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第一章 偶然と必然*第七節-01

 家に着いてから、美咲は即座に自分の部屋へ行き、制服から、部屋着として愛用している黒いジャージに着替えた。  黒いジャージとはいっても女性向けだし、一部に可愛らしい花模様が刺繍されているのだけど、理美に言わせると、ジャージを着るのは女の子らしさに欠けるらしい。 (〈女の子らしい〉って何なんだか……)  長袖のTシャツを中に着込み、ジャージのファスナーを胸の辺りまで上げながら、美咲は考える。  別に、女に生まれたことを不満だなんて思っていないし、外出する時は、スカートだって穿くこともある。 「〈女の子〉、ねえ……」  全身鏡に自分の姿を映しながら、今度は、口に出して言ってみる。  鏡の向こうの〈自分〉は、焦げ茶色のストレートヘアを背中まで流し、茶味を帯びた双眸で美咲を見つめ返す。  どちらも美咲本人なのだから、何ひとつ違いはないはずなのに、何故か、違う〈自分〉を見ているような錯覚に陥るから不思議だ。  鏡の向こうには、いったいどんな世界が広がっているのか。  そんなことも考えてしまう。 (あの人のいる世界も……)  美咲はまた、夢の中に現れた男のことを想い出した。  (うつつ)の、しかし、現とは異なる世界。  黄金色の満月が浮かぶ闇の光景も、その中でゆったりと舞う桜も、男の夢の中に存在するもの全て、現とは似て非なるものだと美咲は思う。 (あれはきっと、あの人が創り出した世界なんだ)  そう考えると、全てに納得がいくような気がしてくる。
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