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聖夜の靴下は博士の毒薬

 十二月二十四日。すっかり西陽の姿が消え、空の色が濃い藍色へと染まりはじめる午後の五時。  クリスマスソングとイルミネーションの洪水を抜けて、ベージュのコートを着た三葉と黒いダウンジャケット姿の琉はいつものように新宿歌舞伎町を闊歩していた。  なるべくいつものように、と心がけている三葉だが、足早に手を引っ張る恋人がニヤニヤ笑っているのを見てしまうと、顔が真っ赤に火照ってしまう。  白い息をはきながら、大通りからすこし離れた場所にある隠れ家的なホテルに入り、部屋を取る。このあいだのような全面鏡張りのホテルはしばらく遠慮したい。ましてやこんな状況に陥っているいまはすこしでも落ち着ける場所の方がいい。  無人のフロントには真っ白なLEDツリーが飾られており、オルゴールのクリスマスメロディに合わせて赤・青・緑へとコロコロ色を変えていた。  ふだんなら微笑ましい装飾に心を和ませるであろうが、いまはそれどころではない。  無言のままエレベーターに乗り込み、もじもじする三葉に、琉がダメ押しのキスをする。 「――っ!」  目の前がホワイトアウトする。  腰をくねらせながら琉の胸元に倒れこむ三葉を抱き寄せ、彼はさらに濃厚な口づけを贈る。  はふ、と甘い吐息を返す三葉のあたまを撫でながら、嬉しそうに琉は呟く。 「……たまらないな。いつもこんな風にしていてくれればいいのに」 「――今日だけです」 「わかってるよ。そろそろ限界だろ?」  エレベーターを降りてすぐのところが今回の部屋だ。  クリスマス真っただ中にも関わらず、チェックインの時間が早かったからか、人の気配は感じられない。  たまたま今年のクリスマスが琉にとって休日にあたり、三葉も午前中だけのシフトだったから、真昼間からデートができたのだ。  デートと言ってもファミレスでランチをしてから映画館で彼が見たがっていたアニメ映画を一緒に見て、百貨店の紳士服コーナーで彼が必要だと言っていたベルトやシャツの買い物に付き合って、という別にクリスマスでなくてもいい普通のデートだ。この日のためにとめかしこんで高級ホテルでディナーを予約する、なんて意識高い系の行動が苦手な三葉にとって、彼の提案はありがたかった。  ただでさえ毎日仕事に忙しい琉と三葉にとって、普通のデートを行うのは至難の業だから。  だからあえてクリスマスに、という彼からのお願いを素直に受け入れた三葉だったが、その「お願い」はひとつだけではなかった。  ――もう、素直に普通のデートを楽しみたいって言っていたのに、次から次へと無理難題を吹っかけてくるんだもの……! 『せっかくのデートなのだから、仕事のときのような堅苦しい恰好はしないこと。できればふんわりしたワンピースがいいな。タイトスカート姿の三葉もかわいいけど、たまには柄物のお洋服着てみたら? せっかくいいスタイルしているんだからオシャレを楽しまないと。ただし俺の前限定! それから、かわいい下着を着てくること。色はまかせるよ? 白や水色の清楚なレースのもそそるけど、刺激的な色彩感覚のものも似合うと思うんだ。ヒョウ柄とか……え、無理? きみみたいな雌ヒョウになら襲われたいなぁ……冗談だってば、ふだんの下着でもぜんぜんオッケーだよ、た・だ・し』  普通のデートを強調しつつ、琉は三葉を自分の思い通りに仕立て上げていく。  クローゼットにしまいっぱなしだった一昔前の花柄ベロアの茶色のワンピースにグレー地に黒の水玉ドット模様が入ったタイツとこげ茶のロングブーツ、ベージュのファーコートにヴァーガンディーのベレー帽。はっきり言ってファッションセンスに自信はない。けれどせいいっぱいおめかしした三葉の姿を琉は喜んでくれた。そして、ランチを食べた後、ファミレスのトイレで着用してきた下着(普段通りの白レース)を没収された。なぜなら。 『――デートの間、ノーパンノーブラで過ごすこと』 「……せんせ」 「なにか言ったかい?」 「いじわる」 「ん?」 「……ぁんっ!」  終始上機嫌な琉とともに部屋に入り、ようやく一息ついた三葉だったが、扉を閉じた瞬間に彼の両手がコート越しに胸の膨らみを襲う。ふにっ、と揉まれて思わず声をあげる三葉に、琉が意地悪くキスをする。   くちゅ、とあえて水音を立てるような舌を使った口づけに、ずくずくと疼く身体。そのままコートを脱がされ、ワンピースの上から胸を責められる。コートの厚みがなくなったことで、既に屹立していた乳首がさらにいやらしい存在感を醸し出している。ひとつ、またひとつとボタンをはずされ、肩から真っ白な素肌がのぞく。  あっという間に上半身がさらけ出され、待ちわびていたように乳房がふるふると震える。キスをつづける琉の冷たい手が肌をなぞるたびに、三葉は甘い悲鳴を漏らしながら、彼の身体にしがみつく。 「そんな、いじわるな俺につきあってくれる三葉、だーいすき」  くすくす笑いながら天蓋つきのベッドへ導き、敷布の上へ押し倒したかと思えば、ワンピースを足元から脱がせ、器用にブーツのチャックを下ろしてタイツだけの姿にする。羞恥心に頬を赤らめる三葉を嬉しそうに見つめ、タイツごしに脚を撫ぜていく。 「……おや、蜜でべとべとだ!」 「言わないで……」  恥ずかしがる三葉にタイツのシミを指摘してから湿ったタイツをゆっくり剥ぎとるように取り出し、三つ葉の眼前に見せつける。  デートのあいだに興奮して漏らしてしまった愛蜜の証を前に、琉は勝ち誇った表情を浮かべる。そしてそのタイツであろうことか、三葉の両腕を拘束していく。 「え……?」 「肩を上にして、腰をすこしあげて……そう……いい眺めだ。このままベッドの柱に結べばほら、クリスマスの靴下のできあがり」 「ちょ、琉せんせ……っ」  腰を浮かした状態でベッドに繋がれた三葉は、琉に見つめられ、瞳を潤ませる。  両膝をもじもじさせ、腰をくねらせれる恋人の姿を満足そうに見つめ、琉はうん、と頷く。 「この靴下、かかとに穴が空いているみたいだね」  両手を拘束され、不安定な格好に戸惑う三葉を鑑賞しながら、琉もようやくジャケットを脱ぎはじめる。  そして桃のような滑らかな丸みを帯びたお尻を撫で上げ、蜜口を靴下のかかとの穴みたいだと揶揄して周囲の和毛を指先で掻き分けていく。 「ふぁ……んっ」 「かわいい靴下だ。上のお口だけじゃなくて、かかとの穴にも気持ちよくなれるプレゼントをあげないとね」  口唇を食むようにキスをしながら、身動きのとれない三葉の裸身を琉の指先が上へ下へと辿っていく。片方の手は秘処へと繋がる太もものあわいを、もう一方の手は勃ちっぱなしの赤いふたつの乳首を交互に、ばらばらの愛撫に三葉の遠慮がちに閉じていた膝もだらしなく開き、いまかいまかとプレゼントを待ちわびている。 「――もぅ、ちょうだい……琉せんせ、の」  はぁはぁ息を弾ませながら、三葉がねだれば、おやおや、と琉が破顔する。 「手首拘束されて感じちゃった? ふだんより濡れ方が激しいよ……そうか、ノーパンノーブラでデートしていたときから感じているんだものね。あぁ、いやらしいなぁ……このまま突っ込む前に、もっと苛めたいっ!」 「……え?」  嫌な予感がする。三葉がぶんぶんと首を横に振ると、楽しそうに琉は鞄からピンクローターを取り出した。 「む、むりっ」 「無理じゃない。このあいだ気持ちよさそうに悶えていたのはどこの誰かな?」 「ひっ……」  先日のつづきだと言いたげにローターにスイッチを入れ、ブィィインという音を響かせながら身動きの取れない三葉に先端を向けた琉はぺろりと舌なめずりをして、投げ出された脚の間へ侵入していく。  先ほどまで優しく撫でられて甘く疼いていた太もものあわいに突如押し寄せてくる快感は、容赦なく三葉の脳天を直撃した。 「――ゃああああああんっ……んっんっ!」  クリトリスを掠めたローターは軽く達した三葉の蜜口にするりと入り込み、蜜洞を拡張するかのようにぶるぶる振動をしつづけている。  子宮口の手前までがつん、とぶつかったような強烈な刺激に、三葉は声にならない悲鳴をあげ、一瞬だけ白目をむく。  膣奥まで秘処をいたぶられ、身体をがくがくさせながら絶頂を迎えてよがる三葉からローターを抜き取れば、さらりとした愛液がこぽっと流れだす。  弱々しい媚声をあげて、三葉は恨めしそうに琉を見つめる。 「膣奥ナカで達いけたじゃん」 「――だ、だから、せんせいので達きたいの……っ」 「わかってるよ」  いじめてごめんね、と微笑みながら、洋服を脱ぎ捨てた琉が宥めるように三葉を抱きしめる。素肌がふれあって、甘い吐息が重なりあう。 「手首、そのままで大丈夫?」 「……今日はプレゼントをもらう靴下だから」 「そうだった」  ふふふ、と口角をあげて琉はとろとろになっている三葉の秘処へスキンをつけた自分の分身をあてがい、ゆっくりと貫いていく。  まるで串刺しにしてしまったかのような体勢に、ふだんと入る場所が異なるからなのか、三葉が戸惑いにも似た喘鳴を発する。 「痛かった?」 「大丈夫……です。せんせ、のがいつもより深いところに擦れたから……驚いて」 「――イイんだ」 「……ん」  こくりと素直に頷く三葉にキスをして、琉はそのまま腰を前後へ動かしはじめる。ふだんよりも深い場所で繋がっていると、三葉が口にしていたとおり、琉もいつも以上に彼女のなかでゆっくりできていることに気づく。  早漏対策としてオナニーホールを使った自慰を週に数回行っていることも関係しているのだろうか。いままでのセックスと違って、そのまま子種が爆ぜるような兆候もない。  しかも、焦らないで蠕動することができているから、自然と三葉の動きも注視できるようになる。ふだんなら自分だけ達して、と文句を言いたそうな顔をする彼女も、今日はふたたび訪れるであろう絶頂の予感にうち震えて蕩けそうな表情を見せている。 「今日は一緒に達けそうだね」  クリスマスイブの夕方からラブホテルで戯れあう恋人たちは、プレゼントを挿・れてもらう靴下とサンタクロースになって、ふだんよりも長い時間、愛を語り合う――……    * * * 「せんせ……もう、腰が無理……っ」 「……さすがに三発はがっつきすぎたな」  三葉を拘束していたタイツをほどき、ぐったりしている彼女の前で、琉は苦笑する。  毎週のように仕事帰りに落ちあって身体を重ねてはいるものの、こんな風に半日以上、長い時間をともに過ごしたのは初めてかもしれない。普通のデート、と言いながら無茶ぶりばかりしたというのに、三葉は素直に琉の要求を受け入れてくれる。  ――一度のセックスで三回も射精するなど、童貞を卒業したばかりの学生でもないのに……  きっと、目の前にいるのが三葉だからだろう。  彼女は琉のことを劇薬みたいだと称するけれど、琉からすれば、三葉の方が危険極まりない毒薬だ。  彼女が黙って姿を消したときに感じた絶望感は時折いまも彼を襲う。だからクリスマスの靴下、なんて言い訳をして彼女を拘束してしまった。縛られて身動きの取れない状態の彼女は思った通り、琉の劣情に火をつけた。   「三葉……」 「も、もう今夜は終わりですからね!」 「わかってるって……」  逃げるようにシャワーを浴びにいく彼女を見送り、琉はスマホの通知を確認する。夜間当直前の飛鷹から、『よきクリスマスを!』というわざとらしいメッセージが届いている。もし自分より先に飛鷹が三葉を見初めていたら……そう考えるとモヤモヤするものの、自分のためにノーパンノーブラでデートをしてくれた彼女のことを思い出し、ほくそ笑む。      ――縛りつけて閉じ込めて誰の目にも見せたくない、俺だけの毒薬……なんてな。      本人に言ったら絶対に怒られそうだから、心のなかだけで呟いて。  琉もまた、浴室へ向かう。 「琉先生まだシャワー使ってますって!」 「背中洗ってあげるよ~」 「そう言ってまーたいやらしいこと仕掛けるんでしょ?」 「期待してるの?」 「してませんっ!」  シャワーの音が鳴り響く浴室に、仲睦まじい恋人たちの影が重なり合っている。  聖なる甘いふたりの夜は、まだ、はじまったばかり。 “劇薬博士の溺愛処方”クリスマス番外編『聖夜の靴下は博士の毒薬』 fin.
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