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第一章 偶然と必然*第四節-02

 しかし、動揺している美咲とは対照的に、ぶつかられた張本人は全く意に介していない様子で、「いや」と、短く答えただけだった。  耳に心地よいバリトンボイスだ。  体格と、男物のスーツを身に纏っていることから、女ではないのは分かったが、美咲は恐る恐る、頭を上げて相手の顔を確認する。  とたんに、目を見開いたまま息を飲んだ。  年は二十代後半辺りだろうか。  180は優にある長身に、癖ひとつない漆黒の髪、そして、鳶色の双眸。  鼻筋も通り、まるで作られたように綺麗な顔立ちをしている。  不意に、夢の中で逢った男のことを想い出した。  もちろん、あの男の容姿とは似ても似つかないが、この青年も決して見劣りしない。 (てか、このヒト人間?)  美咲は眉根を寄せながら、目の前の青年をジッと睨むが、さすがに、見ず知らずの相手に触れる勇気はなかった。  一方、睨まれた青年は、表情を全く変えずに美咲を見つめ返す。  だが、次第に美咲の視線が痛くなったのか、困ったように、小さな溜め息をひとつ吐いた。 「俺の顔に何か付いてるか?」  呆れ気味に青年に問われた美咲は、そこでようやく我に返った。 「あ、いえ、別に何もないです。ないですけど……」 「『ないですけど』、何だ?」 「え、えっと……」  まさか、「あなた人間ですか?」などと訊けるわけがない。  美咲は、あらぬ方向に視線をさ迷わせ、言い訳を必死で考えた。しかし、何も浮かばない。 「何でもないですっ!」  結局、美咲は逃げるように青年の元を去った。  つもりだったのだが――  何故か、青年は美咲に着いて来る。 (しつこい!)  心の中で青年に怒鳴り付けると、美咲は歩く速度を上げた。  しかし、どんなに早歩きをしてみても、コンパスの差か、距離がほとんど広がらない。
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