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君のことが好きなのに君が好きになるのは女の子

 俺たちはケンカしてもすぐに仲直りが出来た。 クラスが違っても一緒に塾に行ったり、休みの日はゲーセンに行って気の済むまで遊んだり、とにかく気が合って一緒にいた。  俺がひとりでいてもいつの間にかシエがそばにいて、俺の事を黙って見ている。 反対の時もあった。安心して自分のそばにいるのはお互いだけ。 お互いを壊さないようにしながら、そっと見守りそばにいる。 そんな約束が自然に俺たちの間に出来ているようだった。  あれは小学生の時だった。 運動会の当日、絶対に忘れてはいけないハチマキをあろうことか家に置いたまま学校に来てしまった。この一大事に俺は自分の席で叫んだ。 「うわあ! 忘れた!!」  ”ハチマキ忘れたから、家に取りに行って来る” 慌てて言ったそれが聞こえなかったのか、シエが何か言いながら俺の後を追い掛けて来た。 「ハチマキ忘れたの! 取りに行かなきゃ!!」  今度はちゃんと聞こえたはずだ。 シエはそれをホームルームの時に先生に伝えてくれるだろう。 俺はそう勝手に期待したのだが、何となく後ろを見た走り戻る家路の途中、シエの姿が見えてギョッとなった。  俺はクラスの代表になるくらい足が速い。 いや、今はそんな足の速さなんて関係ない、早い所ハチマキ持って学校に戻らないと。  今日は運動会だ!  時々振り返りながら見たシエは、止まって両膝を掴むように肩で息をしながらこちらを見て、そして俺を目がけてまた走り始める。 教室でそのまま待っていればいいものを、またどうして? 俺たちがやっと並んだのは、家に着いてからだった。 かあさんはきっと、二倍驚いたのではないだろうか。 こんな日に忘れ物をした俺、そしてこんな事に友だちを付き合わせた。 しかしなんでお前は・・・ その時、シエが何て言ったのか、慌てるだけだった俺は覚えていない  何度目かの席替えでたまたま後ろと前で、席が近くなってからだ。 特別コイツと仲良くなりたいとか、コイツの事が気になっていたとか、そんなのは全くない。 最初から意気投合して始まった俺たちではない。 ”どうしてだろうな……” そう自分でも思うほどに、特に理由は見つからない。 しいて言えばやっぱり一緒にいて気楽だったから。そして遊びに誘いやすかった。 特別な理由はなかった。  そんな俺たちを見て、無神経なヤツがこんな事を言う事があった 「お前たちって、”両思い”なのか?」  そんな時、俺はこう答えてやるんだ 「そうだよ」  クチには出さなくても、そう見ていたヤツは他にもきっといただろう。 俺がそんな事を言われるのと同じくらい、もしかしたらシエも誰かに何か言われていたかもしれない。その時シエは、なんて答えているんだろう。 俺はいつからか、そんな事を考えるようになった。  俺の方が足が速いのに、シエがもらうチョコレートの方が多いい……。 前までそれをシエは困った顔するばかりだったのに、今では俺の顔見て笑ってる。そしてそのお返しの為の買い物に、俺を引っ張り出す。 お前、いつからそんな無神経なヤツになったんだよ。 「アッハッハッハッ いいじゃない それより一緒に考えてよどんな物がいいのか、全然分からない」  昔から変わらない声で笑ってそう言った  別に、お前ばかり見ているわけじゃない。 あの日は自分の失敗に付き合わせてしまったのが、悪くって、気がかりになって、申し訳なくって見ただけ……    今は………… ボンヤリしているシエが見ているのは 自分の胸元にも同じように靡いてるスカーフ ヒラヒラ ユラユラと なに考えてる? シエ……………… 後ろから見ている俺には、お前の表情が分からない お前が見ているそれは自分と同じものだ 俺は何となく声を掛ける事が出来ないでいた 「シエも髪、伸ばさないの?ほら、そろそろ卒アル撮影もあるし、伸ばしたらきっとシエも…」  その時俺を見たシエの目は、初めて見る目 「余計なお世話!」  いつも髪の毛を短くしていたシエ。 俺と大した変わらない。似合う似合わないという事ではない。 髪を伸ばしたシエもきっと…… そう思ったんだ。 そう思っただけなんだけど……。 シエにとってはそれこそが、無神経な事だったのかもしれない。  ある日、いつものようにシエをゲーセンに誘った。 けれどあからさまなその表情に、それまでの気分が一気に散った。 そうは思わなかったが、シエは本当はゲーセンに行くのが大儀に思っていたのだろうか。 それならそうと言ってくれたら良かったのに、シエのその態度で気分を害したのは、言うまでもない。 「いい……やっぱ今日はやめよ じゃ……」  返事を聞く前にシエに背中を向けた。 「ごめん ごめん…… ちょっとお腹痛くて、ヤツ当たった 行こう大丈夫だから」 「ハラ? 大丈夫なの?そんなムリしなくても……」 「遊んだら治る」 「?……大丈夫?ホント?」 「大丈夫だって」  いつかシエはこう言った事があった まだ小学生の時 「いいな……ボクもソッチ行きたい」 「えーっいくらなんでもソレはダメでしょ」  ボソッと言ったそれがシエの言う冗談にしては妙で、ずっと俺の中に残っていた。  シエ……最近こんな事ばっかり俺は考えちゃうんだ。 もしかして お前…… って…… そして余計に胸が苦しくなる。  受験が近付き面接があるからと、自分の事をシエは”わたし”と言うようになった。 ずっと使っていた、聞いていた言葉たちが邪魔になる。 今までいた世界から抜けなければいけなくなった時、カタチを変えて自分に返って来るものがある。大人に近付いて来ると、自分から削ぎ落とされる思いでそうしなければならない。 寂しいけれど、ずっとこどもでいるわけにはいかないし。  俺はシエが自分でも言い慣れない、”わたし”を聞いて笑った。 それでも受け取ったチョコレートは、やっぱり俺より多いいし……。 「参った ”好きです”って告白されちゃった どう返事したらいいのか困るよね 勇知《ユーチ》ならなんて言う?」 「お前 それ自慢か?」 「アッハッ だったりして!」 「コノヤロー!」 「アッハッハッハッハッ……」  世界には色んな人がいる。 そう分かっているけれど、本当にそうだったと自分で確かめる事が出来ているのは、きっと地球と米粒を比べているくらいに違うのだろう。 そして、それを受け入れる事が自分には出来るのか    出来ないかも………… 「 ユーチ!? 」  初めて他人と合わせた唇は、とてもやわらかだった  シエ シエ!  こっちに来いよ そしたらもっとお前は楽になれるだろ?  なあ なれるだろ?      なあ……  なあ!  俺も苦しいよ…………  昔はこんなにチカラの差なんてなかった。 腕が痛くなるまで繰り返した腕相撲 もう こんな事はしない方がいい……   そんなにお前が泣いてしまうなら…… こんな”違い”なんて、知らない方が良かった 俺はシエを泣かせてしまった 言わない方がいい言葉 お前はきっと気付いているけれど……    それをどこに放そうか………………  ツルツルになって光ってる学生服 三年前の春は自分のカラダに馴染んでなくて、着ているだけで落ち着かなかった。 お前のそのスカート姿も滑稽に見えて、俺が見ているそれだけで怒った。  家に帰ったら校門の桜の木の前で並んで撮った写真を、三年後の今日のと比べてみよう。 今のお前はあの頃と比べてきっとビックリする位きれいになってる。 ずっと一緒にいた俺が追い付かないほどに、きっと変わってる。 俺はいつの間にか、お前に追い抜かれていた。  お前はなーんにも言わないけど、それでもいいなら別構わないけどさ 俺たちはずっと友だちだから それだけはずっと変わらずだからな  俺がまだ受け入れられず、胸の中のしこりのようにあるこのひとつは それはいつか自分が出会った太陽の熱で溶かされて、ひび割れの隙間を埋めてなだらかにしてくれる時が、必ずやって来ると信じてる。 そしてそれはお前も同じ。  あの大事な日、本当は心細かった。 お前が一緒に教室を抜け、来てくれた事が心強くて嬉しかった。  なのに俺はそれを言わずにただ ”どうして付いて来た!”ばかりを怒鳴っていた。   ああ確か……あの時お前は…… 「ボクも行きたかっただけ ダメだった?」  そう言ったんだ。     それだけだったけど、そんな小さな事だったけど、俺はすごく嬉しかった。 詩絵《シエ》俺たち何年一緒にいる? 学校は離れてしまうけど、休みの日はまたゲーセン誘っていいよな? お前とまだ遊んでてもいいよな  俺たちずっと友だちだよな 君の事が好きなのに君が好きになるのは女の子  終
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