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第一章 偶然と必然*第一節-02

「――あなたは、誰なの……?」  男に恐怖心を覚えつつ、それでも、美咲は気丈に問いかける。  男は美咲を真っ直ぐに見据え、小さく口の端を上げた。 「――まだ、完全には目覚めておらぬか……」  不意に、男の瞳が哀しげに歪んだ。  予想外のことに美咲が目を瞠ると、男は今度は、困ったように眉根を寄せた。 「私はずっと、そなたを待ち続けた。何百年も、何千年も……。しかし、これまで一度も、そなたが〈完全〉な形で目覚めることは決して叶わなかった。  私は孤独の中で生まれ、孤独の中で生き続けてきた。だが、そなたと出逢ってからは、そなたがどれほど私にとって大きな存在であったかを思い知らされた」  そこまで言うと、男は美咲の前に跪き、体温のない手で、そっと彼女の手を取った。 「儚くも美しい桜の姫よ、今世こそは私と共に……」  美咲は何も口に出来なかった。  いや、男に対し、どう応えていいのか迷っていた。  そもそも、美咲には、男の言う〈そなた〉が誰なのかが分からない。 「――私は、一体誰なの……?」  ずいぶんと間の抜けた質問をしている自覚はあった。  しかし、今の美咲は、自分が何者であるのかすら分からなくなっていたのだ。  男は、相変わらず地に片膝を着けた姿勢で、立ったままの美咲を見上げる。  美咲と視線が交錯すると、これまでにないほど、柔らかな瞳で美咲を見つめてきた。
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