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第一章 偶然と必然*第一節-03

「そなたは、私のただ一人の伴侶だ」 「ハンリョ……?」  美咲は怪訝に思いながら、男の言葉をおうむ返ししたが、〈ハンリョ〉が何を指しているのか理解した途端、先ほど以上に目を見開いた。 「私はあんたの……、その……、妻だったってこと……?」  しどろもどろになりながら言うと、男は、口元に小さな笑みを湛えた。 「私はこの通りの身体だ。肉体を持つそなたに、〈至上の幸福〉を与えることなど決して叶わぬ。――だが、〈至上の幸福〉を与えられずとも、〈ココロ〉だけはそなたとあり続けた」  男は視線を落とした。  手にしていた美咲の手を見つめ続けたかと思うと、男の唇が、彼女の手の甲に触れた。  ヒヤリとした感覚と、同時に、包まれるような温かさが全身を駆け巡った。 (これは……)  美咲はふと、懐かしいような気持ちになった。  自分に向けられる、真っ直ぐで深い想い、そして、控えめながらも、強い情熱の込められた口づけ――  美咲の瞳から、一筋の透明な雫が零れ落ちた。  それは、こんこんと湧き出る泉のように留まることを知らない。 (私も、ほんとはこの人を求めてたんだ……)  そう思うと、美咲は、ほとんど無意識に膝を折っていた。  男が唇を放したのを確認すると、今度は、美咲から男の両手を包み込む。  言葉は何もいらない。  瞼を閉じ、ただ、男が幸福であらんことを願う。  そんな二人の姿を、月は仄かな光を放ちながら、桜は花弁を風に舞わせながら、静かに見守り続ける。
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