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第一章 偶然と必然*第二節-02

(私はきっと、とても大切なことを忘れてる……)  美咲は、ベッドの上で天井を見上げながら、目覚めたばかりの頭の中で、記憶を必死で遡ろうとした。  と、その時だった。 「美咲、起きてるの?」  部屋のドアがノックされるのと同時に、少々、怒気を含んだ女物の声が聴こえてきた。  美咲はハッと我に返ると、「起きてる」と、答えながら身を起こした。  ドアが、静かに開かれる。 「もう! いつまでも降りて来る気配がないから寝坊したのかと慌てちゃったじゃないの!」  美咲を見るなり、声の主――母親の理美(さとみ)は、腰に両手をあてた仁王立ちスタイルで睨みを利かせる。  美咲は気まずさを感じながら肩を竦めた。 「ごめん。ちょっと久々に夢を見ちゃったから……」 「夢?」  怪訝そうに首を傾げる理美に、美咲は頷いてみせた。 「ほら、ちっちゃい頃に見た例の男の人の夢。何か知らないけど、また夢に出てきたから」 「そうなの」  理美は表情一つ変えずに短く答えると、「とにかく、早く降りてらっしゃい」とだけ言い、夢のことは一切追及してこなかった。  興味がない、と言うより、あえて、夢の話題を避けている。  何となく、美咲にはそう思えた。
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