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1st side -Natsume-*Act.6-03

 萌恵は不貞腐れた様子を見せながらも、素直に夏目の言葉に従っている。  寿司の盛り合わせから甘エビの握りを箸で掴み、しょうゆに付けて黙々と口に運んでいた。  夏目も萌恵に倣った。  どれにしようか迷い、マグロの握りを選んだ。  寿司屋で食べる寿司と比べるとレベルは劣るが、決して不味くもない。 「夏目さん」  玉子の握りを咀嚼してから、萌恵が真っ直ぐに夏目を見つめる。  先ほどまで拗ねていたのが嘘のように、いつもの萌恵に戻っていた。  萌恵の変わり身の早さに、夏目は呆れるよりもむしろ感心していた。  同時に、いつもの萌恵に戻ったことに内心ホッとした。 「どうした?」 「夏目さんって、自炊とかしないんですか?」 「そんなことが気になるの?」 「夏目さんのことは何でも知りたいですから」  ニッコリと無邪気な笑顔を向けてくる萌恵。  あまりにも眩し過ぎて顔を背けたくなったが、また萌恵の機嫌を損ねてしまうことを恐れ、少し視線を落として口元を見つめた。  とたんに、夏目は息を飲んだ。  ほんのりと紅く色付いた唇を目の当たりにし、柔らかそうだ、などと節操のないことを考えてしまった。 (ヤバいな……)  周りからは枯れオヤジ扱いされていても、性欲は人並みにある。  だが、さすがに萌恵に手を出すことには抵抗を覚える。  萌恵が夏目の部屋に行きたいと言い出した時から理性と感情が心の中でせめぎ合い、今まで理性を保ち続けた。  何より、萌恵が夏目に抱かれることを望んでいるとは到底思えない。  萌恵はただ、少女のような純真無垢な気持ちで夏目を想い続けてくれている。  それがよく分かっているからこそ、未だに葛藤を繰り返している。
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