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舞さんがお家を出ていって、少しした頃(実際はどれくらいか分からないけど)。扉の向こうでガチャガチャと音がした。……たぶん、玄関の方から。 舞さん、帰ってきたのかな。お買い物してくるって言ってたから、荷物いっぱい持ってるかな。…お手伝い、した方がいい、かな……。 意を決して、身体を起こそうとするんだけど、なかなか思い通りに動いてくれない。頑張って上半身を起こしたけど、頭がぼーっとしてクラクラする。舞さん、お熱あるって言ってたっけ。そのせい、かな。 がちゃっ 「浅川さん、開きました」 ……? あ、れ。いま、男の人の…声……が…………。 「入れ。恐らく寝室だ」 「はい」 ……え? 誰か、く…る、…? ばんっ 「いました! 眠ってはいないようです」 「よし、そのまま担ぎ出せ」 「はい」 大きく音を立てて入ってきたたくさんの男の人達。正確な人数はわからないけど……でも、あんまり、突然で。 ……怖い、怖いよ…。また、昨日みたいに、いっぱい蹴られて、殴られるの……? 私は、まだ罰を受けなきゃいけないの……?? また、あんな…いたいの………。 「一応眠らせておけ」 「了解しました」 1人、茶髪の男の人が近付いてくる。あんまり怖くて、どうしようもできなくて……身体が、動かない…。やだ、やだよう。やめてぇ………! その人は、長袖のシャツをまくったかと思うと、それで私の首をそれで叩いた。そこからぷっつり、私の記憶はない。 「ボス、お待たせしました」 用を済ませ、急ぎボスの待つ地下へ戻る。エレベーターを降り、1番近くに停車している黒塗りへと近づき、ボスのいる反対側の扉をあけた。毛布でくるまれているその少女は、現在意識はない。 「よし……出せ」 「はっ」 助手席へと座れば、今回の仕事は落着だ。 ボスの一言で、車がなめらかに動き出す。黒塗りの車が3台も続いて駐車場から出てくれば、あまり良い印象は抱かないだろう。なので、後ろ1台は少し間をおいて場を離れるように指示をだす。 最初の指示通りであれば、このままボスの自宅へと少女とボスをお送りする手筈になっている。 「ボス、最初の手筈通りで構いませんか?」 「あぁ、そうしてくれ」 「畏まりました」 ……正直、こんな事をすれば後から舞さんにどやされるのは間違いなくボスではなく自分。最初、ボスからこの話を聞いた時に躊躇ったのは事実だ。だがボスの抱える懸念の種を潰さない訳にもいかず、決行に至る。 車内は静かで、走行音のみが静かに響いている。ピリリとした緊張感の中でふいに、少女が声を出した。 「……っう、ん」 まさかもう覚醒したのかと若干の焦りを覚える。…が、違ったらしく、扉にもたれるようにして座らされた少女は依然としてその瞳を閉じ続けていた。 謎だった。ボスがこの少女にここまでこだわる理由はなんなのか。いくら件の子供の正体が掴めないからと言って、以前のボスはここまでしただろうか。 このか弱く、儚ささえも感じさせる少女が、果たしてボスに関わる情報を狙うだろうか。 いくら疑いが晴れていないとは言え、ボスご本人が様子を見る必要はあるのか。加えて、あれだけの殴る蹴るの行為をされ、ボスに身体を開かれた後だ。まともに動けないはず。……舞さんのマンションから連れ出す必要はあったのか。 自分の頭を埋める疑問は挙げればきりがなく、しかしかと言って尋ねるわけにもいかない。ただ、言われた通りに物事を運べば良いのだ。 そうこう思案しているうちにボスの自宅へと到着した。ペントハウスなので直通の専用エレベーター付近で停車するよう、運転手には仕込んである。 助手席をおりて少女を担ぎ、エレベーターに乗り込む。他の者はこちらに向かって頭を下げていた。ヤのつくお家業というのは、こういうものに非常に厳しい。自分も強いられたし、強いている。 ボスについても、ボス……と形式上では呼んでいるが、ボスは本来「会長」と呼ぶのが正しい。 日本を三分割する指定暴力団、北の「北蓮会(ほくれんかい)」、関東一帯及び東海を束ねる「白砂組(しらさごぐみ)」、そして西の「藤盟友会(ふじめいゆうかい)」。 三分割……とは言いつつも、現在1番の力を持っているのが我らが元締め白砂組である。 ボスをトップに置くのが、その一次下部組織「明正会」。裏稼業がこうだが、表向きはいくつもの会社を経営する母団体となっている。一部上場を果たし、経営の勢いはとどまるところを知らない……と言ったところ。 ここまで思い返し、浅川の謎は更に深まるばかりだった。
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