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「それで、結局食事して帰って来たの?」 「うん。もう羊みるだけで撲殺したくなるぐらい無駄な時間だった」 帰宅すると、妹の馨が来ていた。馨は子どもにミルクをあげながらまるで聖母のように微笑んでいる。 でもそれも納得だ。あんな金髪碧眼の可愛い赤ちゃんなんて産んだら、私だって聖母の顔になる。 二歳年下のくせに、馨はさっさと高学歴高収入、おまけに金髪碧眼のイギリス人と国際結婚している。 「はあ。無駄な時間だった。馨のまわりに私の条件を満たす人、いない?」 「うーん。日本での永住権を求めて日本人と結婚したい人なら沢山いるけど……私、収入や職業気にしてなかったからなあー」 「気にしていない奴が、外交官の奥さんかよ。くそう」 「お姉ちゃん、言葉使い」 おっとり垂れ目で、外見だっておっぱいだって私の方が良いと思うのだけど、外国人は妹みたいに一歩引いてくれるおしとやかな女が好きらしい。 馨はそんな雰囲気だが、自分に意見ははっきりきっぱり言うから少し毛並みは違うが。 「お姉ちゃん、保育士の免許持ってるのにどうして空港のお土産屋さんに転職したの?」 「もちろん、既婚者としか出会わない保育士なんて無駄だから。空港なら出会いもあるし芸能人に会えるかもしれないし、喫茶店で暇してるイケメンは独身かもしれないし」 「……うーん。結婚はやっぱフィーリングだよう? 性格とか相性とか」 首を傾げておっとり話すその話し方は確かに可愛らしい。 が、女の私にはうざったらしいぶりっこにしか見えない。 私の前ぐらいははきはきトゲトゲ喋ればいいのに。 「ほほう。そんなに外国人のアレは良かったのか。何センチ?」 「お姉ちゃん!」 クッションを顔に投げつけられたが、ファンデーションが付いたら大変なので瞬時に叩き落とす。 すると呆れかえった顔の馨は、小さく『あっ』と呟いた。 「何? いるの?」 「いる。三件隣の『千葉』くん」 「ああ! あの千葉病院の跡取り」 「違うよう。それは千葉司さん。結婚して小学生の息子さんいるもん」 「えーっと、年下すぎない?」 「小学生を言ってるんじゃないの。馬鹿じゃない? 司さんの弟で旺大(おうだい)君っていたじゃない?」 馨はそう言いつつ、ミルクを飲み終わったわが子を肩に抱き、とんとんとゲップさせている。 あーあ。そんな幸せそうな姿、私も早くしてみたい。 馨みたいに、オシャレにハワイで挙式して向こうで一週間子作りしたい。 「お姉ちゃん、旺大君はどうなの?」 「ああ、名前だけは恰好良いのにデブで生意気でぶっさいくで、油ギッシュで最悪だったじゃん。パス。今何してるの? 引きこもり?」 馨は哺乳瓶を洗い出したので、私はソファを占領して携帯を取り出す。 連絡帳には800件ちかくアドレスが入っているのに、ラインを始めたら200ぐらいしか連動出来なかった。ラインをしてないのか、連動させてないのか、……アドレスがもう使われてないのか。 分からないけれど、私の時間がじわじわと短くなっていってるのが分かる。 「旺大君もお医者さんしてるよ。この前、お見合いして婚約してたのに破棄しちゃったんだって」 「へー。やっぱ生意気だからかな。性格もぶっさくだったよね」 私がそう言った瞬間、馨の顔が『お前が言うな』と言わんばかりに歪んだ。 自分でも自覚してるから問題ない。 「へえ。でもそっか。破棄されたんなら恋人募集中だよね。医者と合コンとかできるかな。あ、なんかおすそわけないかな。イギリスの紅茶とか」 「……お姉ちゃん、ほんっとう悲しくなるぐらい見る目ないよね」 大きく溜息を吐かれると同時に憐れみの目で見られた。 「サイズやら形やら金やら顔やら、相性やら……そんなものの前に大切なことあるんじゃないの」 「馨……」 形は何も言ってなかったんだけど、とは言えずそのまま赤ちゃんの傍に布団を敷いて眠ってしまった。 それと同時に、ラインに連絡が来た。 以前合コンしたさいに、仕事で途中で帰ってしまった地元のアナウンサーの人だった。 『お願いしたいことあるんですが、会えませんか?』 崖っぷち29歳にその言葉は、『結婚して下さい』と同等の意味を持つぐらい重いメッセージだった。
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