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第7話

「クロス…?」 「羽織、よく聞いて」  クロスは私を抱きしめたまま、私の耳に囁いた。  私はそっとクロスの背中に手を回す。 「夜の世界に生きるためには契約が必要なんだ。花嫁の契約という…契約が」 「花嫁の…契約…」  花嫁という言葉が、胸に響いた。 「花嫁の契約には必要なものがある。…君の血が、必要なんだ」 「私の、血…。私、どうなっちゃうの」 「そこで君は、人間じゃなくなる。僕と同じ、吸血鬼になる。その時から僕も、君も、太陽の下では動けなくなってしまう」  私はただじっと、クロスの話を聞いていた。  太陽の下では動けないとは、どんな感じなのだろう。  クロスは、そっと身を離した。  その顔を見れば、見たこともない、真剣な眼差しでこちらを見ていた。   眉を寄せるその顔は、痛みを堪えているようだった。 「羽織、君の大切な時間を、僕は奪うんだ。それでも、いいの?」  私は、その瞳を見ながら、大切なものが徐々に奪われていくとはどんなものなのだろうと、思いを巡らせていた。   この人の笑顔を、もう太陽の下で見ることができない。  日に透ける髪を撫でることも、なくなるのだ。  だけど、今、この時を拒絶してしまったら、もうこの人の笑顔には会えない。そんな気がした。
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