tears作者:

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雪女の恋人

冬がキライだった。 脚の指の先から凍ってしまいそう。 終わった後その人は大きく息を吐いて天井を見つめていた。何も云わない横顔がなんだか不安でその腕にそっと手をかけると 「冷たっ、何、その冷たさ。雪女かよ?!!悪いけど触んないでくれる? ああー寒っ」 ーー愛されないのは愛さないから ーー誰のせいでもない そんな昔の事を思い出したのは ベッドから下ろした脚先が床に付いた瞬間に感じた冷たさのせい。 その冷たさが全身に伝わる……その前に 「んにゃぁぁぁ、もう、起きちゃうのぉぉぉ?」 後ろからがばっと抱き締められた。途端に背中に優しい温もりを感じる。 「ゴメン、起こしちゃった?」 「ん?全然。でも、もうちょっと……」 ぐいと後ろへ引き寄せられてベッドに逆戻り。 「ちょっ、ちょっとぉ」 「んー?」 「仕事、遅れちゃう」 「大丈夫まだ時間あるし」 「朝御飯作らなきゃ」 「……」 食いしん坊な彼は私を腕に抱いたまま目を閉じて何も言わない。私よりはるかに長い睫毛が目を閉じた彼の美貌を際立たせる。いけないと知りながら氷の指でその綺麗な顔に触れてみる。途端にびくっと彼が動いたので慌ててさっと引っ込めたその指を強く握られた。 「ダメ」 「えっ?」 「もっと」 「??」 「もっと触ってて」 「冷たくない?」 「冷たくて……気持ちいい」 そう言うと彼は凍った私の両手を掴んで自分の頬にあてる。暖かな彼の頬。そこから彼の温もりと一緒に優しさが伝わってきて泣きたくなった。目元に感じる熱はまるで彼のそれみたいで。両手を預けたままでしゅんっと鼻をならすと彼はくすりっと笑う。「可愛い」そう言われて今度は頬が熱くなる。 ーー愛されないのは愛さないないから ーーでも一度も ーー愛されたことのない雪女がどうやって愛を知ればいいの? 多分熱いだけじゃなく赤くなっているだろう顔を綺麗な彼に見られていることが恥ずかしくてその視線を避けるみたいに顔を背けた。 「あれ?なんでそんな意地悪するの?」 どこか面白がっているような声に返事が出来ない。 「ふーん、ふーん、ふぅぅぅぅぅん、意地悪するんだぁぁぁぁ」 「し、知らないよっ!してないよ!!」 意地悪なんてしてないよ?ただ醜い顔を見られたくないだけ。 「ホント?」 「うん」 「ホントのホントに?」 「うん」 「んじゃ、こっち見て?はい、キス……して」 向き直った私の目を真っ直ぐ見つめながら彼は唇を近づけてくる。シーツの中で身体は絡まって。いつの間にか彼の身体の上に乗せられた私は腰を両手でつかまれた格好でその唇を見つめる。キスの時、目を閉じずにいる事を教えたのは彼だった。ゆっくりと或いは性急に近くなる唇を、合わせるギリギリまで見つめて触れた瞬間に今度は目と目で見つめ合う。お互いの柔らかなぬるつく粘膜を感じながら一瞬も視線を外さない、そんなキス。 「ほら、早く」 さっきより掠れた声で誘惑される。いつだってこうやってこんなふうに私は彼に翻弄されていく。意地悪そうに見える少し薄めの唇がどんなに熱いか…… 瞳も頬も唇もこうやって彼の熱に解かされていく。 ーー愛されないのは愛さないから ーーそう ーー愛したくても愛せなかった ーー孤独で愚かな雪女 ーーホントの自分を知られるのが怖かった 愛されたから愛したわけじゃない。キライだよと言われてもきっと彼をキライなんてなれなかった。 「もっと、もっと、もっと……」 と、離れることを怖れるように彼が求めてくれるから 「もっと、ちょうだい」 キスの合間のほんの数秒でもイヤだと糸引く唾液の果てまでも全部寄越せと言ってくれるから心の奥の奥の心臓に刺さった氷の刃がゆっくりと溶けてゆく。 「ねぇ、寒くないの?」私といて…… 「寒い?全然」 心がないから傷付かないと言ったのは何番目の人? 「寒いなんてとんでもない。ほら、触ってみて?」 温かな彼の心臓。 「ホントだ。温かいね」 「だろ?」 こめかみにキスをしながら彼が言う。その声に酔い痴れてぎゅっとしがみつく。 「っう……ちょっと、ん、ヤバい……かも」 「?」 「へへへ……別のとこが……いや、別ってゆーか……もうずっとあれなんだけど、トドメさされたってゆーか?」 「えっ?」 「ははははは」 端正な顔で困ったように笑って彼は私の手首を掴み彼曰くヤバくなっているものに触らせた。 「ば、バカ」 「ねぇ、したい」官能を擽る掠れた声に 「ダメ」 「なんで?」抗いきれない。 「なんでって……か、会社遅刻しちゃう」 「まだ時間ある」 「朝御……ん」最後の言葉は彼の唇に飲み込まれて……そのまま、私は彼の熱に溺れた。 「なぁ、好きだよ?ずっとそばにいる。だから……」 ーーだから ーー俺を最後の恋人にして下さい。 あの日彼はそう言って 私の心と身体の中に入ってきた。 彼は私の…最初で最後の恋人。 ーー誰からも愛されず誰も愛さない ーー氷の心を溶かした雪女の恋人。
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