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ホワイトディ・エチュード(後編)

   * * * 「ぁあんっ! せんせ……だあめ」 「だめじゃないでしょう? 俺は気持ちよく酔ってるいまのきみに、もっと気持ちよくなってもらいたいだけだよ……?」 「ふぇえん……」  休憩のために琉が取った部屋は最上階の角部屋で、はめ殺しのおおきな窓から遊園地が見下ろせた。  カーテンを全開にしたまま、琉は三葉にキスをして、蕩けた表情を浮かべる彼女の着衣を乱す。さすがにベビードールは着ていないようだが、アプリコットオレンジのスプリングセーターをまくればデートを心待ちにしていたことがうかがい知れるようなチェリーピンクのレースのブラジャーが顔を見せる。 「やっぱり、期待していたんだ……かーわいい」 「だ、だってホワイトディだしっ」 「ホワイトディだから何?」 「ひんっ」  ブラジャーのホックを素早くはずして琉は両手で三葉の乳房を包み込む。 「ねぇ教えて? ホワイトディだから期待してたの? この間のバレンタインみたいに、夜のホテルでえっちなこと……」 「ぁんっ、ちくび、引っ張らないでぇ……」 「カラダは正直だね。まさかお昼のホテルで、外の景色がよぉく見える明るい場所で、こんなことするとは思っていなかったみたいだけど……」 「ぁああ、言わない、で」 「恥ずかしいの? あんなことやこんなこと、いっぱいしてるのに……そのうちお外でしたいのに……」  ――いま、さらりと物騒なこと言わなかった!?  ぎょっとする三葉に勝ち誇ったように琉がスカートのジッパーを下げる。すとん、と重力に反応して、下半身がストッキング一枚の心もとない姿になる。 「だーいじょーぶ。こんなホテルの窓の向こうで俺たちを見ている人間なんていないよ?」 「で、でもぉ」  晴天の空がのぞくおおきな窓に押し付けられ、はしたない格好にさせられた三葉は、この壁ドンならぬ窓ドンに戸惑いを隠せない。  ガラスの向こうに見える麓の遊園地で先ほどまで無邪気に遊んでいた琉と、いま、獲物を前に舌なめずりをしている琉、どちらも三葉が知っている恋人の姿だけど、軽くお酒を飲んでいる三葉はまるで、知らない男のひとに迫られているかのような錯覚に陥っている。  その間にも琉の手は三葉の上半身を剥ぎ取り、背中にひんやりとしたガラスが当たる。慌てて両胸を隠そうと両腕をクロスすると、今度は無防備になっていた下半身のストッキングをショーツごとするっと脱がせていく。 「やだぁ」 「ふふ。そうはいっても、濡れているよ? ショーツ。俺、まだここに指一本もふれていないんだけど……キスと胸への愛撫だけで感じちゃったんだ?」 「くぅ……」  悔しそうに頷く恋人に、琉は優しい口づけを贈る。そのまま、首筋、肩、指先、おへそと啄むようなキスをしながら、抵抗を諦めた彼女の裸体を長い指先で撫でてゆく。  やがて彼の指は蜜を垂らす彼女の花園に到達し、喘ぐ彼女を昂らせるべく、皮を被ったままのクリトリスを摘まみ、溢れた蜜をまぶした指の腹でしっかりと捏ねてゆく。 「――ぁあっ……そ、そこ……んぁ」 「遊園地で遊んでいるひとたちに見せてあげたいなぁ、三葉が俺の指でイってるとこ」 「ふぁぁ、ゃぁあ……」 「可愛いイキ顔、もっと見せて。お酒飲んだからいつもより早くイけるよね?」  ふふ、と色っぽく笑いながら琉は満足そうに三葉の敏感な粒をツン、と刺激する。 「せっ、んあっ、っく……ン――っ!」  その瞬間、愛らしい啼き声とともに、膣奥からとぷり、と蜜が溢れでる。  彼の手で軽くイかされた三葉は顔を真っ赤にし、ハァハァと甘い吐息をこぼしながら、琉を睨む。 「もぉ、せんせ、ひどい……! こんな、恥ずかしい……」 「興奮した?」 「……――した」  渋々うなずけば、ほらね、と琉が笑う。まるで、こうなることを予想していたかのように。 「俺も、興奮してるよ。誰にも見せたくないのに、外で誰かに見られているかもしれないこの背徳的な感じ、癖にならない?」 「なりません」  興奮はしたけど癖にはならないときっぱり告げる三葉に、琉は残念そうに唇を尖らせ、まぁ、さすがに外でするのは無謀かな、と呟きながらズボンを脱いでいく。  何度も貫かれている彼の楔を明るいひかりのなかで見下ろした三葉は、ふたたび頬を赤らめ、観念したように声をあげる。 「だけど、欲しい……です」  琉先生が欲しい、弱々しくもおねだりする恋人の姿に、彼の分身は嬉しそうにぴくんと震える。亀頭の先を先走りでてらてら濡らして、雁首を赤黒く充血させて膨らんでいるその姿は、まるで早く彼女の膣奥に入りたいといきり立っているかのよう。  うん、と素直に頷いて、琉はスキンを装着した。 「……って、え? きゃあ!」 「じっとして。持ち上げるから」  窓に身体を押さえつけられた状態から解放された三葉は、突然ひょいと抱き上げられ、目を白黒させる。背後に見えていた遊園地の景色が、真正面に向く。けれど、視界を遮るように琉の顔が滑り込み、同時にずくん、と蜜口から熱杭が穿たれた。 「――んぁあっ!」 「しっかり腕を俺の肩にまわして。そう、振り落とされないように……動くよ?」 「んっ、な、なに、この、体勢……」 「駅弁」 「ふぇつ?」 「正常位と騎乗位だけがセックスじゃないんだよ」 「ぁぁあっ、揺れるぅ……」 「ほら、遊園地で乗ったアトラクションみたいだろ? 腕とあそこだけで支えているから、振動もふだんより感じるし、こうしたら、遊園地の景色がよぉく見える……」 「それは、言わない、でよぉ……!」 「俺に集中して。そうしたら、恥ずかしさよりも気持ちよさが強くなって、いつも以上に快楽を味わえるから……」 「ひゃんっ、あっ、あんっ……」 「ちゃんと掴まって。繋がっている部分を意識して」  抱き上げられた状態での行為は初めてで、三葉は無我夢中になって彼の肩にしがみつき、突き上げられる衝撃に耐えながら彼の言葉を耳底に落としてゆく。 「――俺を、感じて」  甘い囁きとともに、きゅん、と子宮の奥が反応する。翻弄されっぱなしの身体が、彼の一声であっさりと堕落する。 「ぁあっ、りゅ、せ、んせ……――気持ち、いい……っ!」  ふだんよりも深い場所を抉られて、三葉は息を乱しながら彼に言い返す。  ずんずんずんとリズムを刻むように突き上げられ、腰が躍る。だらんと重力に従って垂れ下がっていただけの両脚は、絶頂を前にぴくぴくと動き出す。  そのまま打ち上げ花火のように、全身を弛緩させて――ふたりは同時に、絶頂を迎えた。    * * * 「今度は長期休暇とって、ゆっくりしたいなあ」 「しっぽり、の間違いじゃ……」 「いいのかな、三葉くん? そういうこと言うなら今度こそ外で」 「しません」 「ちぇっ」  あれから夕方まで寝台の上でまどろんだり、身体を重ねたりしていたふたりだったが、どちらも明日は仕事があるからと慌てて帰途につくことになった。  泊まっていく? と誘われたものの、まだ婚約者でもないのに実家暮らしの琉の家に泊まるわけにはいかないと、三葉が拒めば彼もそれ以上彼女を引き留めることはなかった。  逆に三葉の住む狭いアパートに琉を泊まらせることも、物が溢れかえっている現状では難しい。そのうち部屋の片付けをしたいと思いつつ、仕事に追われてそのままだ。  ふだんは仕事終わりに互いの都合のよいラブホテルで一晩過ごすが、遠くへお出掛けしたときは、そうも言っていられない。  三葉が暮らすアパートの前まで車で送ってくれた琉は、今日は楽しかったです、と礼を言って帰ろうとする彼女を引き留め、そっと右手のなかに小箱を押し付ける。 「……せんせ?」 「ハッピーホワイトディ」  ぼそっ、と恥ずかしそうに口にする恋人に、三葉は目を丸くする。 「てっきり、遊園地デートがお返しかと思いました」 「そんなわけないだろ? 三葉だってチョコレートを買ってきてくれたくせに」 「開けて食べていい?」 「――なぜ食べ物だと決めつける」  え、食べ物じゃないの? と逆に驚く三葉に、開けてごらん、と柔らかな声音が降り注ぐ。  丁寧に花柄の包みを剥がして真っ白な箱を開けた三葉は。 「……いいん、ですか?」 「いいもなにも。きみのために探したプレゼントだぞ?」  白銀に輝くペンダントだった。トップには、鮮やかなペリドットの緑の石が使われた三つ葉のクローバー。琉は、クローバーではなくアイルランドに伝わるシャムロックという神聖な植物をモチーフにしたペンダントだと説明してくれたが、違いがわからない三葉はへぇと頷くことしかできない。ただ、彼が自分のために選んでくれたプレゼントを前に、舞い上がっていた。 「ほんとうは、指輪にすべきか迷ったんだが……」  彼の実家が整形外科で、将来を共にするとなれば、三葉はいまの職場を辞めなくてはならなくなる。  結婚しようと琉がいまここでプロポーズしたら、彼女は受け入れてくれるだろう。  けれど、まだ、時期ではないからと、彼は彼女を想ってペンダントを選んだのだ。 「嬉しい……!」  それも、自分と同じ名前のペンダントトップ。嬉しくないはずがない。  いつかそう遠くない将来、自分は彼のお嫁さんになるのだろう。改めて、今日一日を共に過ごして、三葉は彼に愛され尽くされていることに気づかされた。  けれど。 「今度、裸でそのペンダントつけてほしいな」  だめ押しのキスとともに嘯かれたその言葉に、凍りつく。  せっかく、いい雰囲気だったのに――…… 「……せんせ」 「なんだい?」 「へんたい……っくしょんっ!」  ぷりぷり怒りだす恋人に、琉はへへんと笑って返す。三葉の首に、贈ったばかりのペンダントをつけながら。 「そんなの、いまさらだろ?」  ――でもそれが、自分たちらしいのかも。  西陽を浴びて、キラキラ煌めくペンダントを首に飾られた三葉は、それもそうですねと、むずむずする鼻をこすりながら、くすくす笑うのであった。 劇薬博士の溺愛処方“ホワイトディ・エチュード”――fin.
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