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第1話

 飼ってあげます。桜は言った。桔梗は喉をひくり、と攣らせた。元の勤む先から捨てられていたところを拾ってから、彼は桔梗によく懐いていた。桔梗の叔父にもよく懐き、人嫌いなその人に親友とまで言われていた。 「や、めなさい、桜!」  少し荒れた肌は成長期特有のもので、年下の男なのだと強く感じさせる。 「捨てるって言うなら、僕が飼ってあげます。どうせどこにも行けないんですよね。帰れないんですよね?」  ぎらついた瞳に射抜かれる。叔父が病死してから、その後の始末の価値観の違いによって他の遺族と揉めたのだった。その時に言い渡された絶縁によって、叔父と仲の良かった桜にまでその関係を押し付けたのが始まりだった。生々しい体温が桔梗の腕に触れた。鳥肌が立ち、反射的にその手を叩き落とした。桜は潔く拒まれた腕を下ろした。悲しむような、それでいて無表情ささえ持った眼差しをただ桔梗に向けている。思わず彼女も受けて立とうとその双眸を睨み付ける。 「ねぇ御主人。御主人は僕のコト、ただの使用人だと思っているんでしょうけど、これでも男なんだって、分かってますよね」  その言葉の真意を問いたかったが、桔梗は躊躇った。返答次第では、もう本当に後戻り出来そうになかった。優しく、慈悲深く、穏やかで清らかな使用人として見ていた。だから同じ部屋で寝ていた。同じ時間を過ごした。そこに他意はない。しかしここで性別を匂わされると、途端に桔梗は弱くなった。 「脅しているの?」 「いいえ。でも半分そうです。逃げてください、御主人。貴方を捕まえます」  桔梗は逃げなかった。桜の手は無抵抗な彼女の衣服を脱がせにかかる。彼の目には普段の柔かさが消え、傷付いたような表情で一度も桔梗の首から上を見ようとはしない。やめるものだと高を括っていたのか、それともどこか儚さをみせる彼を1人にしておけなくなったのかもう桔梗には分からなかった。 「御主人はずっと僕の御主人なんです。でもそれが許されないなら、僕が貴方を飼いながら御主人の飼猫になります」  顔色ひとつ変えず桜は桔梗を全裸に剥いた。彼は医者になりたいようで裸など見慣れているか、そうでなければ羞恥や興味の対象ではないのかもしれない。 「僕を捨てようなんて、許しませんよ。許されるわけがないんです」  桜は呟きながら桔梗の衣類を抱いて奥へと消えた。しかし袋を片手にすぐ戻ってきた。 「こうなるかも知れないなって考えは僕の中にはあったんですよ、2割くらい。残りの8割は、御主人が僕を捨てるはずないって思ったんです」  袋の中身を漁りながら桜は言った。中から取り出されたのは真っ赤な手枷で、毒々しい光沢を持っていた。革のような素材はしっかりしている。 「これね、特注だそうですよ。量販店のものは華奢で、御主人ならすぐ仕掛けを見破ってしまいそうだったんですよ。専門店まで行ったんです」  桜は桔梗を見ることなく彼女の腕を取り、赤い手枷を片腕ずつ手首へ巻き付ける。鎖を繋げられ、両手は自由を失う。桜は屈むとそのまま袋にもう一度手を入れ、また桔梗の手に巻かれた物とほぼ同じ枷を取り出した。黙々と両の足首に巻いていく。足には鎖を繋げず、彼は立ち上がった。 「桜…」  手足の枷とそっくりそのまま大きさが違うだけの輪が桜の手に握られている。両手を繋げる鎖よりもさらに頑丈そうな鎖がそれには付いていた。 「飼ってあげます」  後退ってしまうが、その一歩はすぐに埋められた。手枷の鎖を掴まれ、桜は瞬時に離れたたった一歩に悲しみを表した。桔梗はもうそれ以上動けなくなった。首輪が嵌められていく。首元を覆い、鎖骨や顎に当たるほど幅があった。鎖を引っ張られ首も自由が利かなくなる。 「御主人」 「さ、くら…」  頭に黒の猫耳が付けられる。桜は再び袋の中身を漁った。しかし何も取り出さず袋ごと掴んで彼は桔梗の両手を繋げる鎖を引いた。別室に連れて行かれる。間取りは大体理解していた。扉を開けた時にベッドが目に入って手枷を引っ張られながらも部屋の中に入ることを拒否してしまう。 「桜、」 「…御主人」  この少年が時々醸し出す儚さを帯びた雰囲気に桔梗は弱かった。逆らえなくなってしまうのだ。 「御主人」  彼がもう一度呼んだ。鎖を引っ張られ桔梗はベッドの脇に立った。日常として傍で感じていた柔らかな空気がもう桜からは感じられなかった。 「寝てください」 「さく、」 「御主人」  まだ幼さの残っていた目が落胆を持って桔梗を覗き込む。声は優しかったが有無を言わせない威圧感があった。自宅だというのに綺麗に整えられたベッドの上に躊躇いながら乗った。桜はそれを軽侮(けいぶ)するような、見限るような目で見下ろしていた。そして彼も服を脱いでいく。桔梗はびっくりしてベッドから降りようとした。何をするのか嫌でも想像できてしまう。 「嬉しいんですよ、御主人。貴方は旦那さんより、僕を選んでくれたんですよね」 「違…う…」  桜は桔梗の左手を掬い、薬指の指輪へ目元を眇める。乾いた冷たい彼の手が何か得体の知れないものに思えた。 「御主人が思うようなことはしません。だから安心してください。僕は飼猫と遊ぶだけですから」  次々と桜は衣類を脱いでいく。2人分の体重が乗りベッドが軋んだ。 「さ、く…ら…」  彼の自宅に事の次第を告げに来た時とはまったく違う、知らない人みたいだった。彼は桔梗の肌に触れ、腕や腿を乾いた掌で撫で摩る。労わるようでもあり、滑らかな彼女の皮膚を楽しんでいるようでもあった。後ろから抱き竦めるような体勢で桜はベッドに身体を倒した。まだ発育の余地がありつつもほぼ完成している華奢な肉体を桔梗は背で感じた。肩に息がかかり、くすぐったさに身を強張らせる。腿を摩っていた手が内腿に移動し、桔梗は脚を閉じた。柔らかな腿が骨張った桜の手を押さえ付ける。 「御主人」  耳が柔らかな質感に挟まれる。諭すような穏やかな声音は普段のものと変わらないくせ、裸体に触るその手は桔梗の知る桜とは違っていた。 「御主人…」  優しかった桜の声に溶かされる。しかし腿の間に挿し込まれるその手を受け入れるわけにはいかなかった。 「桜…どう、して…?」 「御主人を傷付けたくないんです」  桜のあまり筋肉質ではない腕が無理矢理に桔梗の力んだ腿を持ち上げた。秘められた箇所を晒し、桔梗の顔が一瞬にして赤く染まった。抵抗も許されないうちに節くれだった指が狭まった粘膜に伸びる。 「桜…っ!」 「力抜いてください。爪が刺さります」  自身の股に伸びた両手の鎖を空いた手で制される。粘膜の膨らみに他人の指が触れ、下腹部に甘やかな電流が走った。びくりと腰が動き、尻に桜の腰が当たった。 「い…や…ぁ!」 「御主人」 「さ、くらぁ…」  意に反して桜の指先が小さな膨らみを擽るたびに桔梗は込み上げる熱を息にして吐き出すしかなかった。上擦った声でそこを触らせるはずもない者の名を呼ぶ。応えるように柔らかな丸みを捏ねる指が増えた。指の間で弱く潰されるとまた違った快感を生んで桔梗は背筋を反らす。 「御主人、どうですか。上手く出来ていますか」  まるで裁縫を教えた時とそっくりそのまま同じ調子で、この場にそぐわない彼の態度が桔梗を羞恥の中へ置き去りにする。 「さくら、さく、ら…」  腿を支えていた手も彼女の下腹部の奥へ侵入していく。連なった花弁をするりと撫で上げる。 「よかった。濡れています」  周辺に花蜜を塗りたくりながら、関節ばかりが目立つ彼の指が内部へゆっくら挿入されていく。ペン胼胝に歪んで薬品に荒れながらも保湿された指や、切り揃えられ磨かれていた爪の淑やかさや艶やかさを日常的に見ては惹かれていた。だが今、その指に体内を探られている。乱暴さはなかった。丁寧に慎重に中を辿り、傷付けたくないという言葉のとおり傷付ける意図や痛め付ける欲求は感じらなかった。 「御主人」 「さくら…や、めて…」 「やめません」  耳朶に歯を立てられる。腰に力が入らなくなり、身を捩った。内部が収縮し、桜の指の形を感じてしまう。抗い難い蕩けた感覚がさらに桜の指を締め付ける。 「熱いです」 「抜いて、桜…指、抜いて…!」  桔梗は首を振った。桜の顎が肩の上へ寄せられる。体内でゆっくり内壁を辿っていた指が動き出す。ぬぷ、ぬぷ、と音が小さく、桜の吐息の他に耳に届いた。 「い、や…、あっ、桜、さく、らっ!」  そこに触れさせる者とは違うリズムと、同じ部位だというのに微妙な長さや形の差異が大きく感じられた。それが桔梗をさらに落胆させる。夢ではない。許された相手でもない。鎖を鳴らしながら両手で口元を押さえた。 「何か噛みますか」  内部を苛む指が止まり、利き腕ではない左腕を彼は差し出した。濡れて光る外を向いた指先が目に入り桔梗は俯いた。 「噛んでください。傷付けるつもりはないんです」  桜の左腕が桔梗の口元にさらに近付けられる。 「さくら、もぅ…やめ…」 「だめです。やめません。御主人は僕の猫になるんです。それで貴方は、僕を飼うんです」  ビニール袋の音がした。袋の中から黒い毛に覆われた長い物が取り出される。端には赤いリボンが付けられ、反対側の端には毛が消え、素材までもが違っていた。筋が浮き出たような表面に、笠のように張り出た末端。グロテスクな形状に桔梗は桜から逃れようとした。だが首輪が引っ張られ、それは叶わない。 「どこに逃げるんですか。御主人、貴方は僕を飼い続けるしかないんです」 「そ、れ…」 「大丈夫ですよ。痛くしませんから」  桜は袋のさらに奥からボトルを取り出した。見覚えのある透明な容器の中で粘り気のある液体が内部に張り付いている。 「い、や…いや、やだ…桜…」  首輪に付いた鎖を短く持たれると暴れても暴れても桜から離れることは出来なかった。 「暴れないでください。首が締まるでしょう。痛くしません。ただ、これが入るだけです」 「やめて、桜!」  透明な液体が猫の尾を模した器物にとろとろと滴っていく。桜の左腕が桔梗の両手が口元に運ばれるより先に桔梗の唇を塞いだ。腿を抱かれ、潤滑剤を纏った黒い陰茎の模型が花弁の奥の秘裂に当てられる。 「い…たい…」 「痛いですか?」  桜は中に挿れようとする手を止める。ベッドが汚れることも厭わず、器具を放った。空いた手が再び桔梗の秘部に差し入れられる。指が再び中を探った。粘膜を広げるように動きゆっくり解していく指は腹側をゆっくり押されながら奥へ進み、桔梗は膝を震わせた。唇を噛む前に桜の腕の筋肉を噛まされる。歯を立てたものが何かを知ると、桔梗もまた彼を傷付けたくなどなかった。  中で指が抜き挿しされ、腹の奥を擦られる。 「あ、あ…ぁ…」  口を閉じれば桜の左腕を噛まねばならず、桔梗は唾液を溢した。さらさらとしそれは口の端を滑り落ちていく。 「噛んでもいいんですよ」  桔梗は首を振る。桜の唇が彼女の耳を甘く食んだ。耳と口腔から伝わる彼の体温と淫靡な響きに、内部が不本意に桜の指を食い締める。 「御主人」 「やっぁあっ…」  役目のなくなった左腕が下され、桔梗の雌蕊に触れた。指の腹に捏ねられ、中の指を何度もきゅんきゅんと締め上げる。 「ぅんんっ、」  唇を噛むと耳に弱く歯を立てながら引っ張られる。 「声を出し続けるか、僕を噛むか、選んでくださいね」  中から指が抜けていく。しかし花芯はまだ弄ばれたままで鋭い快感が桔梗の腹を襲ったままだった。冷たい感触が熱くされた花園に当てられる。花核を繰る手付きが激しくなり、紛れ込むように男性器を模した物が秘部を穿った。潤滑剤が効き、痛みはなかった。桜の清楚な指とは異なる凹凸が隘路(あいろ)を削る。 「ああぁっ!」  たった1人にしか触らせない奥深くに体温のない陰茎が当たる。肉感のない硬さを締め上げ、桔梗は腰をくねらせた。尻に桜の熱の集まりを感じた。内部に駆け巡る不本意な快楽に悶え、その尻に接した膨張をその肌理細やかな丸みで擦った。耳元で低い声が聞こえる。腿が震え、頭が沸騰するようだった。桜の腕が桔梗の腹に絡んだ。腰を強く抱かれ、臀部の小丘と尾骶(びてい)骨に熱芯が往復する。聴き慣れたものと同じ類で違う質の呻めきが後ろめたさを加速させ、桔梗の膣内をさらに煽る。 「御主人…」  汗が止まらなかった。腹に回った手が動いたと思うとかちりと音がして腹の内側に通された物が轟いた。のたうつよいに内壁を打つ。 「あ、あ、あ、っや、だ、やぁっ!」 「御主人」  桜の腕を引っ掻いた。もう彼のことを考えていられなかった。その場所を知る男どころか、人間の器官では不可能に近いその動きは桔梗にとっては初めてのもので、解放されようと必死になる。臀部では熱が押し付けられ、揺さぶられる。浮遊感と酩酊感に頭がおかしくなりそうだった。 「さく…ら…さくらぁっ、さくら…!」  気が狂いそうな感覚に陥り、桜にしか助けを求められなかった。桔梗の張った肩に桜は鼻先を埋める。直後、背中に飛沫がかかった。 「御主人…」  首輪からわずかに現れた(うなじ)に唇を落とされる。 「止め…て!止め、てっ!」  鎖が揺れ、桔梗は髪を掻き乱した。身体すべてが花孔内で猛る器具同様に荒ぶる。 「御主人」  人工的な楔が引き抜かれる。粘液が下半身の奥に垂れ、冷たく感じられた。モーター音を響かせながら掻き回すような動きの物体は生々しく濡れて照っている。 「でもこれは挿れていてもらいますよ。僕の御主人…」  おそるおそる振り返った。虚ろな目が真っ直ぐ桔梗を見ていた。 『もう会えないから、ごめんね。さようなら』  たった一言が彼を壊してしまったのだろうか。 『こうなるかも知れないなって考えは僕の中にはあったんですよ』  実の父親に勘当され、桜は1人で長いこと暮らしている。 『御主人が僕を捨てるはずないって思ったんです』  桜の潤んだ目が近付き、眉の横に唇を当てられた。
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