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……。 彼ってなによ。ホモってこと? 気持ち悪い。 私を酔わせてなあなあにして、タクシーに押し込もうとしたってこと? 『タクシーを呼ぶ間、君があまりにぐったりしてるから、俺のパートナーの教え子だった旺大君に頼んだら殴られちゃいました。彼は貴方には優しいですね』 テレビに映る、甘くセクシーな声の鷹上さんとは、それ以後目が合わなかった。 喉が痛かったのは、暖房をあえて薬の周りを早めようとした時だったんだ。 「おねえちゃん、カレーに卵って乗せるよね!?」 「いいや、今日はまず素材のカレーを味わいなさい」 「伊織さん、お飲み物はどうされます? カルアミルクでもいっちゃいます?」 三人の温かい言葉と、婚活敗戦二回目の私は余りに幸せレベルが違って惨めだった。 「伊織さん?」 「ゲロ! ゲコゲコ!」 気付けば、私はテレビの前で、ふっかふかの絨毯に顔を埋めながら泣いていた。 蛙のようにあさましい声で泣いていた。 うわああああああああああん。 私の泣き声は誰かに届いただろうか。 それとも蛙みたいに醜いから、鳴き声だと笑われるだろうか。 この世は平等じゃない。 結婚と恋愛は大きくずれちゃって、愛だけじゃ結婚式はあげられないし、好きって気持ちだけじゃお腹が膨れない。 性格が悪くたって、結婚したいんだよ。 ちやほやされたいし、あったかい家庭欲しいし。 焦れば焦るほどこんな醜い自分が露呈していくだけで恥ずかしいんだよ。 ほんのちょっとでも、小指の爪の先ぐらいでも、司さんの愛人とか誘われたらどうしよう、とか。 カタカナの料理ばかり作る奥様の前で独身医師たちに出汁を使った和風な逸品を作ってやろうって思ってたのも全部、白紙にされた。 世界は、私以外は綺麗すぎる。 「な、泣かないで、喉がさらに腫れちゃうよ」 「どうしたんだよ、おねえちゃん、セーリ?」 類くんの言葉に、ばこんとティッシュ箱とリモコンで叩いた二人を見て更に温かくて泣いた。 どうしてこんな幸せな三人が居るのに、私は幸せを見つけようと足を開けば蛙になってしまうのか。 やらせろよ。 結婚できるまで色んな相手とセックスさせろよ。 「処女なんて、いつまでも取ってても仕方ないんだから!」 そう叫んだ瞬間、ガタガタガタと何かが倒れる音がした。 「しょ、しょ、処女?」 「母さん、処女って何?」 類くんの質問に、奥さんは悲鳴で答えた。 「きゃああああ! 蛙!」 「あ、ああ待って瞳」 「母さん?」 バタバタと三人分の足音が消え、私の目の前には小さい黄緑色の蛙がお利口に座っていた。 「……お迎えに来たの?」 青ざめる私をよそに、その蛙は後ろから両手で掬われた。 「いえ。これで貴方を脅すつもりでした」 「……あんた」 蛙を小さな虫籠に入れているのは、昨日会った魔法使いだ。 「……29歳で処女って、貴方高校の時に野球部キャプテンに」 「ファーストキスを貰ってもらったの。でも恋愛経験はあるし彼氏はいたけどセックス経験なしよ! だから急いでたの!」 「……納得しました。私の勘違いだったんですね」 白衣の魔法使いは顎に手を当てた後、そのまま私の前に座りこむ。 「魔法を解きますから、目を閉じてください」 その言葉に、おお泣きしてすっきりした私は色々と憑き物が落ちたかのごとく安心して目を閉じる。 この魔法使いの言葉は嘘じゃないと、確信した。 だって誰とも意思の疎通ができなかった蛙語をこの人は聞きとってくれたんだもの。 それぐらい私に愛があるんだもの。 「そうでしょ、旺大」 私の返事に、その白衣の魔法使いは返事をくれた。 魔法が解ける口づけで、返事をくれた。 昨日、魔法使いの部屋から飛び出して家の前に現れたと持ったのは、この家に浚われていたからか。 「残念ながら、私は重病です。金持ちの家に生まれ、兄が跡取りだと分かって、何も自分に価値がないとぶくぶく太って卑屈な時に重大な病気にかかりました」 「そりゃ贅沢してたら、病気にかかるよね」 「初恋の人と結婚がしたいって言う重病です」 自分でも、その病気の正体を婚約するまで分からなかったのですが、と魔法使いは付けたした。 「……旺大、貴方に足を開いたら私は蛙みたいに醜く見えないかしら?」 「見えないでしょうね。私は今もずっと魔法にかけられたように貴方だけを思っていたので」 視線が合わなくなった鷹上さんのニュース番組を消し、和風カレーの良い匂いが鼻を掠めながら、私と旺大が顔を見合わせて笑うと、蛙が小さく鳴いた。 お互いを知るために私たちは笑う。 私たちの戦いはこれからだ。 Fin
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