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…逃げなきゃ。どこか遠くへ、早く……早く逃げなきゃ…! ……どこへ逃げるの…? 私は、いらない子。お父さんもお母さんも、私を嫌い。 ………どこに逃げるの? 「…っ、ああァあぁぁあっ……!!!」 「! どうしたの…?!」 「いや、いや…っ、やめて、お願いだからやめてぇ…っ! もう、もうしません……っ、いやぁあっ!!」 誰、か…くる……。いや、もう嫌だ、お願いします……もう、もう絶対にしませんから……! こっちに来ないでぇ…っ……。 「落ち着いて!! 大丈夫よ、もう誰もいないから…! 私しかいないから!! 」 誰、誰の声なの……? …また、知らない人………? 女の人の、声がする。………女の、人…。 「えーっと、あ~~名前聞いとけば良かった…! ねぇあなた、私の声聞こえてる?!」 怒っ…て、る……?? 「大丈夫、絶対に大丈夫だから落ち着いて! もうここには興雅……ってもわかんないか……。男たちはいないから! ね? 大丈夫でしょ…?」 ぐちゃぐちゃだった頭が、落ち着いてくる。目の前にいる女の人が、なにか喋ってる。……怒っては、ない…みたい。 ぼやぼやする視界で、何かが動く。誰かを映していた私の瞳は次の瞬間、何かで視界がいっぱいになった。 「怖かったね、痛かったね……。でももう大丈夫よ。ここには私しかいないわ。安心して……」 「……っ、…? ……??」 ぎゅーって。何かが私をきつく抱き締めている。 ううん…「何か」じゃなくて、「誰か」。……じゃあ、だぁれ? 小学校の図書室で見た絵本。そこには、お母さんに暖かそうに抱き締められている女の子や、男の子が描かれていた。その絵本の中にいるお母さんと女の子、男の子は、凄く……すごく優しそうだった。 柔らかい笑顔で、にこにこ笑っているの。羨ましくて、その日の夜、勇気を出してお母さんにお願いしたんだ。「ぎゅって、して」って。………気持ち悪いって、言われちゃったけど。 なんて、昔のことを思い出していたら、ぐちゃぐちゃ散らばっていた頭は落ち着いて、涙も引っ込んだ。ふわふわ温かい感覚だけが、私に残った。 「……落ち着いたかしら?」 「……すみま、せん」 声、カラカラする。 「いいのよ。……興雅が悪いんだし」 「…え……?」 「いいえ、何でもないわ。それより、何か飲めそう? お水かお茶持ってくるけど」 ふと、自分の今の状況を確認してみる。 「へっ」 びっくりして、声が出ちゃった。私は今ふかふかのベッドにいて、更に厚いお布団がかかってる。まくらも見たことないくらいに大きくて、ふかふかで…。 わ、私……なんでこんな所に…? ……そもそも、ここはどこなの…? 目の前の綺麗な女の人は? 「…お茶、持ってくるわね。待っててちょうだい」 「あっ…、えっと、その…いらない、です……」 咄嗟に返事をして、こんな所で何をしているんだとベッドからおりようとする。怒られちゃう……。 身体は半分起こされていたけど、いつまでもこんなところにいる訳にはいかない、よね。 「?! ちょっと何してるの!!」 私がベッドからおりようとしたのを見て、女の人は慌てた様子で私に近付いた。 このベッド、とても大きい。…だからかは、わからないけど。私の足が地面につくかつかないかの所で、くらりと視界が回った。 「! 危ない……!!」 「……………………え…っ?」 い、たく……ない……? 私、いま地面に落ちたはずで……。 「大丈夫?! 痛いところない??!」 「…っあ、えっ…」 「も~~~、まだ熱あるし! 足の怪我も酷いんだから!ベッドで安静にしててちょうだい!」 「は、い……」 おこ、られた……の…? 今、女の人、怒ってた…? 私に…? 混乱して何も言えない私をよそに、女の人は私をベッドに戻した。 いい? ジッとしてるのよ、ジッと、と私に言付けて、部屋から出ていく女の人。ドアの向こうから音が聞こえたと思ったら、コップを1つ手にして戻ってきた。 「はい、お茶。ちょっとでいいから飲んでね」 「……? 飲んで、いいの…?」 「…………えぇ、あなたの為に持ってきたんだもの」 にっこりと笑ってくれた。すごく、きれい。私なんかとは全然違うな……。 「なんで……?」 でも、わからない。なんで、こんな……こんなきれいな人が私なんかに優しくしてくれるの……? 私は悪い子で、だから、痛いことをいっぱいされて……罰を、受けたのに。 「……詳しくは、貴女が元気になってからよ。だから、そのためにも、お茶飲んでちょうだい?」 「……、はい…」 ……昔、お家でもお母さんにされたことがある。 その日、お母さんはなぜか機嫌が良かった。私に、いつもは飲ませてくれないジュースをくれた。おいしかった。 ありがとうって、お礼を言おうとしたら、めいっぱいに叩かれたんだ。 あんまり一瞬だったから、最初はどうしてほっぺたが痛くなったのかは分からなかったの。びっくりしてお母さんを見たら、とっても笑ってたの。……あとのことは、あんまり覚えてない。でも次の日は、いつもよりクラスの皆から避けられた、かな…。 「…お願いよ、飲んでちょうだい。なにも入ってないわ」 また、叩かれる……かな。でも、今はすごく喉が乾いてるから、いいかな……。叩かれても、いいや。 「……! ありがとう…、飲めて偉いわ!!じゃ、もう少し寝てちょうだい。貴女とは元気な時にたくさんお話したいもの」 女の人の声は私をとっても安心させてくれるもので、すぐにまた瞼を閉じちゃった。
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