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「…っはぁ、はあっ…! はっ…」 どれだけ走ったかわからない。今どこにいるのかもわからない。ただただ、雨の中を走ってる。 体育の授業でもこんなに走らない。もう喉と足が限界って言ってる。でもここで止まったら、追い付かれちゃうかもしれない。それはダメ、嫌。 「はぁ…はあ……げほっ…! 」 上手く息が吸えない。喉がひりひりする。ひざがちゃんと立ってくれない。もう、転びそう。 「…こ、こ…どこ……だ、ろう」 息絶え絶えに、捻り出した独り言。制服が、身体にはりついて気持ち悪い。どうしよう、こんなに濡らしちゃって。また、怒られる。叩かれる。蹴られる。嫌だな、でも、私がいけないから、仕方ないよね。私が、悪い子なんだものね。 コンクリートに叩きつけられる雨の音は、さっきからずっと強いまま。 全然意識しないで辿り着いた場所は、海辺の倉庫街。 学校の往復しかしない私は、ずっと同じ場所に住んでいるというのに、自分でも驚くくらいに土地勘がないらしかった。だって、ここは知らない場所。初めてきた所。 雑誌も漫画も買ったことがないし、家にTVもない。情報源は、学校でのクラスメイト同士の会話だけ。 頭の中では「帰らないと」って、思ってた。思ってたけど、ふと考えた。 私が帰らなくても、きっとお父さんとお母さんは心配しないし、逆にちょうど良いって思うかもしれない。そもそも、今日ってお母さん帰ってくるのかな。 家にお父さんしかいないんじゃ……ちょっと、帰りたくない。 「…ちょっと、だけ」 雨はまだ強く降っている。もう制服はびちゃびちゃで、下着も靴もぐちゃぐちゃ。きっと、明日はちゃんと乾いてない制服で学校に行くことになるけど、仕方ない。 私は、初めてきた倉庫街に、足を踏み入れた。
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