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序章 誇りと誓い*第一節-02

 自分もまた、眠りに就こう。  男はそう思ったのだが、新たな気配を感じ、神経を研ぎ澄ます。 「勝手に私の領域に足を踏み入れるとは感心出来んな」  強い気の放たれている場所を察知した男は、暗がりの中に金の瞳を光らせる。  すると、何もなかったはずの闇から、ユラリと何かが現れた。  それは、闇夜と同色の漆黒の髪と、鳶色の双眸を持つ少年へと変貌を遂げる。  少年といっても、先ほどの少女よりはだいぶ年上で背も高く、大人びた顔付きをしている。  だが、男が特に注目したのは、少年の右手に握られた抜き身の日本刀だった。  それは、闇の中で禍々しい光を放ち、また、大切なものを失った憎しみと哀しみを蘇らせる。 「私を、そいつで消すつもりか?」  闇に溶け込むほどの静かな声で、男は少年に問う。  少年はそれには答えず、代わりに両手で刀を構え直すと、銀色の切っ先を男の喉元へと突き付けた。 (愚かな)  刀を向けられても男は動じることなく、むしろ、不敵に口の端を上げる。  そして、ゆっくりと瞼を閉じると、口だけを動かして呪(まじない)を唱える。  全ての呪が読み上げられ、再び金色の双眸がカッと見開かれた瞬間、空間に歪みが生じた。  烈風が吹き荒れ、桜の木も風に煽られて激しく揺れる。  満開の花弁達も、全てなくなってしまうのではないかと思えるほど散らされてゆく。 「くっ……」  少年はわずかに吹き飛ばされた。  小さく呻きながら、しかし、手にしていた刀を杖代わりに地面に突き立てて立ち上がり、風の力に反発するように、なおも男に近付こうとする。 「ほう」  男は目を瞠り、少年の忍耐強さに感心した。  普通の人間であれば、男の力をまともに受けたら無事ではいられない。  良くて重傷、最悪の場合、命を落としてしまうことも稀ではない。 (普通の人間と違うのは分かっていたが……)  男はしだいに、少年に対して興味が湧いた。  男にとって、憎むべき相手であることには変わりないが、それ以上に、現世に転生した少年をもっと知りたいと思った。
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