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第一章 偶然と必然*第三節-02

「おはよう」  オーブントースターが焼き上がりの合図を上げたのとほぼ同時に、父親の貴雄(たかお)がのっそりと姿を現した。 「あ、お父さんおはよー!」  美咲は、こんがりキツネ色に仕上がったトースターを皿に載せながら、貴雄に挨拶する。 「ちょうど今焼けたトコだよ! ほら、早く食べないとお父さんも遅れちゃうよ!」  自分のことを棚に上げて貴雄を急かす美咲に、理美は苦笑いしながら、「何を偉そうに」と、貴雄の席にもベーコンエッグとサラダを並べた。 「あんただって、私が行かなきゃいつまでも起きなかったじゃないの」 「失礼な。ちゃんと起きてたじゃん」 「けど、ボケーッとしてたのには違いないでしょ?」 「だから、ボケーッともしてないってば!」 「おいおい。朝っぱらから親子ゲンカはよしてくれよ」  自分の席に落ち着いた貴雄が、やんわりと二人の仲裁に入った。 「まあ、『ケンカするほど仲がいい』とはよく言うからな。下らんことでケンカし合えるのは平和な証拠だ、うん」 「『下らんこと』、って……」  理美の目が、ギラリと光った。  それは、ケンカを『下らんこと』で片付けてしまった貴雄に容赦なく向けられる。 「だいたい、あなたが美咲に甘いから私が厳しく躾けないといけない羽目になってるんじゃありませんか! 私だって、本心では〈口煩い母親〉になんてなりたくないんです! けどね……」  理美の説教は、貴雄が食べ終えるまで延々と続いた。  理美に火を着けてしまった原因は貴雄自身にあるが、それでも、同情せずにはいられない。 (〈口は災いの元〉ですよ、お父さん)  心の中で諭しながら、美咲は静かに紅茶を啜った。
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