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そこまで夜も更けてない時間に、その子は運ばれてきた(…と、いうか連れてこられた?)。 「なによ、この子」 「…治療を、お願いします」 私の問いかけには答えないそいつは、そんな都合良くおいそれと治療してやるとでも思ってんのかしら……この私が。 「私の質問に答えてないわ、浅川(あさかわ)」 「……、(まい)さん…」 「浅川。聞こえなかったかしら、私は聞いてるの」 浅川が運んできたのは、どう見たってまだ年端もいかない女の子1人。 ひどい傷。ざっと見ただけなのに痛々しさが伝わってくる。特にひどいのは右足首の切り傷。…あれはかなり深い。 「浅川」 「…………まだ、言えません」 「……なによ、そんだけ溜めてそれ? …興雅に問い詰めてやるから」 それから、浅川は黙ってしまった。彼なりに、興雅に忠誠を誓った証なのだろう。自分で聞いたが、浅川が口を割らないのは分かっていた。 「それにしたって……何でまた突然、こんな子供を…」 女の子の身体には申し訳程度にバスタオルが巻かれているが、あまり意味は成していない。ベッドに寝かされたその子の身体つきは見ただけでわかるほど細く、もちろん肉付きもよくない。…良くない、なんてレベルではない。 「舞さん、頼みます……何も聞かないでください」 「…いつも世話してやってんのに、なにそれ」 もともと柔らかくない浅川の表情が、一層かたくなる。 いじめすぎてもかわいそうだし、それに興雅に言われてやってんのよね、コイツも…。 「…はぁ、わかったわ。じゃあちょっと手伝ってもらうわよ。向こうにあるタオル濡らしてきて。乾いたままのもいくつか」 「…はい」 こんなの(この年齢の女の子は珍しいけど)、いつもの事なんだから、と気持ちを切り替えて動き出す。 まずはこの子を、治してあげなくちゃ。 「とりあえずいいわ、ありがとう。浅川、帰って大丈夫よ」 「いえ、それも連れて帰ります」 女の子の身体を拭いて清潔にした後、とりあえず右足首の応急処置をした。順々に傷のひどいものから手当てをしていき、最後に私の服を着せてベッドへと寝かせた。 「……は?」 一通りが終わり、手伝ってもらっていた浅川のする事もなくなったので声をかけたら、この返事。 それ? 連れて帰る? この状態の女の子を? ……どこに? 「……んた、………の……?」 「…舞さん?」 興雅が、そう指示したの……??! 「あんたバカなの!!? って言ってんの!!」 「…!」 「浅川あんた、今の今まで私手伝っててわからなかったの? この子、どう見たって今は動かしていい状態じゃないの! 足首の怪我が酷いから、きっとこの後に熱も出る。それも、ただの風邪じゃないから長引く。この子には今、休養が必要なの…! お願いだからわかって……っ!!」 ここは病院じゃない。私の自宅だから、重症化すればここでは対処できない。でも、浅川がここに連れてきたってことは何か事情をこの子は抱えてる。それは、この子の身体が物語ってる。……あの、尋常ではない全身の生傷が。 「この傷を、証拠にしてもいいのよ」 「………、?!」 「私は医師免許を持ってるの、浅川。弁護士に、今のこの子の写真と一緒に相談してもいいのよ」 「ま、舞さん…!」 これを言ったら、この人たちが何も言えなくなるのはわかってる。伊達に長いこと付き合ってない。 これでも……こんな人たちと付き合っていても、医師の端くれなの。この子を、放っておけない。……でも。 「浅川、スマホ貸して」 「…? なぜですか」 「安心して、弁護士に電話なんてしないわよ。どうせ興雅に治療が終わり次第戻ってこいとか言われてんでしょ。私が言ってあげるから」 「ご自分のから…」 「ばっかね。興雅、私の電話なんてそうそう取らないわよ。ほら早く、貸して」 浅川は、暫く悩んだらしいがすぐにスマホを取り出して私に手渡した。 案の定、興雅は電話にすぐ応じた。 『何をしてる浅川、早くもどって』 「興雅? 女の子、私がしばらく預かるから。体調が戻ったら連絡するから誰か寄越してね、じゃ」 興雅が何かを喋る前に(喋ってたけど)こちらの用件を言って、すぐに通話を終了させる。その後、浅川がきっと興雅から大目玉を食らうのでそれ防止に一言メッセージをいれ、浅川を帰らせた。 寝室に寝かせている女の子の様子を見に行くと、既に発熱しているようで、汗をかいている。 「新しい着替え、出しとこうかしらね…」 表情はとても苦しそうで、なんだか申し訳なくなってくる。 先ほど、この子の全身を拭っている時に身体を視診したがあの傷、恐らく浅川たちがつけたものだけではない。日常的な暴力がある。 どんな家庭事情なのかは大体の想像ができた。生傷だらけの身体、この子の年齢は分からないけど、決して良いとは言えない発育。家庭環境が関係していると見て、まず間違いない。 「う、ぅ……っ…」 本当に……すごくやるせない気持ちだ。今、私がしていることは私の判断だ。私が決めて、ここにいる。……興雅たちの面倒を見ている。 こんな子がここに運ばれたのだって、別に今日が初めてってわけじゃない。むしろ両手両足を足しても全然たりない。 「つらいねよ、痛いよね……」 額に手を添えてみる。こんなことしたって、今この子の意識はないし、症状が改善されるわけじゃない。…興雅たちがしたことの償いになる訳でもない。完全に、私のエゴ。 ……この子が、何をしたって言うの…ねぇ、興雅。 さっき、身体を拭いていたらこの子の体内から精液が垂れてきたわよ。理由を知らない浅川じゃないと思うけど、聞けなかった。 当たり前に自分の兄がこんな女の子を犯した経緯(いきさつ)なんて聞きたくない。 流石に浅川には出ててもらったけど、視診だけじゃ不安で、女の子の身体をすこし()た。 予想通り、生殖器裂傷とそれによる血液の付着があった。 「なにか、食べれるもの作らなきゃ」 興雅が、……自分の兄がしたことを、毎度こんな風に悩んでいたら仕方がないのはわかってる。 でも、なぜ、どうして、こんな女の子をって、思わずにはいられない。 罪悪感に似た感情を覚えながら、寝室を後にした。
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