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1st side -Natsume-*Act.4-03

 萌恵は瞠目した。  いつも穏やかにやり過ごす夏目が苛立ちを露わにするなんて、考えもしなかったのだろう。 「――ごめんなさい……」  萌恵は夏目から視線を外し、身を縮ませながら謝罪した。 「夏目さんに拒絶されたような気がして、酷いことを言ってしまいました……。夏目さんのような真面目な人が、他人をからかうようなことなんて絶対するはずないのに……」  今にも泣きそうになっている萌恵を見下ろしながら、夏目の心が酷く疼いた。  他人をからかう――  この言葉は特に、夏目に重くのしかかってきた。  萌恵に告白された時、夏目は、心の底からからかわれていると思ってしまったのだ。  だが、萌恵と逢瀬を重ねるうち、萌恵が自分をからかったのではなく、むしろ誠実な気持ちで夏目を想い続けてくれていたことにようやく気付いた。 (酷いことをしていたのは俺だな……)  嫌悪感を覚えた夏目は眉をひそめ、首を横に振った。  むろん、萌恵の想いを踏みにじり続けてきた自分自身に、だ。 「君が謝る必要はない」  夏目は口元に笑みを湛えながら、萌恵の頭を優しく撫でた。 「俺の方がきついことを言ってしまったんだ。年甲斐もなくムキになってしまって……。悪かった」  萌恵は少しずつ頭をもたげると、目を何度も瞬かせた。  茶味を帯びた双眸で真っ直ぐに夏目を見つめ、「怒って、ないんですか……?」とおずおずと訊ねてくる。 「それは俺の台詞だと思うけど?」  夏目は肩を竦めながら続けた。 「普通に考えたら、俺のようにねちっこく細かいことを問い質そうとする男は嫌われるんじゃない? 現にこうして売れ残ってしまってる。その腐れる寸前の見切り品を君が買い取ってくれなきゃ、そのうち、誰からも見向きもされずに終わっていただろうね」 「――そんなこと言わないで下さい……」  自分自身を卑下した夏目を、萌恵は恨めしげに睨んできた。 「夏目さんは売れ残りの見切り品なんかじゃないです。むしろ、私には夏目さんのような男性は新鮮で、自分にはもったいないほどだって思ってるんです」 「もったいない、って……。それこそ俺の台詞……」 「いいえ」  夏目が言いかけた言葉を、萌恵が素早く遮った。
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