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渋谷(しぶや) (まい)さん。ベッドに寝かせてくれて、お茶を飲ませてくれたキレイな女の人のお名前。 もう1度目を覚ました時、舞さんはベッドの近くで本を読んでいた。「お茶、飲む?」って聞かれたから思わず、うんって答えちゃった。あ……どうしよう、怒られるかな…って不安だったんだけど、舞さんはすぐにお茶を持ってきてくれた。 「ちょっと喋れるかしら? まだ辛い?」 こんなことを聞かれて、いいえなんて言えるはずもなくて、大丈夫ですって言ったら、舞さんはまた綺麗に笑ったんだ。 「え~~と、まずは自己紹介ね。私、渋谷 舞っていうの。舞って呼んでね。………あなたは?」 「あ、えっと……香賀(こうが) (べに)って、いいます…」 お礼を言わなくちゃって…頭ではわかってる。わかってるのに、知らない人が目の前にいて、ここは知らない所で…って色々考えてしまって、口がうまく動いてくれない。 「紅ちゃん………なんてかわい名前なの……っ!」 「え……?」 だからほら、せっかく言えるタイミングだったのに。まんまと逃しちゃった。 「私ってほら、舞って名前でしょ? 超~~絶ありきたりでかわいくないじゃない!! だから紅ちゃんの名前、かわいくて羨ましいわ!」 「……あ、っ、」 「? ………あ?」 ほら、言え私。はやく…! 「ありがとう、ござ…い、ます……!」 …………………………………あ、れ………? 「……………」 「あ、あの……」 勇気がなくてずるい私は、目をつぶりながら言ったのだけど。突然会話が途切れちゃったから、さらに怖くて。 ゆっくり目をあけたら逆にびっくりしてる舞さんが目の前にいた。 「……あ、あぁ……いえあの、ごめんなさい? 別にそんな、嫌だとかじゃなくてね?」 あ、やってしまったかな。……私、変に勘違いして、突っ走って、また………。 「だ、だめだ……がまんできない………!!」 ほら、怒りを我慢できないんだ……。私ってば、ダメだな… 「かんわいい~~~~~~~~~っっっ!! あぁなんてかわいいの貴女、だめ、本当にダメよ! 私のツボをこれ以上刺激しないで!!!!!」 へ……………………… 「あ~~~だめよ、だめよ私、抑えなさい!! 紅ちゃんはまだ熱があるのよ!!!」 人間、本当に混乱すると動けなくなる……という表現は、図書室で読んだ本に書いてあった。まさか、そんなこと…と侮った過去の自分に言いたい。 本 当 に 動 け な い 。なんだ、何に何が起こってるの? どうして舞さんは私に抱きついてて、叫んでいるのか分からない。分からないけど、でも不思議と怖くはない。 「は~~~ごめんね本当に。私ったらもう……」 「い、いえ……」 暫く独りで何かを呟いていたけど、少しすると落ち着いたみたい。よく状況が飲み込めないけど……わ、私がいけないの、かな…………? 「あ、あの…ごめんなさ」 「あ~~。いい、いいのよ謝らなくて。貴方は悪くないの。むしろ私がごめんなさいだわ。気持ち悪かったでしょう。いきなり興奮されて……」 「気持ち、悪くは……なかった、です……?」 ごめんなさいと言えばいいのか、はい、と肯定をすればいいのか分からなくて、とりあえず否定してみる。そしたら「あぁっ…なんて良い子なの……!」とまたぎゅっとされちゃった…。なんなんだろう……本当にわからない……。むしろ私なんかを抱き締めて気持ち悪くないのかな…。 「そうだ紅ちゃん、なにか食べたいものとかある? 本当は1人きりにしたくないんだけど……お買い物に行こうかと思って」 「……た、べたいもの…です、か………?」 「そう、食べたいもの!」 食べたいもの? …って、食べ物……だよ、ね…? 私に? 私が食べたいもの……?? え、舞さんが食べたい物じゃなくて…? 「…紅ちゃん??」 「あ、ご、ごめんなさい……えっと、えっと………」 待たせちゃいけない。せっかく舞さんみたいな人が私なんかに聞いてくれてるんだから。何か、何か食べたいもの……えっと、えっと…………。 「特になかったらいいの。適当に買ってくるわ………って、紅ちゃん……??!」 あぁ、もう本当に私って。 「な、泣かないでちょうだい……! いいのよ! そんな、なかったら無いで大丈夫よ…!」 もう、どうして今なのかわかんない。なんでこんな事になったのか、ここがどこなのかもわからない。足はじくじく痛いし、頭はぼーっとするし。せっかく質問してくれても、私は何も返せない。 1回考え出したらダメで、次から次へと消えては浮かび、消えては浮かぶ色んな思い。ぐるぐるぐるぐる、ぐちゃぐちゃになって、気付いたら涙がこぼれてた。 「ごめ、なさ…っ、……っせ、かく……きい、っ、くれ、たのに…っ」 「……ふふ。まだ熱でおかしくなってるのね。だぁいじょうぶよ、紅ちゃん。貴方は悪くない。むしろ精一杯考えてくれてありがとうね。私、嬉しいわ」 「……うれ、しい…?」 「えぇ。貴方はまだ熱があって、それなのに私が質問したことに対して、精一杯考えてくれたじゃない。偉いわ! 私もとっても嬉しい!」 「…………そ、っか…」 普段泣かないから、暫く涙が引っ込んでくれなかった。 でもその間、ずっと……ずーっと、舞さんが抱き締めてくれてたから。頑張って涙を引っ込めたんだ。 途中、舞さんが「ほら、紅ちゃんも私を抱き締めて」って言ってくれて、でも、私は汚い。だから出来ないって言ったら、「そんな事ない、あなたはとっても綺麗! 汚い人は泣かないもの!!」って舞さんが言ってくれたの。だから、はじめて……人を、ぎゅってできたんだ。 「じゃあ紅ちゃん、行ってくるわね」 私を寝かせてくれているお部屋は、ふだん舞さんが寝ているお部屋みたいで、舞さんはそこで準備をして、お家を出ていった。「紅ちゃんいい? インターホンが鳴っても出ちゃダメよ? というかベッドから降りなくていいからね! あ、おトイレは部屋出て目の前よ!」と私に残して。 舞さんとは、今日はじめて会ったはずなのに。 すごく、あたたかかった。
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