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「………けほっ」 喉、まだ痛いや。ヒリヒリが止まんなくて、胸が苦しい。肺の中に、何かがつっかえているみたいな感覚。慣れないこと(家からあてもなく全力疾走すること)はしない方がいいな、と思う。 変わらず雨は強くて、こんなに濡れてしまったら、もう気持ち悪いとかもわからなくなっちゃった。パンツもキャミソールも、その下のブラも、洗濯した後みたいになっているはず。 今までの学校生活を思い出しながら、海辺の堤防をとぼとぼ歩いて、気付けばもう先はない。つまり海。 どんよりとした空を見上げて、ぶるりと寒さで震えた。 『お前、もう生理始まってたよな』 『……っえ…?』 『まんこ貸せ。早く』 『……っ、…??』 今日の、本当に30分くらい前のこと。 家に帰ると、お母さんはいなくて、代わりにお父さんがいた。靴を脱いだ時からブツブツって独り言を喋っているのが聞こえて、どうしたんだろうって思ってた。 そしたら突然、そんなことを聞かれた。本当に唐突で、お父さんの言っている意味がわからなくて。 なんでお父さんは生理のことを聞いたの? まんこってなに? お父さん、今日ちょっと怖い、 え…なんて、答えれば良いの…? 同じことが頭の中をぐるぐる巡って、口を開くのが遅くなっちゃって。気付いたら、私の身体は床の上に倒されていて。その上にお父さんが乗っかっていた。 目の前にお父さんの顔があって、口の回りには泡みたいなのがついていて、久しぶりに見たお父さんは、凄く怖かった。 しばらく、じーっと私の顔をみた後、お父さんの手はいきなり服の中に潜り込んできた。混乱も混乱、何が起こっているのか理解ができなかった。 意味がわからなくて、理解ができないままの私はまるで関係ないみたいに、お父さんの手が私の胸に触れた。 ぞわっ 『…?!』 さわさわと動きはじめて、今まで感じた事のない、変な感覚。ぞわぞわぞわぞわ。背骨を逆撫でされるような、決して、心地いいものじゃない。 気持ち、悪い。 なんで、どうしてお父さん。やめて、お願いやめて。怖いよ気持ち悪いよ、なんでよ、お父さん…! 声にならなくて、心の中で叫ぶけど、もちろん届かなくて、お父さんの手は止まらない。 『お前なんて…! 生まれて、こなければ……っ!!』 その時、お母さんの言葉が頭の中に再生された。今までずっと聞いてきた、心からの声。 はっきりと、「私」という存在の否定の言葉。 お父さんのしようとしている事が、なんとなく、その時わかった。学校の授業で習った。お父さん、今から「セックス」をしようとしてるんだ。 すごく気持ち悪い、やめてほしい。でもたぶん、嫌がったら殴られる。タバコだって押し付けられるかも。 『はぁ…はぁ……っ』 お父さんの息が、だんだん荒くなる。ぞわぞわって、気持ち悪い感覚がずっとあるけど、嫌がれなかった。どうしようも、できなかった。 もう、どうでも、いい。ここで、お父さんとセックスをしちゃっても、それで、妊娠しちゃっても。どうでも、いい。 私は迷惑なんだ。邪魔なんだ。なんの、役にもたてない。喜んで、もらえない。 私は、どうして生まれてきたんだろう。私は、なんで、ここにいるの。わからない、もう、なにも分からない。 お父さんの、手の、指の動き方が、だんだん激しくなって、なで回されて、もう、心になにも浮かばなくなった時。 ぞっ 無理、むり、無理……無理無理無理無理無理……無理っ…! 『…っ、……い、やぁあぁあぁぁああああ』 無我夢中って、今の私みたいなことを言うのかな。なんて、状況に対して私の中の感情は、私もびっくりするくらいに静かだった。 近くにあった、たぶんビール瓶。床に転がってたそれの飲み口が、私の方を向いていたのがラッキーだった。 手に触れたそれを掴んで、思いっきり、お父さんの頭を殴った。 はじめて、お父さん…というか、人を、殴ったの。それも、物を使って。はじめて、人を、傷つけた。 もういろんな事が一気にあふれて、どうしたらいいのかわからなくなって、息はどうしてか荒くなってて。 お父さんのこめかみに当たったそれは、飲み口の細い所から下がきれいに砕けてた。私の上に跨がってたはずのお父さんは床に倒れてて、動かなかった。 『……っひ』 どうしよう。死んじゃったかな、お母さん、いつ帰ってくるのかな。お父さん起きたらどうしよう、怒られる。殴られる、怖い、嫌だ、どうしよう、どうしよう。 ここにいたら、また……。 起きないお父さんを自分からどかして、急いで家を飛び出した。ただただ、家にいたらまずい。ここから離れないとって、思いだけだった。 行くあてもない。学校の往復以外は出歩かないから、どこに何があるのかもちゃんと分からない。でも、でもあの家にいたらまた……って考えながら、必死に、必死に走った。
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