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歩いていた堤防は、もう行き止まり。あと1,2歩、足を出したら海にどぽん。 こんなに濡れちゃってたら、もう海に入ったって変わらないかも。……あ、でも血が入ったらまずいかな…? でも、どうでもいいかな……。ふらふら歩きながら、家を飛び出すまでの記憶を思い出した。 お父さんをビール瓶で殴る直接のきっかけになったのは、お父さんの指が私の太腿に触れたから。すごい内側。それが原因で、感じた事のない悪寒が走ったんだ。お父さんの頭を殴ったビール瓶は綺麗に砕けて、倒れたお父さんの周りに散らばった。私の上に倒れてきたお父さんをどかそうとしてもがいていたら、右足の足首を破片で切っちゃった。 「…っい、た」 そんなに深くない…はず。でも血がたらたら止まらなくて、白い学校指定の靴下は赤くなっちゃった。 実は切れたその時には気付かなくて、走って走ってこの倉庫街に着いて、息が苦しくて下を向いた時に、気付いた。でももういいかなって。きっと、すぐに血は止まる。 「…今の私にぴったり、だな」 なんだか変に吹っ切れちゃって、ほら。家や学校だとうるさい気持ち悪いと言われていた独り言だって、自然に吐き出せる。 ……そう言えば、先生にも言われたな。独り言はやめなさい、って。でもね、違うんだよ、先生。私、別に独り言なんて言ってない。蹴り飛ばされて、強くて押されて、思わず口から出た「いたっ」という言葉。私の声が小さくて、更に言われたんだ。「は? 何言ってるのか聞こえねーよブス。独り言いってねーではっきり喋れや気持ち悪りい」。 …今思うとすごい理不尽の塊だったなって思う。小学校も中学校も、先生は助けてくれなかった。きっと、クラスの私に対する行いには、気付いてたと思う。 でも、勇気を振り絞って、相談したら返ってきたのが「独り言はやめなさい」。……そりゃ、ね。30人以上の子供をまとめるのだけでも大変なのに、更にいじめが…あるんじゃね…。それが、私1人が我慢するだけで保たれる平和があるんなら、ね…。 がたっ 突然、本当に突然。大雨なのに、私のところまで音が届いたのが不思議なくらいなのに。 堤防の脇には、コンテナがいっぱいある。赤とか、黄色とか、オレンジのコンテナが、たっくさん並んでる。今の音は、そのたくさんのコンテナの方からした。 なんだろう、なんだろう。気になる。すごい、音のした方へ行ってみたい。 ふと、空を見上げた。そこにはもちろん青空は広がってなくて、分厚い雨雲が覆ってる。次に、海をみた。大雨のせいで少し荒れていて、さっきはここに飛び込んでしまおうか、と思ってた。心配なんて、どうせ誰もしない。それは、きっとこれからも同じ。お父さんとお母さんは、私がいなくなってちょうどいいかもしれない。 私が、今ここで死んでも、誰にも迷惑はかからない。 じゃあ、最後くらい。私のしてみたい事をしたって、きっと、罰はあたらない。ううん、罰が当たってもいい。 最後に私は、自分のしてみたいと思ったことを、してみたい……!
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