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第一章 偶然と必然*第二節-01

 ピピピピピ……!  どこからともなく、電子音が鳴り続ける。 「……ん……」  美咲は、気だるい呻き声を出し、音の発信源を手で探る。  あちこちに何度も触れ、ようやく、手の平に収まる物体を掴み取った。  物体――携帯電話は、相変わらず、アラームを鳴らしている。  いつまでも鳴きやまない携帯のアラームに、美咲は眉をひそめつつ、親指で電源ボタンを押した。  途端に、部屋に静けさが戻った。  美咲は携帯を握り締めながら、つい先ほどまで見ていた夢のことを思い返す。  夢の中であの男と初めて逢ったのは、確か、まだ五歳の頃だったと記憶している。  あの頃はただ、男に対する恐怖心しかなく、逃げたい、助けて、と、必死に思い続けた。  夢を見たのは、その一度きりだった。  男のことも記憶から消え去り、平凡に毎日を過ごしていたのだが、まさか、今頃になって、再び男と再会する事になろうとは考えもしなかった。  そして、何よりも驚いたのは、自分の心の変化だった。  〈怖い〉という思いと、同時に、男に対する愛おしさが込み上げた。  男の唇が美咲の手の甲に触れた途端、忘れていた〈何か〉が一気に溢れ出した。  しかし、〈何か〉が何なのであるかまでは想い出せない。
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