が出来そうなほどに強く抱き、桔梗の指が濡れていく。背筋と腰で彼の欲液を受け止める。掌に脈動が伝わる。緩やかな動きで指にまで悦楽の残滓(ざんし)が塗られた。日が沈み部屋が暗くなっていく。桔梗は背後からの重みに耐えながらレースカーテン越しに空を見上げていた。放浪癖のある夫は妻が帰らないことも知らずにいるだろう。家のことが気になった。安アパートだが2人で、ほとんど1人で暮らすには十分な広さだった。 「御主人…」  シーツが音を立て、抱き締め直される。腹を押さえていた腕が桔梗の腕ごと胸元を支える。 「桜…」  深い溜息はもう一度寝に入るらしかった。 「御主人…捨てないで…」  衣擦れがした。寝起き特有の嗄れた声で桜は舌ったらずに呟く。 「捨てないで…御主人に捨てられたら僕…」  桔梗は答えを持っていなかった。 ◇  桜が学校に行っている間、来客があった。鍵を開けたということは知り合いらしいが、合鍵を渡すほどの親しくそれでいてこの時間帯に自由の利く条件を満たす者を彼の口からは聞いたことがなかった。空き巣かも知れない。桔梗はレースショーツの他に1枚だけ羽織らされた桜のシャツの裾を無意識に引っ張っていた。ベッド柵に首輪の鎖を繋がれ、逃げることは出来ない。足音が寝室のすぐ外で止まった。心臓の鼓動がうるさかった。ノブが回る。誰かが来る。桜でないことは確かだった。彼はたとえ魔が差しても悪戯の類を嫌い、焦らすような真似はせずすぐにこの部屋へやって来る。扉が開いた。やはり桜ではなかった。敷居の前で少年といった具合の人物が立ち、桔梗と目が合った。左目の周辺だけ激しい炎症を思わせる痕があった。 「あれ?」  その者は呑気な声を上げると、ずかずかと桔梗のいるベッドまでやってきた。 「うっそ」  どこか嘲笑じみた調子で桔梗をじろじろと観察した。むしろ清々しいほどの陰険かつ悪意のなさそうな笑みが口元に浮かんでいる。 「貴方やっぱり…兄の…恋人(オンナ)なんですか」  無遠慮に訊ね、ただでさえ好奇の目をむけていたというのに、桔梗の左手に光指輪を見つけるとさらに好奇に満ちた目がぎらついた。口の端を吊り上げ、やっと桔梗と目を合わせた。 「趣味悪いですねぇ…」  薄紅色の小さな唇や、さらさらとした髪、澄んだ大きな目は人形のようだった。 「ベッドに繋がれてるんだ」  少年は納得して桔梗の首輪を繋いでいた鎖をベッド柵から外した。短く持って、いやらしく笑った。 「まさか結婚してるなんてなぁ。落ちこぼれのクセに、生意気」  少年はぼやき、首輪に繋がれた鎖を引っ張った。 「貴方のこと覚えてますよ。父に恥かかせてくれましたよね。覚えてますかぁ?」  桔梗にはまるで覚えがなかった。首を振る。少年は微笑みを浮かべているが、ロイヤルミルクティーとも氾濫した川の水ともいえない色合いの大きな目は少しも笑っていない。 「覚えてないんだ。墓参りの時に会ったじゃないですか。父があの人を怒って、貴方はあの人を庇って、乱闘騒ぎになりかけたの覚えてないんですか」  桜の母親の墓参りで、ばったり桜の家族に会ったのは覚えている。姉妹兄弟が多く全員を把握出来なかったがその中にいたのかも知れない。傍を通りかかった大学生らしき男性が仲裁に入らなければ警察沙汰になっていただろう。 「父みたいな立派な官僚が、貴方みたいなしがない小娘に公衆の面前で顔に泥を塗られたんですよ…僕もあんな恥ずかしい思いしたの、生まれて初めてなんです」  鎖を力強く引っ張られ、桔梗は首輪を押さえた。寝室から引き摺り出され、リビングに放り込まれる。ほぼ初対面のつもりの少年は桔梗をフローリングに突き飛ばし、彼女は肘と腰を強かに打ち付けた。起き上がる隙も与えられず、少年は桔梗に馬乗りになるとシャツの前を引き千切った。ボタンが飛び散り、からん、からんと軽快な音を残していった。胸が露わになり、桔梗は少年を振り払おうとした。だが両手の間の鎖を掴まれると自由を失う。舌舐めずりをして彼女の裸体を眺る眼差しに桔梗の肌は火照った。 「や、めて…!」  少年の手の中で鎖が(たわ)む。 「放して!いやっ!」  桔梗は暴れた。見た目からいってこの少年はそう重くはなさそうだった。両腕を振りたくり、身を捩る。 「うるさいですよ」  横面に衝撃が走った。熱くなり、痛みへ変わる。視界が一瞬真っ白くなり、何が起きたのか分からなかったが疼きはじめる頬から殴られたことを知る。 「うるさいです。隣に聞こえたらどうするんですかぁ。あの人ここに暮らせますかね?あれだけ面の皮が厚いんだ、暮らせますね」  少年は自問自答し完結させるとアイロンによって綺麗に畳まれたハンカチを取り出し、桔梗の口腔に詰めた。両手の鎖を掴んだまま、少年の片手は膝の間を割り開き、レースショーツを引っ張る。 「うっん~、うっ、ぅっ!」  桔梗の声は口内のハンカチによってくぐもる。激しい抵抗も空しく、レースショーツは破かれた。少年は下半身を晒した。愛らしさの残るあどけない顔立ちに似合わない屹立が桔梗の目に入る。彼のそこは縫い痕があり双袋がなかった。恐怖と見慣れない生々しさに襲われ、踵がフローリングを蹴り、少年から後退る。少年の少し汗ばみはじめた手が膝を捕らえ、そのまま脚を抱え込まれてしまうと引き戻されるしかなかった。 「ぁう、うっ!ぅうぅッ」  少年の澄んだ眼差しの上で眉がぴくりと動いた。両膝を割ろうとした手が放される。見せ付けるように宙に残された手は、桔梗の髪を鷲掴む。少年は桔梗の顔面を殴打した。口の端が切れ、鼻血が垂れていく。目元に赤黒い痣が浮かび、血液混じりの唾液が彼女の唇を濡らした。口からはみ出たハンカチにも所々血が付いた。 「抵抗したら痛いだけですよ」  鷲掴んだ髪が乱暴に離され、少年の指に毛が絡んでいた。桔梗は抵抗の意思を捨て、ぐったりと四肢を投げ出した。 「抵抗されてるうちが華なのかも知れないですね」  少年は破れたレースショーツを捲った。秘部に少年の楔が当てられた。一呼吸置いて、少年の腰が進む。ハンカチと唇を噛んで、身を真っ二つに裂かれるような軋みに耐える。 「ぅんんんんっ!」 「きつ…ッ、」  中に初対面同然の少年が居る。動きを()き止めるように密肉は少年の雄芯をきつく締める。しかし奥から花蜜が溢れ、徐々に少年の出入りを許してしまう。 「ナカ、すごく熱い…すごい…」  少年は桔梗の膝に手を掛けながら恍惚とした表情で腰を前後に動かしはじめた。彼女はゆるゆると(かぶり)を振った。彼女の夫だけが知るその柔肉を少年は欲望のまま貪った。 「うっんんっ、うっう…」  桔梗は首を振る。眼球の裏側が痛いほど熱かった。夫の姿が浮かぶが、どれも彼女には背を向けていた。 「そんな声じゃ、つまらないよ…っ」  少年は腰をさらに強く押し込んだ。奥を突かれ、桔梗は呻いた。彼は前のめりになって桔梗の口からハンカチを引っ張り出した。 「抜いて…っ!抜いて…!」 「いいですね。ほら、もっと、苦しんで」  揺さぶられるたび震える乳房に少年の手が掛かった。 「嫌っ!いや!やめてっ」 「綺麗な肌ですね。桃みたいだ。甘そう」  彼はまた前にのめった。深く楔が挿入され、中がうねってしまう。 「気持ち、いい…すごい…熱くて、絡んでくる…」  荒い息が近付き、乳房の頂を口に入れた。生温かな感触に敏感なそこが包まれた。 「あぅぅッ!」 「…ッ」  蠢いていた少年の腰が止まる。快感に蕩けた表情がわずかにつらそうに歪んだ。舌で胸の実を転がされると桔梗は背筋を弓なりに反らし、腰が跳ねた。少年はそのたびに抽送をやめてしまう。内部で屹立が躊躇いながら抜けていってはまた狼狽えながら入ってくる。 「だめ…こんなの、腰、止まらないのに…怖い…」  少年は慎重に奥へ進み、何度か止まってしまっていた。眉を寄せ唇を引き結び、とろんとした目が桔梗を離さない。 「どう…したらいいか、分かんない…こんなの、」  困惑に染まった目が桔梗に近付く。少年の指が唇の端の傷に触れた。鋭い痛みに顔を顰めると、腹奥の物の質量が増す。 「気持ちいい、腰溶ける…だめ、ぁあっ」 「やめて…抜いて…」  少年は桔梗の肌を吸う。鬱血痕が点々と描かれていく。少年の腰を打ち付けはすぐに止まり、そして短い休憩を挟むと再び激しさを取り戻すの繰り返しで、桔梗の知るものとはまったく違った。疼痛に似た妙な痺れが染みるように生まれ、桔梗は拘束された両腕で顔を隠した。 「急に、吸い付く、」  少年は甘えたように喋った。そして桔梗の顔を覆う手枷を鎖を持って引き剥がした。互いの(とろ)んだ瞳がぶつかると、少年は小さく唸って、桔梗の腹の中に熱が広がる。脈を打ち、数度に分けて迸る。 「う、そ…いや、やだっ、中、出て…」 「だめ、抜けない…無理…」  あどけない手付きで腰を固定され、脈動が治まった後も彼は中に残滓を塗り込んでいく。 「いや…いや、いやぁああっ!」 「旦那さんに、今晩…抱いてもらえないね…」  少年が桔梗の中から出ていった。栓が無くなり、とろとろと秘所から冷めた白濁が滴り落ちる。ぼうっとした目で少年はそう言うと、天井をただ見つめている桔梗の無防備な内腿にまで鬱血痕を散らした。そこにだけ花弁の刺青でも入っているかのようだった。 「また、やらせて」  服を整えながら少年は動かない桔梗を見下ろす。さらさらした長めの前髪の奥で少年の頬を淡く染まっている。 「貴方のコト、好きになっちゃった」  桔梗の目が少年を一瞥する。 「もしかしたら、僕の子供デキるかも」  桔梗の腫れはじめた目元から涙が落ちていく。血と唾液で乾き、逆剥けた唇が小さく震えた。 「それであの人は僕の子供を育てるんだ」  少年は薄気味悪く笑い声を出した。 「あの人、父親面して、のうのうと暮らすんだ、自分の子供だと思って。ねぇ、絶対産んでよ、僕の子」  桔梗の瞳はただ天井を映す。少年の掌は先程まで顔中を殴り付けていたものと同じに思えないくらいに優しかった。 「ねぇったら!」 「…帰って………帰ってください…」  腹の奥が痛んだ。吐気を催す。しかし知らない人の前では本当に吐けそうにはなかった。 「今日、妊娠してくださいよ。今妊娠してください。次いつ会えるか分かりませんもんね。あの人が貴方のこと隠すかも知れないんですもんね」  桔梗は目蓋を閉じた。下半身に、少年の下半身が沈んだ。粘膜が何度も力強く擦れ合わさり、慣れない律動に反応した彼女の圧迫でまだ幼いくらいに若い肉体は女の腹奥に何度も子種を注いだ。 ◇  殴られた頭が痛くなりながらも破れたレースショーツを適当なゴミ箱に捨て、リビングに散ったボタンを探す。桜の借りているアパートは立派だったが、借りている人間がもともと質素な生活を好むようで必要最低限の家具しか置かれていなかったため、シャツに残った2つを除き、ボタン3つはすぐに見つかった。裁縫道具の場所は分からず、分かったとしても両手の自由が利かないままでは上手く付け直すことも容易くは無さそうだった。片付けわ試みるが内股を伝って落ちてきてしまう初対面同然の少年が執拗に出していった種液で部屋を汚さないように一箇所に留まっているのが精々で、桔梗はボタン3つをテーブルの上に置くとそのままフローリングに横たわる。目蓋が重くなり、頭は鈍痛に取り憑かれ、身体はひどく怠かった。少しの間眠り、玄関の鍵が外れる音がした。 「御主人、ただいま帰りました。御主人!」  寝室へ向かいかける桜がリビングの前で止まった。彼が手に下げていたビニール袋が落ちる。時間が止まった。桔梗が先に目を伏せたことで再び時間が流れ出した。 「御主人……?」  桜はただ瞠目し、口を半開きにしたまま桔梗の前で固まった。 「合鍵作られてるみたいだから、気を付けたほうが、いいよ…」  背を向けて膝を抱いた。周りには桔梗を通した他者の体液が落ちて乾いていた。 「御主人…」  震える手がシワだらけのホワイトシャツに掠れた。 「シャツ、ごめんなさい。貸してくれたのに」 「そんなこと…」  混乱と戸惑い、遠慮が伝わった。優しい桜の前に晒したくない姿だった。誰より心を痛めて、自身を蔑ろにしてまで献身的に尽くそうとしてしまう。彼は本来そういう人で、今でも本質は変わってはいない。 「掃除はちゃんとするから、許してね」  傷付いた姿など見せれば気を病むような人なのだった。
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