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「そんなことあるわけないじゃない!」 「あるんですよ。宮島伊織さん、29歳」 「は?」 「航空会社の土産物屋勤務の前は、激務で合コンにも街コンにも行かなかった保育士。彼氏はいたことはあるが、腹黒く、勝気で可愛げのない計算高い性格ゆえ中続きせず、お肌の曲がり角。初恋の彼は野球部キャプテンで、昔からミーハー気質があり、初めてはそのキャプテンに、思い出を下さいと自分から」 「なんでそんなこと知ってるの!」 キャプテンの事は友達にも言ってないのに。 すると、医者は椅子に座ると長い脚を組む。 「私は魔法使いですから。貴方が人を見下し、傷つけ、自分勝手に婚活しているのを見て、腹が立ちましてね」 「べ、別に貴方には関係ないじゃない」 「さっき、あんなど派手な下着を、おもいっきり足を広げて見せてきたのに、ですか」 「それは謝ります、けど、そんな冗談面白くないって」 「――じゃあ試してみますか?」 白衣を脱ぎながら、彼が挑発するように唇を舐め口を薄く開ける。 「貴方に呪いをかけました。次に本当の運命の相手じゃない人に蛙のように足を広げたら、本当に蛙になってしまうと」 「う、うそ」 でも左手を見ると、注射を打たれ包帯を巻かれている。 さっきチクっと夢の中で刺された様な気がする。 「蛙になっても良いなら、――今からとても気持ち良くさせてあげますよ」 うう。 そんな挑発ずるい。 「声が蛙のようにガラガラですよ。……私に足を開くから」 そう言えば、喉が痛いと思ってた。 さっき、ゲロって声も出したし。 「まあ良いでしょう。次に抱かれた人が運命の人ならば、魔法は解けますよ。私はそんなに強い魔法は使えませんので」 「……か、帰る」 「蛙?」 「蛙って言ってるの! 信じないんだから!」 「そうですか。でももし、その蛙みたいな声が悪化したら来てくださいね」 「分かったわよ!」 メモ帳に電話番号をかかれ、渡された。 魔法使いが電話番号を書くなんてありえない。 魔法で携帯に自動登録ぐらいできんだろうが! 「シ、信じてないから、婚活は続けますので」 「そうですか。でも鷹上さんは運命の相手ではないので、蛙になりますよ。彼にはパートナーがいます。二人で仲良く肛門科に通ってくるようなパートナーが」 「肛門科に?」 「知らないのはあなたみたいに頭の軽い、自分の幸せしか見ない馬鹿女だけです」 「分かったわ。他を探すわ」 早くこの頭のおかしい白衣野郎と同じ空間から出たくて飛びだした。 そして飛びだした瞬間、私は頬をつねる。 だって、目の前には私の家があったのだから。 後ろを振り向くと、もうその白衣やろうとの空間はどこにもなくなっていた。 まだ、夢をみているような、狐に抓まれたような不思議な時間だった。 それから私は、その夢のお告げを守り、貞操を大事に大事に守り、奥ゆかしい日々を過ごす――訳はない。 「ねえねえ、さっきからそこのイケメンが伊織さん見てますよ」 「えーやめてよ。どれどれ?」 売れたお土産を、下の引き出しから在庫を取り出しつつ辺りを見渡す。 すると若いスーツ集団が、キャリーケースを持ってお土産屋に入ってきた。 「左から順に、済、済、済、独、済、独、独」 指輪の有無で、既婚者か独身かを、同じく婚活中の緑ちゃんが言い当てていく。 「良いスーツ来てますよね。話しかけちゃいますぅ?」 「ごめん。緑ちゃんだけでどうぞ」 私の今の声は、酒焼けした場末のスナックのママみたいな悲惨な声をしている。 マスクをして風邪だとアピールしたいのだけど、マスクは禁止だから悲しい。 「なんの集団なんですかねえ。緑、真面目で女慣れしてなさそうな簡単な男がいいですう」 緑ちゃんはまだ22歳だし、理想が『一戸建て建ててくれて、専業主婦させてくれて、浮気できなさそうな真面目でちょっと頼りないちょろい感じの人』と私みたいに馬鹿みたいに高い理想ではないので問題ないと思う。 それどころか、そこらへんの男たちでも満たされそう。 しかもむっちむちの巨乳で、存在がエロかった。 「いらっしゃいませー。探しものがありましたら何でも言って下さいー」 にこにこと笑い緑ちゃんに、そのスーツ軍団は爽やかにお辞儀して態度も良かった。 女慣れしてるし、キャリーケース抱えて出張行く職業ってなんだろ。 蛙みたいな声の私は、在庫を取り出すだけを集中して、なるべく下を向く。 我慢だ我慢。 「あの、すいません」 ……。 うおい。なぜ私に声をかけるんだ。レジの緑ちゃんに聞け。 「ご当地キャラ『バタフライ仮面天ぷらバージョン』のキーホルダーありますか?」 そんなキャラ、知らねえよ。 そう思いつつ顔をあげると、驚いた。 スーツ集団の中に居た一番年上らしそうなイケメン。 ちょっと枯れつつある40歳以上の大人の色気ってのも悪くないなあと思わせるようなイケメンだ。 「あは。やっぱり、伊織ちゃんだ」 「げろ?」 私を知ってるのかと思わず首を傾げた瞬間、蛙の様な声を捻りだしてしまい慌てて口を押さえた。 「なかなか近くに居ても会えないのに、珍しいねえ。お土産屋さんの制服も可愛いじゃないか」 可愛い。 その言葉が胸の中でエコーするほど、29歳には嬉しい言葉だ。 「院長、ナンパですか」 「可愛い奥さんにいいつけますよ」 「息子さん、泣きますよ」 スーツ軍団が冷やかす中、その枯れイケメンは頭を掻いて苦笑している。 「違うよ。2件隣の家の、女の子なんだ。弟の幼馴染み」 ……え? もしや。千葉病院の跡取り、千葉司さん? 「ヴィヴィン。ま"-ま”-! ちばざぁん」 女子力捨てて淡を切ったが、声は戻らない。 酷い声だった。 「あはは。喉が腫れてるのかな。無理に声ださないで。そうそう、昨日から旺大が家に帰ってるから会ってやってよ。婚約も破棄しちゃって、出世の道も閉ざされたし」
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