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第参幕 嘘ツキたちの革命前夜 * 1 *

「ふ……っく! あぁ……それいやっ」 「いや、じゃないでしょう? |良い《イイ》、と言いなさい?」 「ぅ……い、良いですっ……アマネ、さ、ん、の舌……がぁ、ぁあんっ!」  ぴちゃぴちゃと舌先で翡翠の蜜口をしきりに舐めつづけるアマネによって、すでにあたまのなかはどろどろに蕩けている。  どうしてこのような状況に陥っているのか考えられないほどに、彼女の与えてくれる背徳感さえ抱いてしまう快楽は翡翠にとって甘く逃げられないものになっていた。  そしていつしか、夜の特別指導は当たり前のものへと変わっていく……  翡翠が横濱の金糸雀百貨店の歌姫候補として雇われて早一ヶ月半が経過した。  あれからアマネは演技指導だ、歌唱指導だと理由をつけては夜中に翡翠の部屋を訪れ、夜食を食べるついでに淫らなレッスンを施すようになっていた。はじめのうちは恥ずかしくて拒んでいたことも、アマネに「女優ならこれくらいのことできて当然よ」と流され、翡翠ばかり服を脱がされ、頭の上から爪の先まで全身を撫でられ、歌姫として甲高い声を出すためだと自分でさえふれることのない秘処まで弄られ、その挙げ句、ご褒美だと指だけでなく舌でも達せられてしまう。  絶頂に導かれた華奢な裸体は桜色に染まり、アマネがスカートの奥で隠しつづけている下半身の屹立もはち切れんばかりになっている。  けれどアマネはけして翡翠に自分の正体を明かさない。いまは歌姫、小鳥遊愛間音として彼女の身体を快楽の淵へと堕としていく。朝周のことを嫌っている彼女に正体を悟られる前に、快楽に慣らして、けして自分からこの鳥籠を逃げ出そうなんて思わせないよう…… 「アマネ、さ」 「ふふ、今夜も上手に達けたわね。もっと高い音が出れば完璧だけど……」 「ま、まだ?」  絶頂を迎え、寝台の上でひくひくしている翡翠を心のなかで「可愛い」と呟きながら、あえてアマネは厳しく告げる。 「痛めてしまうから咽喉から声を出しては駄目と言ったでしょう? 枯れてないだけマシだけど、それでもまだまだ高音域の発声が不十分ね。いい加減、恥じらいをお捨てなさい」 「……むり」 「無理だと思ったらとっくに貴女のこと、見捨てているわよ。それとも歌姫になるのを諦めて、朝周のお嫁さんになる?」  そうしたら、こういうことを彼がしてくれるのよ? と意地悪そうに乳首を抓るアマネに、翡翠は媚鳴をあげる。  アマネが翡翠に教えているのは、結婚したら、おとこのひとと子どもを作るためにする行為の前触れの部分でしかない。けれど、翡翠の身体はアマネの手によってその先を求めるようになっていた。アマネが翡翠の蜜壺の奥から湧き出す愛液を掬い取る都度、秘芽の莢を剥いて口づける都度、下腹部はじんじん疼く。まるで、アマネとの子種が欲しいと求めているかのようで、翡翠は切ない気持ちになる。彼女は翡翠に立派な歌姫になって欲しいからと、身を粉にして男役のようなことをしているだけだというのに。 「……もっとむりです」  弱々しく首を横に振って応える翡翠に、アマネは苦笑いをする。まるで、早くこのレッスンに音を上げて朝周と結婚してもいいのにと言いたそうな表情だ。  アマネは彼女の赤くなった乳首をぺろりと舐め上げて、仕方がないわね、と嘆息する。そして。 「じゃあ、このまま無事に公演を終えることができたら……あたしが頑張って隠していること、翡翠に教えてあげようかしら?」    * * *  アマネによって翡翠の身体がつくりかえられてゆく。  ほんの数ヵ月前まで箱入り令嬢だった彼女に演技指導と称して男女の睦み事を教え込み、擬似的に翡翠の身体で実演し、甲高い声で啼くことを覚えさせ、それを歌唱指導だと偽って、アマネは翡翠の裸体を愛でた。  彼女に月のものが訪れているときは、胸元をはだけさせ乳房を揉みしだきながら耳朶を食み、甘い台詞を流し込み、気持ちよくさせた。胸元のふたつの突起を手や口で弄られるだけで甘い艶のある声をあげるようになった。この調子ならば、胸だけで達することができるようになるのも時間の問題だろう。  アマネが夜な夜な翡翠の部屋に通う姿は他の従業員たちにも目撃されているが、彼女のために準備した部屋はもともと防音設備が整っているため、通常の人間からすれば、部屋のなかで何が行われているかまでは知ることができない。アマネが自分の立場を利用して歌姫を信頼している翡翠を好き勝手調教しているなど、思ってもいないだろう。  ただ、アマネのことを快く思っていない唯一の人物――静鶴だけは、勘づいているようだ。 「かわせみの翼をもぐつもり?」  師走公演間近の十一月半ば。演出について相談があると静鶴に呼び出されたアマネだったが、開口一番に告げられたのは、翡翠との関係についてだった。 「最後まではしていませんよ? あれは彼女を歌姫にするための指導です」  翡翠を愛玩人形のように可愛がっていることは見抜かれているのだろう。アマネはきっぱり言い放ち、それ以上の追求を拒む。  静鶴は乾いた笑みを浮かべながら、それならいいけどと言葉を濁す。 「……てっきり、手放せないのかと思ったわ」 「まさか。彼女は俺のことを嫌っているんだ、ありえない」  思わず男言葉に戻った義理の息子を見て、静鶴は目を瞠る。滅多に見られない彼の本心が垣間見えた気がしたのは気のせいだろうか。 「そう。じゃあ、かわせみを鳥籠の外へ出す計画についても異論はないわね」 「ああ……公演が終わったら、種明かしをすれば問題ないだろ?」  アマネの正体が金城朝周であることを知ったら。  嫌いだと思っていた男に身体をまさぐられ、開発させられていたと知ったら。  翡翠はきっと、絶望するだろう。  静鶴はそんな彼女を鳥籠の外へ出し、もといた立花子爵家へ戻すつもりだ。そんなこと、させてたまるか。  アマネは心の裡で考えていることを顔に出さないよう極力無表情になって、静鶴との会話をつづける。  釘を刺してきた義母の態度からも、アマネが翡翠に夢中になっている今の状況が面白くないのがありありと理解できる。許されているのは、自分が女装姿のまま、翡翠を最後まで抱かずにいるからで――……待てよ。  ――いっそのこと、既成事実を作ってしまえば、誰も文句は言えまい?  アマネは自分が考えてしまった卑劣な思いつきを前に絶句する。それは、自分から鳥籠の外へ出ることが叶わないよう仕組んだ悪戯が自分の首を絞めているという滑稽な現状を打破できるものの、彼女のことを想うと最低最悪な方法で…… 「……わ。そういうことだから、よろしく頼むわね、小鳥ちゃん」  静鶴の言葉がいつの間にか終わっている。  ――いやだ。このまま、翡翠を手放したくない。  自分の気持ちに気づいてしまったアマネは、無表情のまま、頷く。  いまはただ、静鶴に従順なふりをしてやりすごすことしかできない。  黙りこんでいるアマネを一瞥し、静鶴は悠々と部屋から出て行く。    その姿が消えるのを見送ってから、アマネは耳栓を外し、結い上げていた髪をほどき、履いていたスカートを脱ぎ捨て、獣の如き咆哮をあげた。
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