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「おい、山下(やました)はまだ来ないのか…!」 暫く使われていないとある倉庫、そこに橋村(はしむら)の姿はあった。 今日が約束の日だ。何があってももうずらすことは不可能である。しかしもうかれこれ20分、橋村はその倉庫にいた。倉庫で、取引相手である山下という男を待っていた。 橋村の大きな取引先である山下。その素性は2期連続当選を果たし、今年もその勢いで出馬を目前に控えている国会議員であった。 「申し訳ありません…! ですがもう到着していてもおかしくはないので……」 橋村の部下が頭を下げる。橋村は怒らせるとそれは面倒なことになるので、どうにか機嫌を良く保っていてもらわねばならない。 橋村がここまで怒りを露にするのには理由があった。まず、取引において指定した時間にここまで遅れるという点が1つ。そして更に問題なのが、取引の内容物であった。橋村は、比較的大きな会社に勤めており、それなりの地位を築いている。しかしその勤め先というのが、界隈では知らぬ者はいない、闇社会にも精通したグループでもあった。その自らの所属先に3年前、内密に始めたのがこの麻薬密輸事業である。 大陸側でしか扱っていない薬を、大陸側のマフィアにわざわざ出向いてまで手にいれたルートを経由し、国内で捌く。 国内で扱いのごくごく少ない薬は、今回の山下のような連中に面白いほど売れた。山下は、橋村がこの麻薬の取り扱いを始めた頃からの常連客である。職業上、金払いが他の客とは段違いではあるが、国会議員という立場上、金とものの取引は直接、そしてとにかく慎重さが重要だった。 故に、山下が毎度の取引にここまで遅れた例は今まで1度もない。橋村が焦るのも道理だった。 この取引は互いにバレると社会的に死ぬより他の道はない。もし、山下側がこの件について暴露されたと仮定すると、芋づる式にこちらまで危害が及ぶ可能性がある。 加えて、闇社会に通ずる自らの所属先では、ボスの方針により基本的に橋村の行っているようなサイドビジネスは禁止であった。 ボスにまでバレたら最後、恐らくまともには死ねないだろう。何よりも、自らの利益を優先させるような男だ。会社や自分に少しでも不利益が降りかかれば、どうなるのかわかったものではない。これは比喩でもなんでもない。そう思わせるものが、ボスにはあるのだ。 「倉庫街入り口に車を確認しました。じきに到着するかと」 「やっとか…! くそ、遅すぎる…っ!!」 この倉庫だって、そう長くは使えない。リミットは、残り20分と言ったところだ。
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