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旺大と聞いて露骨に嫌な顔になりそうで慌てて下を向く。 「時間があ゛り゛ま゛じだら゛」 こんな蛙みたいな声で会えるわけない。 散々昔馬鹿にしてきたんだから仕返しに馬鹿にされるに決まってる。 たださえ婚約破棄されて、ぶっさいくな奴が心までヤサグレてるはずだし。 「伊織ちゃん。--今夜、僕のために空けてくれないかな?」 「!?」 だ、だめよ。この人は確かに高学歴高収入、イケメン、性格良し、だけど既婚者よ。 婚活から1番遠い世界の人なのに。 「ね。おいで。うちの奥さんの料理、すっごく美味しいし、旺大も喜ぶよ」 そりゃあ昔は、あの広い豪邸に進入したりしてたけど、今とじゃ状況違うじゃない。 「え、院長の奥さんの手料理いいなぁ」 「俺も参加したいです」 「い゛ぎ、ま゛ず!」 現金な私は二つ返事で行くことにしてしまった。 喋れないくせに、どうしてこの二人とお近づきになれと言うのかはわからないくせに。 千葉病院の裏にある豪邸に招待された場合、どんな服でいきますか? ミニスカートに谷間たっぷりの露出狂顔負けの服? 馬鹿なの?死ぬの? 家庭的さをアピールするために、ロングスカートにタートルセーターに、持参したエプロンだろうが! 「お姉ちゃん、何、蛙みたいに独り言をゲロエロ言ってるの?」 首を傾げる妹を見ると、まんま今私が言った服を着ていた。 テンプレな小娘が。 「司お兄ちゃんの奥さんってフェイスブックもインスタもしてないのね」 「どうしたの、その声。ヒキガエルみたい」 「きっとキッシュとかチーズとか使ったカタカナのオシャレな料理ばっか作ってインスタにあげてちやほやされて、その時に写真の隅っこに豪邸だとわかるもの写しちゃってじまんするんだよね」 「……お姉ちゃん、トローチが救急箱にあるから飲みなね」 残念ながら妹とは意思の疎通ができなくなっていた。 私の声はそこまでゲコゲコ醜い声になっていたのだ。 きっと心に比例して、いや、心を見透かしているのかも。 本当に蛙になってしまうんじゃないかって半信半疑のまま、司お兄ちゃんの家へ向かった。 「げ、超おっぱいでけー」 玄関のチャイムを押すと、すらりとした美少年が、私の胸を見下ろしながら素っ頓狂な声をあげた。 「わー、めっちゃいい。ねえ、お姉ちゃん、彼氏いないの?」 家から出てたった数分で、私はナンパされたらしい。 睫毛が女の子みたいに長くて、手足がすらりとして顔が私より小さい様なイケメンに。 「こら、類(るい)、ご近所さんをナンパするな」 「え、ご近所さんなの?」 「二つ向こうの馨さんのお姉さんだ」 私服はびっくりするぐらいダサい司さんが玄関で、美少年を怒った。 なんで襟を耳に当たりそうなほど立ててるの? なんでバーバリーのポロシャツをズボンにインするの? なんで、おじいちゃんみたいな色のスラックスなの? 「えー、じゃあこのお姉さん、妹の方が先に結婚したの? 超かわいそー」 ドン、と頭にタライが落ちたような衝撃。 何を言ってくれるんだ、この美少年は。 「俺でよかったら貰ってやるよ。あと六年は無理だけど」 「……ゲロ」 そうだった。 司さんの息子さんって小学生じゃん。 このマセガキは、小学生ってことでしょ。 六年後とか、私のこの張りのあるおっぱいも凋んで垂れさがってるかもしれない。 婚活から遠い存在、年下すぎる美少年だ。 「さ、上がって。今ご飯出来あがったところだから」 「ゲロ!?(手伝いますよ!)」 「大丈夫。今日はカレーなんだ。さ、入って」 「お姉さん、荷物持つよ」 手土産で持参したイギリスのワインが合いそうにないカレーか。 まあ人が多い時は楽よね。と頷きながら豪邸の長い透過を歩いてリビングへ向かう。 リビングにはうちの家の倍以上の大きさのテレビや、ソファやテーブルはもやは予想はしていたので問題ない。 ただカレーの匂いが漂うが、なんだろうか。少し違う。 「わ、こら、万年係長! 抱きつくなよ!」 変な名前で呼ばれた犬は、地面に届きそうな長い毛がとても美しく手足がすらりと長い。 知ってる、金持ちが持ってそうな犬、アフガン・ハウンドだった。 「父さん、助けてよ」 「しょうがないな、人参を食べると約束するか」 「食べるから―、うわー」 司さんと美少年が戯れていると、奥の方からカレーをお盆にのせてやってきた。 「いらっしゃい。ごゆっくりしてくださいね。旺大くんもすぐ帰ってくると思いますよ」 「げ、ろ!?」 奥から出てきたのは、なんというか、十人並みとうか、クラスに一人や二人はいそうな平凡とういか、とくに褒める部分がない様なお嬢さんが立っていた。 この人から美少年が生まれたの? 「伊織ちゃん、僕の奥さん、うちで扱ってる製薬会社の会長のお孫さんで、すごいんだよ。華道や茶道、おまけにお琴が上手でね」 「初めまして。噂はかねがね伺っています。庭にある枝が折れたサクラの木はほとんど貴方が折ったとか。楽しそうな方だと聞いています」 喋ったのは旺大だ。あいつ今度見つけたら尻にサクラの木をぶっさしてやる。 「ごめんなさいね。今日は肉じゃが作ってたんだけど来客が来るって言うから間に合わないし量を増やそうって思ってカレーにしたの。途中まで肉じゃが作ってたから、お水じゃなくて、かつお出汁で作ったの」 ああ。だから和風の匂いがしたんだ。良い匂いだった。 テーブルには、ただ切って盛りつけられた野菜サラダに、ベーコンがぼここぼこ入った大人のポテトサラダとシンプルだった。 「げ、人参でかいじゃん」 「今食べるって約束したからな、残すなよ」 「類には一応甘口カレーも作ったから、そっちはみじん切りよ」 「やったね」 ふわんふわんした、幸せな空間に以後事が悪くなった。 つまみ食いをした類くんに困り顔で注意する司さんに、口に手を添えて笑う奥さん。 なんて幸せな家庭なんだろう。 私服がださくても、司さんは良い人だし。 「あ、おねーちゃん、さっき携帯震えてたよ」 ベーコンを摘まんだ手を舐めながら類くんが言う。 現実逃避したくて携帯を鞄から取り出すと、鷹上さんだった。 『俺のニュース見たかな? ごめんね。旺大君に怒られちゃったよ』 ……旺大に? 不思議に思い、司さんに了承を取ってテレビを付けた。 するとニュースを読んでいる鷹上さんとばっちり目があった。 まっすぐに、私とニュースが書かれた紙を交互に見ている。 ああ、やっぱり格好良い。 でもどうして右頬に湿布を貼ってるんだろう。 すぐに目を携帯に戻すと、少しスクロールし手続きがあるのに気付いた。 『部屋の暖房を熱くして、君がトイレに言った時にワインに睡眠薬を入れたんだ。頼みモノをして申し訳なかったが……俺には一緒の墓に入りたいパートナーが居るので彼を傷つけたく無くて君を傷つけた』
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