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序章 誇りと誓い*第一節-01

 まるで、周りから取り残されたように静かに立ち続ける桜があった。  その姿はどことなく淋しげで、自らが持つ生命力を誇示するかのように、精いっぱい、薄紅の花弁を満開にさせる。  そこに、一人の男が立っていた。  見た目は二十代後半ほど。  癖のない白銀色の髪は地面に着くほどまでに惜しげもなく流され、高価な人形のように彫りの深い顔の中には、金色の瞳が鋭く妖しい光を放っている。  そんな男の前に、幼い少女が現れた。  肩の辺りで綺麗に切り揃えられた焦げ茶色の髪と、幼子らしい丸みを帯びた輪郭の中には、茶味を帯びたくりくりとした瞳と、ほんのりと赤い唇が添えられている。  少女は、男をジッと見つめる。  その瞳の奥からは、男に対する好奇心よりも、恐怖心がありありと伝わってきた。  男はそっと、少女に手を伸ばす。  しかし、少女はそれを拒んだ。  ただ、目の前の男に怯え、男が一歩近付くたびに、少女も後ずさる。 「そんなに怯えるな」  少女を怖がらせまいと、どこまでも穏やかな口調で告げようとも、少女はいっこうに警戒心を緩めない。  それどころか、何度も首を振り、男を寄せ付けまいとする。  ――コナイデ! コナイデコナイデコナイデ……!  呪詛のように唱えられる少女の心の叫びに、男もなす術がなかった。  男はただ、少女を求めていた。  しかし、少女は男の存在を認めようとしない。 (やはり、目覚めには早過ぎたのか……)  男は小さく溜め息を吐き、少女から離れた。  急ぐ必要はない。  機が熟した時、少女は必ず、男のことを想い出すであろう。 「また、この場で逢おう」  男の言葉に呼応するように、少女の姿が徐々に消えてゆく。  少女はもう、〈現〉へと戻っていったのだ。
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